ピアノでVoicing♪ヴォイシング


Dominant 7th Chord の一例:F7 (左手右手

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Voicing♪ヴォイシングとは

Jazzの楽典では、このように書かれています。

  • Harmonize
    メロデーに正しくコードを付けることをハーモナイズ(Harmonize)といいます。

  • Voicing
    メロデーとコード(コードネーム)に従って、具体的に音を設定することをヴォイシング(Voicing)といいます。

  • Reharmonize
    いったんハーモナイズされたコードを別のコードに変えたり、コードとコードの間に別のコードを挿入したりすることをリ・ハーモナイズ(Reharmonize)といいます。

  • Phrasing
    コードや Tention や Available Note Scale をふまえた上で、アドリブのフレーズを創作することをフレージング(Phrasing)といいます。
  • 今回は、ヴォイシング(Voicing)を中心として、その中で初歩的な部分を実践してみます。


    課題曲♪いつくしみ深き

    賛美歌として有名な曲「いつくしみ深き」をヴォイシング(Voicing)の対象としてとりあげてみます。
    まずハーモナイズ(Harmonize)ですが、Fコードを使ってこうしてみました。

    これにヴォイシング(Voicing)するわけですが、さまざまな方法があります。 まず基礎となるべき「4 Way Close」を勉強してから、 ピアノに向いてそうな方法を調べてみます。


    「4 Way Close」Voicing

    トランペットやサックス、フルートなど管楽器4人の奏者を想定して、 4つの音が1オクターブ内におさまるようにヴォイシングする方法を「4 Way Close(四声密集)」という。
    なお、一般に、ヴォイシングに際して、メロデー音はトップ(Top)と呼ばれ、 その下にヴォイシングしてゆくわけで、最低音はボトム(Bottom)と呼ばれます。 Top とBottom を含むVoicing 全体が1オクターブ内におさまったものを「Close Voicing」、 1オクターブを越えたものを「Open Voicing」といいます。

    さて、「4 Way Close」のエッセンスだけ取り出してみるとこうです。

  • トップがコード・トーンである場合
    トップの下にある最も近いコード・トーンを順に配置する。

  • トップがコード・トーンでない場合
    トップのすぐ下のコード・トーンを一つ省略する。 これは本来のコード・トーンのその音が、ノン・コード・トーンに転位したものと考えるのです。
  • では、課題曲♪いつくしみ深き♪の最初の4小節に「4 Way Close」を適用してみます。

    (注意:最初の小節でオレンジ色のD音は、Fコード・トーンでないトップの例です)

    参考:

    Fコード・トーンは、FACE
    Bbコード・トーンは、BbDFA
    C7コード・トーンは、CEGBb


    「Drop」Voicing

    基本となる「4 Way Close」をもとにして、その一部の音を1オクターブ下げて、Open Voicing する手法があります。

  • 「Drop 2」Voicing:上から2つめの音を1オクターブ下げた形。

  • 「Drop 3」Voicing:上から3つめの音を1オクターブ下げた形。

  • 「Drop 2&4」Voicing:上から2つめと4つめの音を1オクターブ下げた形。
  • それでは、では、課題曲♪いつくしみ深き、この最初の4小節に適用してみます。

    「Drop 2」Voicing の一例

    「Drop 3」Voicing の一例

    「Drop 2&4」Voicing の一例


    「Basic Chord Sound」Voicing

    基礎となるべき一般的な「4 Way Close」、「Drop」Voicing を勉強しましたが、 これらは主として、トランペット4本あるいはサックス4本を想定しています。 ところで、ピアノの場合には、同時にもっと多くの音を表現できるわけで、 さらに種々のヴォイシング(Voicing)の方法が使われます。

    「Basic Chord Sound」とは、Root + Guide Tone による3声の Voicing です。
    ここで、Guide Tone というのはコードの 3rd と 7th の音のことです。

    ピアノ演奏の運指では、一般的にはこうなります。
    左手
    右手
    Root7th3rdTop

    ここで、Guide Tone のバリエーションを考えるとこうなります。
    コード
    左手
    右手
    Major 7thRoot7th3rdTop Fmaj7
    minor 7thRoot♭7th♭3rdTop Fm7、Fm7(♭5)
    Dominant 7thRoot♭7th3rd TopF7、F7Lyd、F7alt、F7com.dim、F7aug
    その他Root7th ♭3rdTopFmM7
    Root6th3rdTop F6
    Root6th♭3rdTop Fm6、Fdim
    Root7th4rdTop F7sus4

    改行

    それでは、課題曲♪いつくしみ深き、最初の8小節に「Basic Chord Sound」を適用します。

    上の譜面は、最初の8小節分だけですが、全16小節を通して聞いてみましょう。
    ♪いつくしみ深き/Basic Chord Sound (MIDI=1.0kbyte)

    とりあえず、ヴォイシング(Voicing)はできたのですが、このままではちょっと単調な感じですね。 お洒落にするために、リ・ハーモナイズ(Reharmonize)してみたいと思います。


    リ・ハーモナイズ

    前述しましたが、いったんハーモナイズされたコードを別のコードに変えたり、 コードとコードの間に別のコードを挿入したりすることをリ・ハーモナイズ(Reharmonize)といいます。

    ♪いつくしみ深き、この曲の最初の小節はFコードですが、 実際には Major 7th(Fmaj7)としていましたが、 今度は Major 7th(Fmaj7) → Dominant 7th(F7)に変えてみます。

    参考:

    Fmaj7コード・トーンは、FACE
    F7コード・トーンは、FACE♭

    それでは、課題曲♪いつくしみ深き、最初の8小節に「Basic Chord Sound」を適用します。 なお、ついでにリズムも少し変えて、小節内の第4拍目を強調してみます。

    上の譜面は、最初の8小節分だけですが、全16小節を通して聞いてみましょう。
    ♪いつくしみ深き/リ・ハーモナイズ (MIDI=1.3kbyte)

    前よりはいくらかましになったと思うのですが、もっとジャズっぽくするにはテンションを加えるという手があります。


    「Spread」Voicing

    先に勉強した3声の「Basic Chord Sound」に、テンションまたはコード・トーンを1音加えたものを「4 Way Spread」、2音加えたものを「5 Way Spread」といいます。

    ここで、テンション(Tension) というのはコードの 9th と 11th と 13th の音のこと。
    なお、追加するコード・トーンには、5th の音があります。

    ピアノ演奏の運指では、一般的にはこうなります。
    左手
    右手
    Root7th3rd,5th9th,11th,13thTop

    水色がテンション(Tension) です。

    space

    ここで、バリエーションを考えると可能性はこうなります。
    コード
    左手
    右手
    Major 7thRoot7th 3rd
    5th
    9th
    13th
    TopFmaj7
    FM7
    minor M7thRoot7th ♭3rd
    5th
    9th
    13th
    11th
    TopFmM7
    F−M7
    minor 7thRoot♭7th ♭3rd
    5th
    9th
    11th
    TopFm7
    F−7
    minor 7th ♭5thRoot♭7th ♭3rd
    ♭5th
    9th
    11th
    TopFm7(♭5)
    F−7(♭5)
    Major 6thRoot6th 3rd
    5th
    7th
    9thTopF6
    minor 6thRoot6th ♭3rd
    5th
    7th
    9th
    11th
    TopFm6
    F−6
    Dominant 7thRoot♭7th 3rd9th
    13th
    TopF7
    Lydian
    Dominant 7th
    Root♭7th 3rd9th
    13th
    #11th
    TopF7Lyd
    F7(#11)
    Altered
    Dominant 7th
    Root♭7th 3rd#9th
    ♭13th
    #11th
    TopF7alt.
    Combination of Diminished
    Dominant 7th
    Root♭7th 3rd#9th
    13th
    #11th
    TopF7com.dim.
    Augment
    Dominant 7th
    Root♭7th 3rd
    #5th
    9th
    #11th
    TopF7aug
    F7(#5)
    Suspended 4th
    Dominant 7th
    Root♭7th 4rd9th
    13th
    TopF7sus4
    DiminishedRoot6th ♭3rd
    7th
    9th
    11th
    ♭13th
    TopFdim
    Fdim7

    表中のカーキ色の部分は「Dominant 7th」の変化を示しています。
    水色がテンション(Tension) です。

    space

    さて、応用ですが、これから使ってみたい代表的なコードを抜き出しておきます。

    コード
    左手
    右手
    Major 7thRoot7th 3rd
    5th
    9th
    13th
    TopFmaj7
    FM7
    Dominant 7thRoot♭7th 3rd9th
    13th
    TopF7
    Lydian
    Dominant 7th
    Root♭7th 3rd9th
    13th
    #11th
    TopF7Lyd
    F7(#11)

    space

    ピアノの鍵盤では、例えばこんな感じです。

    Dominant 7th Chord の一例:F7 (左手右手

    space

    ♪いつくしみ深き、この曲にテンションを入れる前に、もう少しリ・ハーモナイズしておきます。

  • ポイント
    Dominant 7th を、代理コードである Lydian Dominant 7th に変えること。

    代理コードについては次の節で説明しますが、この曲ではこんな風に変えました。
    第4小節目: C7 → G♭7(#11)
    第8小節目: F7 → B7(#11)

  • それでは、課題曲♪いつくしみ深き、最初の8小節に「Spread」Voicingを適用してみます。

    水色がテンション(Tension) です。

    上の譜面は、最初の8小節分だけですが、全16小節を通して聞いてみましょう。
    ♪いつくしみ深き/テンション (MIDI=1.7kbyte)

    どうでしょうか、テンションが効果的に聞こえますか。
    なんかジャズっぽくないって。そうです。メロデーラインやリズムを変えていないからですね。
    フレージング(Phrasing)でメロデーラインを創作するのは、またの機会ということで。。。

    最後に、代理コードについてちょとだけ解説しておきます。


    代理コード

    「Dominant 7th」のコード表をもう一度ながめてみます。

    コード
    左手
    右手
    Dominant 7thRoot♭7th 3rd9th
    13th
    TopF7
    Lydian
    Dominant 7th
    Root♭7th 3rd9th
    13th
    #11th
    TopF7Lyd
    F7(#11)
    Altered
    Dominant 7th
    Root♭7th 3rd#9th
    ♭13th
    #11th
    TopF7alt.

    space

    さて、コードF7 と コードB7 について、詳細をチェックしてみます。

    code
    対応1
    対応2
    対応3
    対応4
    Root #11th♭7th3rd 9th ♭13th13th #9th
    F7(#11)FBE♭AG-D-
    F7alt.FBE♭A-D♭-A♭
    B7(#11)BFAE♭D♭-A♭-
    B7alt.BFAE♭-G-D

    どうです、コードF7(#11) と コードB7alt. とは構成要素が完全に一致していますね。
    コードF7alt. と コードB(#11) も同様です。

    これが代理コードと呼ばれる理由です。

    代理コードは、この Cycle of 5th と呼ばれる図の対角線にあるコードにあります。

    space

    さて代理コードの応用についての補足。

    Cycle of 5th 、すなわち 5度進行のドミナント・モーションにおいて、
    コードFからコードB♭に移動するときに、いったん
    コードFから代理コードBを経由してからコードB♭に移動すると、
    いいことがたくさんあります。

  • コードF7 → コードB7(#11) あるいは B7alt.
    ドミナント・モーションが強調されて緊張感が高まる効果があります。

  • コードB7(#11) あるいは B7alt. → コードB
    進行がなめらかになる効果があります。
  • おわり


    参考曲の譜面&MIDI

    讃美歌「いつくしみ深き」


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