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   宮本亜門:亜門流コーチング [2005年11月]
                                  -講演会聴講レポート in 慶応MCC夕学五十講
講演者は,みなさんご存じの演出家:宮本亜門です.違いのわかる男です(笑)
いまさら紹介することもないでしょう.でも,学生さん達はあんまりしらないかな?くわしくは,http://www.puerta-ds.com/ へ.

コーチングと題した話でしたが,話は彼の生い立ちから始まりました.


慶應大で犬の調教をしていた父親と,松竹歌劇団で踊っていた母親が,駆け落ちして,新橋演舞場の前に小さな喫茶店を開いていたところに,うまれた亜門.
そうした環境からか,彼の趣向は周囲の子ども達とはかけ離れていた.

小学校で夢中になったのは日舞.
中学校では茶道.
高校では仏像鑑賞・・・.

しだいに周囲とコミュニケーションが取れなくなってくる.
そして,ある日から約1年間高校へ通えなくなった.

なぜ自分が学校へ行きたくないのかわからない.
なぜ行かないのか?と聞かれるが,自分が一番わかってない.

もがき苦しむ中.母親の「行かなくてもいい」という言葉.
そして,ある日連れて行かれた慶應病院の精神科での,
意見を押しつけてこない先生の対応,自分を見てくれている感触.

数日後,気が付くと,学校へ行ってしまっていたという.

1年間の引きこもり時代にため込んだ知識.感情.とくに人に伝えたい,視覚化したいという強い想い.
一度ゼロにしたことで,振り切れた感じがした.

そこから彼の演出家人生が始まった.
まずは小さな劇団俳優.いつしかトップ俳優へ.そして演出家へ.
そうステップアップしていく中で,彼が遭遇した様々な出来事を通して学んできたことをエピソードを添えて,披露する形で話は進んだ.

・自分の想像を超えるプランを立てること.具体的に.現実的に.

・アイデアは誰でも持っている.違うのはそれを行動にうつせるかどうかだ.

・役者を設定の中に入れるのではなく,設定の中に役者というより,人間としての彼・彼女を入れこんでしまうこと.そうすれば,あとは役者が自分でやっちゃえる.

・自分をオープンにしなければ,破れない.まずは自分をおもしろがること.
 恐れることが一番怖い.恐れると自分を大きく見せようとする.すると誰もついてこない.

・意見を批判と受け止めないこと.意見を意見として受け止めること.

・コミュニケーションの中では,以前の話を持ち出してはいけない.
 「そもそも」,「以前は」は禁句.

と.

もっとも印象的だったのは,現在公演中であるエリザベス女王を題材にした舞台での話でした.主役のエリザベス女王を演じることになった原田美枝子.それまでのイメージを覆すような強い役を演じてもらうために一番心がけたこと.
それは,

“コミュニケーションとは,空間を超えて,相手にきちんと投げかけること”


原田美枝子はこれまで,映画・TVで役を演じてきた.これらは役者とカメラの距離が近い.カメラの向こうの相手に投げかけてはいるが,しかし実際問題,距離が短い.
しかし,舞台は違う.

といって亜門氏がカメラ?会場?をキッと見据えて

“わたしは”

と,たった一言.
しかし,この一言に私はドキドキした.
確かに,空間を超えて,空気が伝わってきた.

2時間強の舞台でこれを持続させること.しかし,“持続させよう”としては伝わらない.そこを,私と彼女できちんとコミュニケートする.それが大切であると.


なんというか“講演”としての体裁は,お世辞にも上手いとはいえなかったけれども,役者らしく,エピソードをいろいろに演じてみせる話しぶりはなかなか楽しいものでした.

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