今日の講演は,日本画家の千住博.
今,彼の作品をもっとも身近に感じられる場所は,羽田第二ターミナル.その到着ロビーに,そうガラス張りの吹き抜けに,そしてモールの吹き抜け天井に,彼の“言葉”が納められている.
芸術とは, communication of imagination
であるといいきることから,彼の語りかけは始まった.イマジネーションをどうやって伝えるか.料理は,食べる人がいてはじめて成立する.音楽は聴く人がい
て,絵は観る人がいて,誰が食べてもおいしいもの,誰が聴いても心癒やされるもの,そして誰が観ても美しいと感じるもの.そうやって全てを超えて伝わって
いくものこそが芸術なのだと.
普通の人間が,普通の生活の中で感じるイマジネーションを表現するからこそ,多くの人の共感をえることができるのだ.
「よくぞ,私の代わりに表現してくれた!」
「そうそう.これ!これ!これを伝えたかったんだ!」その共感こそが,コミュニケーション オブ イマジネーションなのだ.
今回の講演で,もっとも印象に残ったのが,9.11に触れたニューヨークの芸術家達のエピソード.千住氏は,ニューヨークにアトリエを構え,もう12年になるという.
20世紀の多くの芸術は,ショックとセンセーションを表現したものばかり.
その語り手達の多くが,9.11を間近で体験し,まさしくそのショックとセンセーションを記録しまくったという.ビルにつっこむ飛行機を.落ちてくる銀行員を.迫り来る火の中で助けを呼ぶOLを.記録しながら,そのショックの大きさに喜びを感じていたらしい.
しかし,やがて,自らが記録したものが,自らに語りかけてくる言葉の重みに多くの芸術家達が苦しみ始めた.
そして,創作活動を止めた芸術家,ノイローゼになった芸術家,そして自殺した芸術家達であふれかえったという.
そうした嵐の中から,再び立ち上がった芸術家達は,たとえば,ちょっとした空間の小さな風の動きを表現したような繊細なアートを志向し始めたという.
人々の期待を裏切り意表をつくアートに別れを告げ,アートで人に語りかけることを始めたのだと.
人が人に伝えると言う意味.
伝えるのは人間であり,伝えられるのもまた人間である.
伝えたい人間をイマジネーションできてはじめて,想いは伝わる.
伝えようとする人間をイマジネーションできてはじめて,想いは伝わってくる.
まさしく千住氏の想いが,存分に伝わってくる,非常に刺激的な講演会でありました.
関連書:美は時を超える 千住博の美術の授業U2004/光文社新書 千住博
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