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   「川の流れ」という流動現象について [1997年]

 主流方向の流れ系によってもたらされる一つの「輸送」現象を移流といい、川の流れが持つ本質的な物理作用である。ここで河川の流れは、厳密には3次元的運動であるが、河川の幅や水深に比べ河川の長さが極端に大きいため、局所的な厳密さは損なわれるが流れ方向の挙動を重視することとなる。この移流によって、微粒子が沈殿せずに水流に浮遊して移動する「浮遊現象」や、水中の粒子を下流方向へ移動させる「掃流力」を持つ。これにより、河床表面の堆積物が、多降雨による出水の度に移動し、植生や微少生物の分布に変化を与える。

 こうした物質が流れとともに輸送されるとき、何らかの力学的作用を受け「拡散」や「分散」現象を受ける。

 ここで「拡散」とはたとえば、煙突から出る煙のように、集中した供給源から粒子群が、時間と共に広がり、周りの広い空間に散らばろうとする現象である。さらにミクロな分子拡散とマクロな乱流拡散という要素を持っている。すなわち川の流れが、層流か乱流かに依存する。

 ひとえに流れといっても、様々なものがある。流速の空間分布を考慮すべき穏やかな流れ、これを層流といい、これと対照的な流速が時間的・空間的にランダムに変動し、大きさはほぼ一様になる流れを乱流という。

 ランダムな分子運動(ブラウン運動)による水粒子の散乱現象を示す「分子拡散」は、層流状態、すなわち壁面付近がゼロとなり、流心で最大の流速分布を持つときに卓越する。また、乱流運動による水粒子のランダムな散乱現象を示す「乱流拡散」は、ずばり乱流状態の時に卓越する。

 一方、流速分布が一様でない流れにおいて、卓越する流れの方向に垂直な横断方向面での拡散現象が組み合わさった散乱現象を「分散」という。言い換えれば、空間的な流速分布がもたらす拡散といえよう。水の運動が特に乱流状態であるとき、渦をもたらす。大きい渦は物質を巻き込んで動くため、物質を混合させ、また小さい渦は、泥上になって堆積している水底の物質を巻き上げる効果がある。これらを分散ということができる。

 自然河川は、菅路や人工の開水路とは異なり、変化に富んだ河床とそこに生息する植生などによってその流れは多様なものになっている。したがって、川の流れの中で物質が移流され、その過程において分子拡散、乱流拡散、分散の諸現象が複雑に絡み合っているのである。


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