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   鳥インフルエンザ [2007年1月]
                              -講演会聴講レポート in 宮崎大学
宮崎県で2例目の鳥インフルエンザが確認されたことなどを受けて,人や動物の感染症研究をされている研究者の方による鳥インフルエンザに関する講演会が,宮崎大学の主催で週末に開催されました.

1例目の清武町の事例は,私の通勤路の側にある鶏舎でしたので,その発生直後から警察・関係機関・マスコミなどの慌ただしい様子を目撃していました.それに私個人の「水」との関わりで思うところがありましたので,時間をとってこの講演会に参加してきました.


まずは,宮崎大学の堀井洋一郎教授から平成17年から全国16大学で構成する「新興・再興感染症研究ネットワーク」のことや,このネットワークで精力的に行われている研究のことなどの簡単な説明がありました.
その後,鳥インフルエンザに関連する3つの講演がありました.


○「高病原性鳥インフルエンザウイルスとは?」芳賀 猛助教授:宮崎大学農学部獣医学科

 鳥インフルエンザウイルスそのものの構造や特徴などを,豊富なイラストを用いてわかりやすく説明されていました.
簡単にまとめてみます.

インフルエンザウイルスは大きくA型,B型,C型の3種類有り,問題を引き起こしているものはA型である.

A型のウイルスには主にヘマグルチニン(HA)と,ノイラミニダーゼ(NA)と呼ばれる2つの突起がある.
この突起の種類がHAには16種類,NAには9種類ある.
この突起の組み合わせ毎に,動物に対するくっつきやすさが変わる.またそれぞれの動物に対する毒性も変わる.
鳥にとくにくっつきやすいインフルエンザを,いわゆる「鳥インフルエンザ」という.
カモは,これらほとんどの種類とくっつきやすい.しかも毒性はなくウイルスが入っても病気にはならない.つまり共生関係にある.


「高病原性」とは,鶏などのある種の鳥にとっては,とても病気になる確率の高いウイルスのこと.
決して「人間」を指すわけではない.ここでの誤解が多い.
この高病原性インフルエンザウイルスの型はH5型とH7型である.ただし,病気の度合いが強い物と弱い物がある.
これらのウイルスの型はヒトには取っつきにくい形をしているので,感染することはほとんど無い.

こういったウイルスのもつ特徴をわかりやすく説明していました.


○「ヒトへの影響は?」岡山 昭彦教授:宮崎大学医学部医学科

次に,ヒトへの影響という観点で,インフルエンザウイルスの特徴やこれまで確認されているヒトに感染したときの状況などを説明されました.

まず「インフルエンザ」というときに,今3種類の言葉が混在して使われているので,混乱している傾向にある.
1.通常のインフルエンザ
2.鳥インフルエンザ
3.新型インフルエンザ

1.通常のインフルエンザ
 冬から春に流行するいわゆるインフルエンザ.通常,すでに感染しているヒトの飛沫から感染し,急激に症状が現れる.
初めに熱が高くなり,少し遅れて喉・鼻に来る.健康な人ならば約1週間で沈静化する.

2.鳥インフルエンザ
 鳥にくっつきやすいインフルエンザ.とくに鳥に対する毒性の強い物を高病原性鳥インフルエンザという.
 これまでにヒトに感染した例は230例ほどある.
 タイや中国,ベトナムなどに多く,これらの地域では鳥とくに鶏との接触が濃密なところ.
 とくに感染した人の多くは,闘鶏に関わっていた.闘鶏では勝負に勝つととても高額な賞金を手にすることができるため,闘鶏用の鶏はとても高価. その鶏が病気になったとき,看病のために一緒に寝たりすることも頻繁にある.そういう状況で,インフルエンザにかかった鶏の糞や,胆などを体内に入れてし まうことで感染してしまった.一度ヒトに感染すると,他のヒトにも伝わりやすくなる.230例の感染者の内,死亡者は130人と毒性が強い傾向にある.


3.新型インフルエンザ
 突然変異によってヒトにくっつきやすくなったインフルエンザウイルスのこと.
今のところ,いわゆる鳥インフルエンザの新型インフルエンザへの突然変異は確認されていないので,架空の存在である.


このような事をわかりやすく説明していました.



○「日本と東南アジアでの発生はどう違うの?」末吉益雄助教授:宮崎大学農学部獣医学科

 最後に,ヒトへの感染例が多い東南アジアと日本との環境の違いを説明していました.
とくに今回の清武町の事例,日向市の事例の特徴,これまでに発生した京都や山口,茨城の事例の感染経路を説明し,東南アジアの事例とは全く異なることを強調していました.


約30名ぐらいの一般の方もこの講演に聞きに来られていて,熱心に質問していました.
やはり関心は,ヒトへの感染が本当にないのかどうか,そもそも鳥インフルエンザを発生させないようにすることはできないのかどうかという2点に集中していたと思います.
そして,ヒトへの感染はほとんどないということの理屈と,そもそも発生を抑えることはとても難しいと言うことの理屈を皆さんが理解されていたようです.
そうして,一般の人が正しい知識を持つことのできる機会をもっと増やして欲しいと言うことをおっしゃっていました.



こういった講演会は,地方大学の役割の一つであると感じましたね.
それに私も宮崎に居住し,「農学部」に在籍しているということで,時々関連する事柄への質問を受けることがあります.ただ専門が違うということでそれに無関心でいることはできないなっということを今回の事件で感じました.

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