今回の演者は,演出家で有名な鴻上尚史氏.有名なだけあって,今日も会場は大入りでした.
軽く笑みを浮かべながら講壇にあがる鴻上氏.
ふらふらといったりきたりして,
“しゃべりますよ〜 はい.はい.ちゃんとしゃべりますよ〜”
っと繰り返しながらじっくりと会場を見渡す.
そんなフランクなそぶりを見せながらも,客層をしっかり分析し,語りかける相手“あなた”を探しだす.
そしてこう問うのだ.
“外出するときに髪型や服装や靴に気を配るのと同じ程度に「こえ」「ことば」に気をつけたことがありますか?”と.
たったひとつの,音を生成する器官・声帯から生み出されたそれは,はじめ小さな空気の振動にしかすぎない.
しかし,それは大きさ・高低・早さ・間・音質の5つの要素を
5つの共鳴空間(鼻・唇・頭・喉・胸)を用いて巧みに調整し,拡張して,初めて外へと発せられる.
そう.私たちが標準装備している声というものは,実は数千通りの響き方を自在に操ることができるものであるのだが,多くの人はそれに気づいていない.
また,知っていても,使いこなしていない.と鴻上氏は言う.
良い声というものは,表現したい感情やイメージを,そのままにちゃんと伝えることができるものなのだ.すなわちそれは,表現する技術をもった状態なのである.
服装にTPOがあるように,声にもTPOがあるのだ.
しかし,声だけでは片手落ち.状況にあった声と言葉を合わせることが大切であると説く.
人の持つ空間というものは3つであるという.
第一の輪:自分だけの状況.あたかも暗闇の中にスポットライトがあたっている状況.
第二の輪:話しかける相手,すなわち“あなた”が存在する状況.
第三の輪:目に入るモノ総てを含む範囲.3人以上の場合.
そして,これらの状況にはそれぞれの言葉があるという.
第一の輪には,独り言
第二の輪には,あなたと話すことば
第三の輪には,みんなと話すことば
これらを意識しないことばの使い方に,私たちはときに不快感をもつ.
たとえば,ファーストフードの店員の言葉.
状況は,第二の輪.すなわち“あなた”と“わたし”なのに,使っている言葉は“独り言”.そこに私たちは違和感を覚えるのだと.
自分の状況と,言葉の位置を認識すること.
そして,伝えたい感情・イメージにふさわしい表現(こえ)を用いること.
そういうことが,
“良いモノをもっていれば,それは自然と伝わる・・・ハズ”と思いこんでいる多くの日本人に今,必要とされているものなのではないのかと.
鴻上氏は,ホワイトボードを使いながら,同じ言葉を何度も何度も繰り返しながら,そしてときに突然話題を変え,話を脱線させ,テンポをかえ,状況
を演じてみせ,また聴衆にも参加させながら,とても楽しくそしてわかりやすく,まさしく“伝わってくる”語りをデモンストレーションさせていた講演会であ
りました.
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