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   ―水のサイクル― [1997年]

 この地球上に存在する水の総量は、地中に地下水として存在する水も含めると約1.4×10^9km^3におよび、形態を変えながら地球上を循環し、人間の生活と関わっている。水は大量に存在すれば、洪水となって人間生活に害を与え、また少なすぎると人間の生活は成立しない。したがって人間との関係を成立させるには常時一定の範囲の量の存在が不可欠である。そして人間は、この一定の範囲内にある水を利用することによって生活を維持し、発展させていくことになる。

 水はそれ自体人間の飲料として生命の維持に役立つほか、地表面のくぼみを満たして形成した海洋または湖水と自らの流れの営力で形成した河川において、運搬ルート、レクリエーションの場を提供する。さらにこの海洋、湖水、河川に生息する漁貝類などが、人間自らが栽培する農作物とともに人間にとっては貴重な食料源となる。また循環の途中、液体として地表面を流動する過程ではエネルギーの発生源として利用され、さらにレクリエーション、修景などの面において、人間の生活環境を快適にする要素として作用する。

 地球上に存在する水は、その存在場所は一定ではなく循環移動している。たとえば氷河は雪が氷に変わり、氷の状態で存在しているが、極めてわずかながら移動しており、また気温上昇による融解作用などもあって、長い年月の後海洋に還る。また河川や海洋の水は蒸発や地下浸透の後、いったん雲や地下水となり、流動した後は降雨や雪、泉など次の経路に移る。このように水は地球上を移動しており、一定の期間で態様を変えていく。これが水の循環であって、どのような態様であれ、水の存在量を通過量で除すと水のその態様での滞留時間、すなわち水がその態様を変えて次の態様に移るまでの平均時間、循環日数が求められる。この循環日数については、いくつかの推計が行われている。ある試算値では、海洋の水が一回完全に入れ替わるには3200年、また氷河、氷山は12,200年、湖沼の水は3.4年、土壌中の水分が2〜5週間、河川の水が12日弱、大気中の水蒸気が12日、地下水が650年となっている。

 地球表面と大気中の水蒸気との間では、海洋と大気中の水蒸気の間の循環量が全体の80%近くを占めているが、大気中の水蒸気から地球上への移動、すなわち降水量についていえば、陸地への降水量は全体の22%で、陸地の全地表面積比(約30%)を考えれば、陸上への降水は海洋に比べて相対的に小さい。  

 モンスーンアジアに属する日本列島には、約1,800mm/年の降水がある。これは世界の陸地の平均値670mm/年に比べて非常に多い。1年間に我が国に降る1,800mmの水、体積にして約6,700億m^3の水は地表面で蒸発散、直接流出、地下水への涵養の三つに分かれる。蒸発散による損失は650mm/年となり、短期間に流出する不安定な成分の直接流出が750mm/年となる。降水から蒸発散と直接流出を除いた400mmが基底流出で、地下水で養われている河川の安定的な流出成分である。我が国の水資源を考える上で、この400mm/年に依存して水田耕作が成立しているという事実は重要である。

 これが年間に降る1,800mmの水のマクロな流れであるが、このうちで人間に利用されている水は、農業用143mm/年、工業用36mm/年、上水道用25mm/年である。地下水の用途別水需要量の割合は農業用6.2%、工業用47.0%、上水道用36.3%である。工業用水源として地下水がこのような高率を占めるのは我が国だけである。

 最近では、都市域の人口の増加、豊かさの向上等によりますます水需要が伸びつつある。しかし、供給する水の存在量は限られたものであるため、このままの利用し続ければ深刻な水不足を引き起こすのは必至である。 人間が水を利用しようとすれば、自然の循環過程にある水の動きを人為的に変えていくことになる。社会の自然環境への関心が高まるなか、新たな水源開発が困難になりつつある今、改めて地域の水の循環機構を熟知し、これからも水を利用し続けることのできる環境を整えていく必要がある.


参考文献 

  • 山本荘毅、高橋裕:水文学講座 図説水文学,1987,共立出版, 
  • 榧根勇:水文学講座 水の循環,1973,共立出版

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