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   玄田有史:私の仕事道 [2005年7月]
                                  -講演会聴講レポート in 慶応MCC夕学五十講

NEETという言葉を世に知らしめた東京大学助教授:玄田有史氏.
一連の講演会の中で,もっとも楽しみにしていた演者でした.


まず質問.
“今,自分がやりたかったこと(仕事)をやってる人はいますか?”

もう一つ.
“今,自分のやりたいことっていえますか?”または
“若かりし頃,いえましたか?”

“やりたいこと”が明確にできる人は,どれくらいいるのでしょう.
なのに,みんなとりあえず,若者に“やりたいこと”をやれと押しつけてしまう矛盾.

今の学生は,とにかく真面目であるという.これは私も感じるところ.

“やれ,公務員だ!”
“やれ,時代は即戦力だ!”
“やれ,コミュニケーション能力だ!”

との声に,良く反応して,よく勉強し,よく考えている.だから,資格の勉強も一生懸命にやるし,就職活動のためのセミナーなどにもホントに良く参加している.
それでも彼らは内定がとれない.働けない.なぜ?

さて,ホントに時代は即戦力となる若者ばかりを求めているのだろうか?
さて,ホントに企業はコミュニケーション能力を備えた学生ばかりを求めているのだろうか?

“そんなことはない!”

多くの企業人と交流してきた,彼はこう言い切る.
平気で即戦力やコミュニケーション能力を備えた学生が欲しいと言っている企業は,先行きの危ない企業であるという.
業績の良い企業は,自社で新入社員を鍛え上げてみせるという気風をもっているのだと.
じゃぁ,“本当は”どういう人たちを社会はもとめている?

それは壁(困難)の前で,しっかりうろうろできる人.悩むことができる人であるという.
“わからない”と心の底からいえる人.
“わからないなりに,そこに居続けることのできるタフネスさを持つ人.

思い返して欲しい.自分はどうやって困難を乗り越えてきたかを.
自分は壁を乗り越えるときに,資格やコミュニケーション能力を使ったのかを.

“若者に真実を伝えよう!”
わからないことは,わからないと言おう
むやみに解決を急がせず,どっしり構えて,きちんと迷わせてあげよう.

ニート・フリーター・引きこもり・・・・

結局は,若者をとりまく大人達が真実を伝えていないことが原因なのだと.

理想ばかり聴かされた若者は,理想通りでない自分に大きくとまどっている.
周りはどうなんだ?自分より理想通りなのかと気にしている.
だから,最近の若者の会話は,“人間関係”と“自分らしさ”の話ばかりなのだと.

大人が自分のプライドを語りましょう.
大人が自分の失敗を語りましょう.
人の数だけ,生き方があるということをしっかりと伝えましょう.
社会はわかりやすくはできていない.大人達も迷ってるのだと伝えましょう.

そう静かに彼は訴えていました.

今回も質問をする機会をいただきました.
「地方の大学では,公務員 or Nothing という二者択一の就職活動をしがちです.こういう学生に対してどうアドバイスすれば,その危うさに気づいてもらえるとおもいますか?」

玄田氏の返答はこんな感じでした.
「何を持って安定というのかを伝えなければならない.公務員=安定という図式は,そろそろ違ってきていることを,そろそろ大人が語ってあげる必要があるのでは」

最初は,静かにポツポツと話し始めた玄田氏でしたが,徐々に突拍子もない自虐ネタで笑わせてくれました.彼のモットーは,【ちゃんといいかげんに 生きること】なのだそうである.なるほど,深刻な問題に取り組みつつも,どこか肩の力が抜けた感じが伝わってくる.こういう彼の姿勢には,同じ大学人とし て学べるものが多くある講演会でした.

関連書:仕事のなかの曖昧な不安―揺れる若年の現在 2001/中央公論新社 玄田有史


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