(1)地球温暖化現象とは-現象とその影響について-
地球温暖化とは、人間の活動が活発になるにつれて「温室効果ガス」が大気中に大量に放出され、地球全体の平均気温が急激に上がり始めている現象のことをいう。大気中に微量に含まれる二酸化炭素(CO2 )、メタン(CH4 )、亜酸化窒素(N2O )、フロンなどが、温室効果ガス(Green House Gases :GHGs )といわれている。 過去100 年間に地球全体の平均気温は0.3 〜0.6 度と急激に上昇しており、現在のペースで温室効果ガスが増え続けると、2100 年には平均気温が約2度上昇すると予測されている。
地球規模で気温が上昇すると、海水の膨張や氷河などの融解により海面が上昇したり、気候メカニズムの変化により異常気象が頻発するおそれがあり、ひいては自然生態系や生活環境、農業などへの影響が懸念されている。具体的な影響として、現在以下のようなものが考えられる。
1.水資源 〜ますます深刻となる水不足や水被害〜
水資源は現在でも地域的に多寡があるが、地球温暖化により気候が変動すると、乾燥地ではさらに干ばつが進み、雨の多い地域では洪水が増加するなどのために、水需給のバランスが崩れ、水資源の格差が世界的に拡大するおそれがある。また水資源の変動は、人の生存そのものはもとより農業などにも大きな影響を及ぼすと考えられる。
2.自然生態系 〜絶滅する種が増える〜
植物はそれぞれに適した地域に生息しているが、温暖化すると北または高地に移動しなければならなくなる。樹木が種子をとばして分布を広げる速度は、40m/ 年から最高でも約2km/ 年と言われ、温暖化により約1.5 〜5.5km/ 年で移動する気候帯には追いつけずに行き場を失い、絶滅するおそれがある。
沿岸域の低地には、多くの人間が居住しており、また動植物にとっても重要な生息場所となっている。しかし、地球規模で気温が上昇すると、海水の膨張や氷河などの融解により海面が上昇し、沿岸域の低地に対して、水没、海岸侵食、淡水帯水層への塩水の進入などの影響を及ぼす。標高の低い南国の小島や、広いデルタ地帯をもつ国では、国土の消失や台風・高潮の被害の増大などの、深刻な影響をもたらすことになる。日本では、温暖化により海面が1m上昇すると、海面(満潮水位)以下の地域が2.7 倍(2,300km2 )に拡がり、人口410 万人、資産109 兆円が危険にさらされるといわれている。
4.人の健康 〜死亡率や伝染病危険地域が増加する〜
地球温暖化により、夏季に気温が高くなる頻度と期間が増加すると、熱射病などの発生率や死亡率が増加するおそれがある。特に高齢者の死亡率が増加することが分かっている。
また、死亡率の高い熱帯熱マラリアが、従来からいわれていたよりも低い気温(最低月平均気温13 ℃)でも流行するという最近の調査結果もあり、最悪の場合、2100 年には中国北部、韓国、西日本一帯までが流行危険地域に入る可能性がある。その他、デング熱などの北上も予想されている。
5.公害との複合影響 〜温暖化は公害を加速する〜
毎年夏になると光化学オキシダント、いわゆる光化学スモッグにより、目や喉の痛みなどの被害が発生している。気温上昇は大気中の光化学反応を加速するので、温暖化した場合、多くの都市で光化学オキシダント濃度が増加し、健康影響が拡大すると予想されている。
この他にも、水質汚濁など、さまざまな公害の影響を助長するおそれがあると考えられる。
6.影響の度合い 〜地球温暖化の影響は不公平である〜
地球温暖化の影響は、どこでも同じように現れるわけではない。気温の上昇は高緯度地域ほど大きく、降水パターンは細かく変化し、しかも地域による差が大きくなると予測されている。突然の冷害や局所的な異常降雨、異常乾燥なども増加するおそれがある。
特に、経済的、技術的事情から対応策が講じることが難しい開発途上国において、より影響が大きいと考えられる。
(2 )CO2 を増加(供給する)させる要因
人類の生産活動が高度化し、生活水準が向上したため、石油類、天然ガス、石炭などの化石燃料の消費が益々増大している。化石燃料の燃焼過程からは二酸化炭素や亜酸化窒素などが大量に発生し大気中に排出される。そのほか、人間をはじめとした陸上に生息する生物の呼吸やバクテリア類による物質の分解作用などからも二酸化炭素は発生する。
人為に基づく二酸化炭素の主要な発生源は、化石燃料の燃焼と土地の利用形態の変更(森林破壊)に類別できる。
1980 年から1989 年の期間における化石燃料の燃焼とセメント生産による炭素排出量の平均量は、5.0 〜6.0GtC/ 年であった。(GtC は、炭素換算で10 の9 乗トン)今日では、二酸化炭素の排出量増加のスピードが速く、排出量に見合っただけの量を自然環境が吸収しきれない。人為的な二酸化炭素の排出量の約4 〜5 割が、排出量と吸収量の差分として大気中に残留し、大気中の二酸化炭素濃度が増加する。森林を破壊することはすなわち吸収源を破壊することであり、大気中の二酸化炭素の一層の増加をもたらす。
土地利用の変更(森林の破壊など)は二酸化炭素の発生源でもありうる。
森林を潰し他の用途にあてる土地利用の変更では、樹木の焼却や廃棄による二酸化炭素の放出と同時に新たな建築材の利用により炭素の固定をある期間維持することになる。単なる森林の伐採では、伐採前の生態系が伐採後の生態系より多くの炭素を貯蔵していることが多く、その場合、両者の差だけ二酸化炭素が大気に放出される。おおまかにいって、森林の破壊は二酸化炭素の吸収源を破壊するだけでなく発生源となりうるのである。
(3 )CO2 を減少させる要因(物質、現象)
二酸化炭素の吸収源として最も重要な働きをしているのは植物による光合成である。その際に、植物は空中の二酸化炭素を吸収し、炭素同化作用により酸素を放出する。森林の破壊はすなわち吸収源の破壊であり、最終的には二酸化炭素の増加をもたらす。また、海洋へ融け込む二酸化炭素もある。海洋も二酸化炭素の大きな吸収源である。産業革命以前にも、人類は森林を伐採し燃料などに使ってきたが、それは極めて緩慢なものであった。従って大気中に放出された二酸化炭素はすべて海洋に吸収されていたと見られる。しかし、産業革命以来、化石燃料を燃焼し、森林を伐採したため、大気中の二酸化炭素総量の1 %に当たる量を毎年放出するに至り、海洋の吸収が追いつかなくなった。そのため、急激な二酸化炭素濃度の増加をみることになったと考えられる。
(4 )CO2 を減少させる対策。方法
1 )一般的対策
二酸化炭素の排出には2 つのパターンがある。一つは産業などの集中型発生源からのもの で全発生量の25 %を占め、もう一つは、家庭や自動車などの分散型発生源からのもので全発生量の75 %に当たる。前者に比べ、後者については対策が難しいが、ライフスタイルの転換など各種の対策に加えて、バイオ技術などを導入し、光合成などの生態系の物質循環に人間が積極的に関与するなど、様々な手法による対策を進める必要がある。
二酸化炭素の増加を防止するためには、排出の抑制・削減と、既に排出された二酸化炭素の回収・再固定化の2 つの方法が考えられる。
二酸化炭素の排出を抑制するには、化石燃料の消費を抑制するのが最も効果的である。しかし、消費を抑制するためには同時に安価な代替エネルギーの開発を進めるとともに、国際的な合意のもとで不公平のないように、環境税のような経済的手段を導入したり、先進国と途上国とが協力して対策を進めるような手法の開発が重要である。
代替エネルギーとして、太陽エネルギーを直接利用したり、水力、風力、波力、バイオマスなどの太陽起源のエネルギーの利用、あるいは安全性の確保を前提とした原子力の利用によって二酸化炭素の排出量を抑制・削減することが可能である。この場合、代替エネルギー施設の建設から廃棄までのライフサイクルの中で消費するエネルギーの総量よりも、そこで生み出すエネルギーの総量の方が大きくないと効果はない。
大気中に拡散した二酸化炭素を回収するのは非常に困難であり、森林の増加などの生物の働きによるほかはない。火力発電所など発生源の近くの高濃度の二酸化炭素は比較的回収しやすいといわれており、回収した二酸化炭素の深海底への貯蔵などの可能性が検討されている。人為的に固定を行う場合には、要するエネルギーの少ない方法で、容易には大気中に戻ってこない場所に大量に固定する必要があり、今後の研究課題である。
2 )地域環境工学に関連する対策
われわれ地域環境工学の分野では、食料生産の場で発生する二酸化炭素に着目してその対策を考えていくことができる。
従来の農業では、収穫量を増やしたりするためには、農業機械や化学肥料、殺虫剤、殺菌剤などを多用する手法が重視されたが、こうした手法は化石燃料を大量に消費し、二酸化炭素の発生量を増やすとともに、土壌を疲弊させる結果となった。そこで、これからは、化石燃料の消費を押さえた農業機械の開発、作業効率の良い圃場の整備、化学的手法に代わって微生物や自然界の食物連鎖の仕組みなどを応用して施肥や防虫を行う有機農業などを積極的に取り入れていく必要がある。
消費者がなるべく各作物の旬に、多く消費するよう呼びかければ、エネルギーの消費は少なくなり、二酸化炭素の削減に寄与できる。季節はずれの生鮮食料を食べるためには、ハウス栽培や遠方から輸送するなど、多くのエネルギーを消費し、最終的には二酸化炭素の量を増やすことになる恐れがある。それぞれの季節の旬の生鮮食料品は、量も豊富で栄養価も高いので、なるべく各作物の旬に、多く消費するようにすれば、エネルギーの消費は少なくなり、二酸化炭素の削減に寄与できる。
また、食料生産としての農業とは別に、バイオマスとしての農業を成立させることも考えられる。バイオマスとは植物の光合成の結果などでできる炭水化物で、もとは太陽エネルギーである。太陽エネルギーと二酸化炭素を取り入れて行われる、植物の光合成の結果である炭水化物をエネルギーとして利用しよう、というのが基本的な考えである。こういった考えの基で、光合成効率の高いさとうきびやとうもろこしなどのきび類を生産し、太陽光の1 %程度をバイオマスとして蓄えることができる。しかし、燃料としての品質が低いので、実際にはさらに醗酵させてエタノールに精製したりして活用するうえ、含水率が高く、燃焼時に水の蒸発にもエネルギーが費やされるため、総合的な効率は低くなる。また多くの農地を燃料用に使わねばならず、同じ面積の太陽電池の方が効率がよい場合もあるなど問題点も多い。
バイオマスから必要とするエネルギーを得ようとすると、エネルギープランテーションとして地球の面積の5 %以上を利用しなくてはならないとする推計もある。これは、全陸地面積の6 分の1 以上に当たる。世界の森林面積は陸地のおよそ3 分の1 であるから、バイオマス生産にその半分を使うことになる。森林を農地化してバイオマス生産に使うと森林に蓄積されていた炭素の半分が放出され、大気中の二酸化炭素はむしろ増える恐れもある。ブラジルのように植物の生産性が高く広大な面積の土地を有する国、スウェーデンやノルェーのような人口が数百万人しかいない国など、エネルギー消費量とバイオマス生産量とが特殊な関係にある国においてはバイオマスの利用に可能性がある。しかし、日本やヨーロッパ主要国のエネルギー消費を国内のバイオマスでまかなうということは、農地の確保ができずほとんど不可能であると考えられる。
(5 )植林によってCO2 は減少するか
広い領域で森林破壊が進めば、生物圏の二酸化炭素吸収源としての活動能力は低くなり、より多くの二酸化炭素が大気中に残留する。逆に森林の再生は、生物圏の活動を活性化させ大気中に残留する二酸化炭素は少なくなる。したがって新たな二酸化炭素の発生を抑えるという意味で、有効な手段である。
森林などの地上の植物は炭素の短期貯蔵庫であり、光合成で固定する炭素と、腐敗・分解によって放出する炭素の量とはほぼ均衡している。大気中の正味の二酸化炭素を減少させるためには、植物の量そのものを増加させる必要があるが、新たに緑化可能な面積で固定できる炭素の量は、人類の化石燃料の消費量と比べて少ないものである。しかし、地球をあげて造林に取り組むことは、人類が地球環境問題に取り組むための連帯意識を強め、環境への理解を深めるための重要なモチベーションとなると考えられる。
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