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   -宇和海の真珠母貝大量斃死について- [1998年]

 平成8年から約2年に渡って養殖中のアコヤ貝が大量に斃死し、真珠養殖業に深刻な影響を与えている。この原因として、これまでに異常高水温、餌不足などを主因とした環境要因説、寄生虫、真菌、細菌、ウイルスなどの病理的要因説、有毒プランクトン説などがあげられてきた。なかでも付近の海域でトラフグ養殖などの寄生虫駆除剤として使用されたホルマリン説を押す声が大きく、トラフグ養殖業者とのトラブルも起きている。

 この大量へい死では、夏から秋にかけて閉殻筋が赤褐色に着色し、閉殻筋や外套膜に組織異常がみられる個体(赤変異常貝)が発生し、これらの多くが急激にへい死した事例が多く、これは過去の大量へい死にはみられない特徴であった。

 あげられている原因の中で環境要因説については、平成9年夏季に高水温や餌料プランクトン量の低下がみられなかったにもかかわらず大量斃死がおこっていることから、考えられなくなった。

 ホルマリン説については、アコヤ貝や餌料プランクトンに有害であることははっきりしている。しかし、今回の大量斃死との関連については、トラフグ養殖の行われていない漁場でも斃死が起こっている。また、ホルマリンを使った実験では貝柱の赤変はおこらず、さらに、組織観察においても症状が全く異なっていることから直接的要因ではないと考えられる。

 病理的要因説については、養殖現場で斃死漁場が徐々に広がっていること、あるいは斃死が起こっている漁場に新たに健常貝(稚貝)を入れても、やはり数ヶ月後に斃死がおこることから、何らかの感染症が疑われている。また、斃死したアコヤ貝のすべてに外套膜での組織異常が観察されており、これらはウイルスなどの感染症により引き起こされた可能性が高いと考えらる。

 有毒プランクトン説についても、餌料性植物プランクトンの中毒症あるいは栄養障害により外套膜での組織異常で起きる可能性がある。

 原因究明が急がれているなか、東京水産大で開かれた日本魚病学会で、対馬水産業改良普及所(長崎県)のグループが「対馬でのアコヤ貝のへい死は、えさ不足や高水温などでなく、四国からの真珠母貝の移入で起こった」と報告した。同グループは貝柱の赤変化の程度を4段階に分類し疫学的調査を実施した上で、同所での大量へい死の発生時期を平成8年の8月とし、同年春に島外から持ち込まれた母貝が原因と報告した。

 また、ウイルスの関与を指摘していた高知大の鈴木聡助教授は、国際魚病シンポジウムで「大量へい死は、弱体化したアコヤ貝内で日和見ウイルスが活性化して起こった可能性が高い」との研究結果を発表した。日和見ウイルスは、海水に一般的に存在し通常、宿主と共存、ストレス(負荷)により宿主の健康が損なわれた場合に発症する。同助教授はアコヤ貝の日和見ウイルスを、ビルナウイルスと特定し「JPO―96」と名付けた。学説の証明に必要とされる感染実験にも成功している。

 水産庁養殖研究所では、へい死の主原因の可能性が高いとされる感染症の病原体として、新たに寄生性原虫類(単細胞の原生動物)の関与の可能性が強まったとする見解を明らかにした。感染症の病原体の1つとされているウイルスは未確認ながら未知のものも想定、原虫類とともに関係機関で引き続き調査研究されている。感染、発症メカニズムの解明や予防についての調査研究もおこなわれている。三重県の養殖研究所の緊急調査対策研究担当者会議で取りまとめられた。それによると、カキなどの2枚貝の病原として世界的に知られる寄生性原虫類(パーキンサス属)が異常アコヤ貝の組織中にも存在していることを、同庁南西海区水産研究所がDNA反応や電子顕微鏡観察で確認。へい死アコヤ貝と、原虫類によりへい死した海外の二枚貝の例を比較した結果、病変組織などの特徴が類似していることから関与の可能性が高いと判断した。

 このような研究報告から病理的要因説のウイルスによるものが、その主な原因だと考えられるようになってきた。

 しかし、有毒プランクトン説についても、まだ可能性が否定させたわけではない。現に四国大学短大部の西尾幸郎教授=化学=らのグループが、有毒プランクトン説をほのめかす研究成果を日本水産学会で発表している。これは、貝柱が赤変化しているアコヤ貝の貝殻表面に植物プランクトンの一種とみられるグリーンボール(仮称)が多数付着していたことによる。西尾教授は「熱帯性の生物が侵入し、陸上植物の外来種と同様、一気に広がった可能性もある」と指摘。「へい死との関係はまだ確証が得られていないが、アコヤ貝がグリーンボールのせい息している環境下にあるのは確かだ。関係を詰めるためには、貝の体内にも侵入しているのかを遺伝子染色などで確かめる必要がある」と話している グリーンボールは緑色で直径約35ミクロンの球状。菌糸状の細管を成長させ、その先端に新たに細胞を形成して増殖する。

 今後の原因究明が待たれるところである。病理的要因ウイルス説にしろ、有毒プランクトン説にしろ病原体を特定できれば、殺菌を十分におこなうなどの対策により、斃死の予防効果が期待できる。しかし、病原菌がすべての原因ではなく、養殖海域の環境悪化や過密養殖などにより、斃死が促進されたとも十分に考えられる。したがって今後同じ様に深刻な事態を招かないためにも、養殖環境そのものを見直す必要がある。

 

参考文献

  • 三重県水産試験場.アコヤガイの閉殻筋赤変化を伴う大量へい死に関する研究

・大分県水産試験場

. AQUA NEWS No.4 1998年3月発行

 

新聞記事

  • 愛媛新聞.1997年 6 月 5日
  • 愛媛新聞.1997年12月18日
  • 愛媛新聞.1998年 3月11日
  • 愛媛新聞.1998年 3月31日
  • 愛媛新聞.1998年 4月 4 日
  • 愛媛新聞.1998年 4月28日

 

  • 中部新聞.1998年10月24日

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