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2021年12月7日 


お話「抗生物質と細菌の戦い」

抗生物質の長所と短所

抗生物質は、1928年、フレミングが青カビから発見した化学物質で「ペニシリン」と名付けられた。1943年頃から医薬品として使われ、「死の病」だった細菌感染症を治療できるようになったのです。

抗生物質の長所は、「細菌と戦うための切り札」として重要です。 しかし二つの大きな短所があり問題となっています。

1)細菌の殺傷力が強いために、役に立つ細菌まで皆殺してしまうこと。 現代人が抗生物質を多用したことで、その人の腸内細菌が乱れて「21世紀病」を起こすケースが増大している。

2)細菌側が、抗生物質に負けない武装した「耐性菌」を生み出し、それが「耐性菌」が拡散してしまい、抗生物質が長所「切り札」を失ってしまうのです。
抗生物質の働きには、

 - 細菌が細胞膜をつくるのを妨げる
 - 細菌がタンパク質をつくるのを妨げる
 - 細菌がDNAを複製するのを妨げる

重要なことは、細菌を殺すが、ウィルスは殺せないということです。


細菌と共生するプラスミド

一般的に、細菌は細胞の中にプラスミドやファージと共生しているのです。 「プラスミド」というのは環状のDNAをもっているもので幾つかの種類があります。 なお「ファージ」とは細菌に感染するウィルスですが、特に悪さをしないで共生することがあります。

大腸菌の構造


上記の大腸菌の中には、自分の染色体DNAと、プラスミドのDNA、ファージのDNAとが一緒に共生している。

薬剤耐性遺伝子

「 R因子」というプラスミドがくせもので、これが抗生物質を無毒化する。環状DNAの中に「薬剤耐性遺伝子」を持っていて、例えばペニシリン耐性遺伝子ならば、ペニシリンの化学構造を切断するタンパク質を出して無毒化する。

細菌はどうやって、そんなプラスミドを手に入れるているのでしょうか?

この現象は「遺伝子の水平伝搬」と呼ばれ、細菌がもつ大きな特徴の一つなのです。

恐ろしい院内感染

そもそも細菌はDNAの複製エラーが生じて猛スピードで進化する生物ですが、その上に細胞はプラスミドを交換する「遺伝子の水平伝搬」の技を使って変身して生き残ります。

どこで「薬剤耐性」プラスミドを獲得するかですが、一番危険なのが病院です。日常的に複数種類の抗生物質が大量に使用されているので、多くの薬に耐性をもつ多剤耐性菌があらわれ、細菌どうしがプラスミドを交換しあう格好な場所になっている。この 2010年代から2020年代、世界や日本で院内感染で多数の死亡者を出しています。

このまま何の対策もしないと 2050年には一千万人が犠牲になり、ガン患者の死亡数を上回るという試算もあります。

まとめ

1)人間は細菌に感染する。 これを避けるために抗生物質という薬剤を使用する。

2)細菌は「薬剤耐性」プラスミドを獲得する。 抗生物質が効かなくなり、別の抗生物質を探し出して生き延びる。

例えば、結核菌がペニシリンの脅威から逃れてペニシリン耐性の結核菌になったり、パンコマイシンの脅威からパンコマイシン耐性の結核菌になったりと。 そんな 繰り返しのいたちごっこが続き、幾つもの抗生物質が開発されているのが現状です。

抗生物質の開発歴史
拡大


製薬会社は、生活習慣病などの治療に重点を置き、感染症対策への抗生物質は開発の利益が見込めなくなって撤退する方向にある。 「私たちは今ある抗生物質を今後も大切に使いつづけなければならないのです」、そのためには一人ひとり抗生物質を正しく理解することが必要なのです。




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