Step by Step

2021年6月6日 


お話「ウイルスと細菌の戦い」

細菌もウイルスに感染

人は結核菌という細菌に感染して病気になりますが、そういう結核菌なんかにも感染するウイルスがあるんです 。
別のもっと一般的な例では、 人の腸内細菌として「大腸菌」がたくさん住んでいますね、この大腸菌に感染するウイルスがいるんです。知ってますか?

ファージ

現在の高校生物の教科書にも載っていて、 細菌に感染するウイルスのことを、別名で「ファージ」という。大腸菌には「T4ファージ」という種類のウイルスが感染します。

形は滑稽で、宇宙人とかエイリアンのような。 頭があってその中に自分のDNAを持っていて、足があって、 細菌の表面に立ち、おしりから管を出して細菌の中に差し込む。そして頭の中にあるDNAを細菌の中に入れてしまう。信じられますか?

細菌の中では、このDNAを翻訳してウイルスのタンパク質が作られ、たくさんのウイルスが製造される。その後ウイルスたちは細菌から飛び出して他の細胞に次々と感染する。

ウイルス

地球上には人に感染するウイルス、動物に感染するウイルス、植物に感染するウイルス、微生物や細菌に感染するウイルス、夫々たくさんの種類が存在していて、まだ未発見のものが無数にあるいわれています。

ウイルスには、脳みそはないし、思考回路は存在しません。単なるタンパク質で構成された化学物質なんです。 食事もしないし、息もしないし、自己の複製もできない。 でも、自分を複製するためのプログラムが書いてある DNAを持っている。

T4ファージは足があるが、歩いているわけではなく、液体中に漂って足つまり繊毛を動かしてあちこちに移動する。 大腸菌に出会うと足をくっ付けて立ち、仕事を始める。そんな風にプログラム化されているだけで、意思があるわけではありません。

生命体

人も細菌も同じレベルの生命体です。 人が体の中でタンパク質を作り出すしくみは、大腸菌が細胞内でタンパク質を作り出すしくみと全く同じ! 人も、動物も植物も、微生物も細菌も、みんな同じ。

ウイルスは例外で、自分でタンパク質を作る機能を持っていない故、ウイルスは生命体とは定義されていない。しかし、生命体の中から不要なものをそぎ落として身軽になり、他の生物に寄生して増殖し、太古の時代から進化し続けている。現に、数量的には地球全ての生物の数を凌ぐウイルスが繁栄している。

参考 「ファージセラピー」

昔、抗生物質が発見される前の時代に、ある細菌があるウイルスで死ぬことが分かっていたらしく、「ファージセラピー」という医療の方法があった。人の体に細菌感染したときに、その細菌を殺すウイルスを研究者して発見し、患者にウイルスを与えて細菌感染を治療するというもの。 今ではこのセラピー療法はすっかり忘れられている。

抗生物質が発見されてからは、抗生物質が「万能薬」としてどんな細菌も殺してくれる。医者にとっては、細菌を殺すウイルスを探さなくてもすむようになった。抗生物質は強力な武器ですが大きな欠点もあります。(別章で説明)


細菌がウイルスを防御する方法

細菌は、敵であるウイルスにただ負けているだけでなく、退治する方法を知っているのです。 21世紀になってDNAの解読が進んで、いろいろなことが分かってきました。

細胞の中にはDNAがあって幾つもの遺伝子が並んでいて、各遺伝子にはタンパク質の製造情報が書き込まれています。 DNA上には、そんな遺伝子情報の他にも、何の情報もない空文だったり、進化の過程らしいゴミが残っています。最近になってそんな「ゴミ」と思われていたものが、少しづつ解明され、「重要な機能を持っているようだ」として研究が進んでいます。

CRISPR領域にある回文を発見

細菌のDNAを調べていると不思議な暗号があることを発見、 DNAのゴミの中に、同じ「回文」が幾つも連続して並んでいたのです。回文とは、上から呼んでも下から読んでも同じ文章「たけやぶやけた」のように。

最初に日本人が見つけて論文として発表しましたが、 欧州の研究者たちがさらに調べ続けました。 回文と回文の間に「意味不明な情報」がはさまれている、この情報は何か。

その研究者は、自分が知っていたウイルスのDNA情報と同じものがあることに気がつく。 幾つかの異なる種類の ウイルスのDNA情報が「回文」をはさんで並んでいることが判明。

図中、黒い菱形が回文で、数字 1 2 3 4 が個々のウイルスDNA ということを絵で表現している。 CRISPR というのは、細菌のDNA上の場所で、暗号が書かれている領域の名前です。

細菌がもつ免疫システム

こんなことが分かってきています。 太古の時代から、細菌がウイルスに感染していた。細菌はウイルスに感染して運良く生き残ったときに、ウイルスのDNAを切り取って、細菌の自分のDNAの中に書き込んで記憶していたのです。

回文 + (ウイルスDNA) + 回文、という型で記憶します。

さらに、研究して分かってきたことは、この細菌にウイルスが侵入してくると、記憶しているウイルスのDNAと一致してるか調べて、一致していたら敵と判断して素早くこのウイルスを殺して侵入を防いでいた。

上図で上の方は、細菌が侵入してくるウイルスのDNAを自分のDNAの CRISPER領域に記憶するイメージ。

下の方は、新たに侵入してきたウイルスを「Casタンパク質」が見つけて、その DNAを切断して殺しているイメージです。

人間の防衛システムは細菌とは違う

細菌は単細胞で、自己のDNAを書き加えることで敵を知り、防御する免疫システムをもっている。 では人間にもあるのか?

動物や人間の細胞は、自分のDNAを最重要なものとして大切に管理しているので、DNAを書き換えることはしません。 細菌は単細胞ですが、人間には無数の細胞があって、役割分担して共同作業で防衛する免疫システムをもっています。

外部からの敵である細菌やウイルスを探すパトロール細胞、敵を狙って機関銃を撃つ細胞、負傷して半死になった細胞を殺害する細胞、敵の死体あるいは仲間の死体を整理整頓して分解し、再利用するリサイクル業者、といった 一連の免疫システムが進化の過程で作られたのです。


CRISPR/Cas9 ツール

欧州の研究者たちは、細菌がウイルスを監視して攻撃する仕組みを解明しただけではなく、この仕組みを「CRISPR/Cas9」というツールにして、世界の研究者たちに公開しました。 これはノーベルがダイナマイトを発明したのに匹敵するほど、世の中を変える価値があるとも言われています。


女性科学者「ジェニファーダウドナ」博士は 2020年のノーベル化学賞を受賞しています。

このツールは改良に改良を重ねられ、洗練された凄い機能になっています。 研究者たちはネットから無料でツールを入手できて、世界中の大学の研究室などで広く利用されていますが、利用の仕方には倫理的な大きな問題を含んでいます。

参考 CRISPR/Cas9ツールのしくみ

細菌が行っている仕掛けをそっくり真似して、タンパク質化合物のツールを作り上げている。どんなツールなのか、ある程度のDNA関連知識がないと説明も理解できませんが、イメージとしてはこんな感じ。

上方の図は、「ガイドラインRNA」の短い右側には、標的DNAの中から目印(PAMコード)を探し出すRNAを持ち、長い左側には、標的DNAから「切断したい暗号情報」のRNAを持ち、これをCas9というタンパク質に組んだツールのイメージです。

下方の図は、標的の細胞の中にこのツールを挿入する。すると 自動的にこのツールが細胞の中にあるDNAを探し周り、一致した暗号文章をみつけるとスイッチがオンとなり、自動的にその暗号文章を切断してしまう。 何となく分かれば良いです。

コメント

凄いよね! 細菌も凄いけど、人間の体も凄い! 人間の免疫システムは奥が深い。

CRISPR/Cas9 ツールも凄い!
長いDNAの中から「見つけたい遺伝子配列」を自動的に見つけてくれて、 そこを切断したりあるいは「別の遺伝子配列」と置き換えたりすることが簡単に出来きる。

CRISPR/Cas9 ツールは少し勉強すれば高校生でも利用可能で、遺伝子操作が出来てしまう。 社会的及び倫理的な問題がありますが、そんな便利なツールが「世界中に広まっている」ということだけは知っておいて、アンテナを高くしておきましょう!

このコロナ禍の時代に、素早く mRNAワクチンが作れたのも、このツールが活躍したと想像に難くないです。



Top of Step by Step

Copyright(c) 2021 BokerTov all rights reserved