--卒業論文要旨--


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半乾燥地帯の流出特性とモデルによるその考察



T.はじめに
 我が国のような降水量が多い地域の流出特性は、研究が盛んに行われある程度明らかにされてきた。しかし世界的な視野で見たとき、このような地域はきわめて珍しいものであり、雨季と乾季をもつ半乾燥地の方が遙かに多く存在している。そのほとんどが発展途上国であり、水資源問題が最大の焦点になっている。こうした半乾燥地域の流出特性を明らかにすることは、途上国の水資源開発計画に大きく役立てられる。本研究では、中米に位置するホンデュラスで得られた水文データに基づいて半乾燥地流域の流出特性を明らかにする。

U.流域概況
 ホンジュラス共和国は、Fig.1に示すように中南米地峡のほぼ中央に位置し、北はカリブ海、南は太平洋に面している。中米諸国ではもっとも山地が多く国土全体の65%を占め、600〜1,500mの高原地帯が全国各地に散在している。
 本研究の対象流域であるRIO HUMUYA川周辺の地域は、この国のほぼ中央に位置している。(Fig.2)HUMUYA川は、南から北へと流下し急峻な山脈とその間に横たわる多数の小さな盆地や谷底平野からなる中央高地地帯を流下する。流量観測は、谷のせまった地点(LA ENCANTADA)で行われている。対象となる流域面積はおよそ2,100kuで、4カ所の雨量観測データと1カ所の計器蒸発量データが利用可能である。

V.降雨および水収支概況
 この地域の月降雨量と可能蒸発量をTable.1に示す。連続的に約6ヶ月間雨が続き、残りの6ヶ月はほとんど雨が降らない。蒸発量は月平均130mmほどあり、蒸発量が卓越している。暦年を対象として、各観測年の降雨量、年流出量、年流出率、計器蒸発量と、年蒸発散量、年蒸発散比をTable.2に示す。この表によると、本流域の流出率は15〜40%と極めて小さく、年降雨量のおよそ2/3が蒸発散量として失われている。しかし一方で年蒸発散比は0.3と低く蒸発が抑制されていると考えられる。

W.流出モデルとその考察
 Fig.3に1980年の流出ハイドログラフを示す。これから乾季に雨がないため流出高は0.05mm/dにまで減少しているのがわかる。我が国の平均渇水量約1mm/dと比較すると1/10〜1/20程度である。また大きな流域であるにもかかわらず降雨に対して比較的敏感に流出が応答しているのも特徴的である。
 さらに詳しく流域の特性を解明するために流出現象をモデル化し考察する。モデル手法として、本流域は流域面積が広く、長期にわたる流出現象を対象とするため菅原のタンクモデルを用いた。タンクモデルは構造をうまく定めれば、それから算出される流量と実測が良く一致し、非線形的要素もうまく再現できる。本研究では数学的最適化手法の一つであるSP法を利用し、パラメータの同定を行った。
 まず標準的に用いられる直列4段モデルの計算ハイドログラフをFig.3に示す。これを見ると雨季の流出ピークは比較的良く再現できている。しかし乾季末期には、流出高を過小評価している。またその直後の流出を過大評価している。一般に流出の減水部は、流域の蒸発散特性および地質特性に強く影響される。そこで減水部に両特性と関わりの深い逓減曲線の概念および基底流出を表すタンクを加え全5段とした。
 さらにタンクモデルでは一般的に可能蒸発量に経験的係数を乗じて蒸発散量を取り扱う。蒸発散は流域の乾湿の影響を受け、降水量の減少とともに蒸発散比も減少すると考えられFig.4にもそのような傾向を認めることができる。このことは雨季と乾季で流域の蒸発散比が大きく異なる事を示唆している。そこで蒸発散比を流域貯水量の関数とし、Fig.5に示すLogistic曲線を定めあわせてモデルへ導入した。改良モデルによる流出高をFig.6に示す。全体をうまく再現できている。

X.まとめ
 本研究で半乾燥地に位置する RIO HUMUYA流域の流出特性を解明した。得られた結果は以下の通りである。1.大流域にも関わらず応答が敏感であった。2.雨季と乾季が明確にありその影響が流出にも現れていた。3.乾季に蒸発散が抑制され、流出にも深く関与していた。4.一連の特性をモデルにより評価することができた。 



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