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   小泉武夫:食の冒険家 大いに語る [2005年11月]
                                  -講演会聴講レポート in 慶応MCC夕学五十講
今回の講演者は小泉武夫氏.東京農業大学応用生物科学部の教授.
醸造学・微生物学などの研究の一方で,食の冒険家として,毎年世界各地の辺境を訪れて奇食変食の旅をされている方.
NHKや新聞各社でよく論評されていたり,著書も多数なので,知ってる人は知っている・・・という感じの方.

今回の講演は,これまで各地で食べてきたものを著書と共に紹介する というものでした.

雑多にさまざまな所のさまざまな食の話をされていました.

たとえば,焼酎の話.

焼酎の起源は,沖縄の泡盛.その泡盛は1400年頃にタイからやってきた.江戸時代には江戸でも蒸留され焼酎は飲まれていた.その資料・絵が残っている.
今でも泡盛はタイ米をつかって蒸留している.では,そのタイの酒はどこから?

その謎を解くため,メコン川を遡る.中国のチンホイ.農家の軒下でみつけたモノ.それは,樽の上に水の入ったお皿を載せ,樽の上部から突き出るパイプ.そしてその先にツボ.パイプの先からしたたるもの・・・それが,焼酎.
これは江戸時代文献に残っているものとほとんど同じ装置.ココに起源があることを突き止めた というお話.


たとえば,ベトナム戦争が地域の食文化を変えたというお話.

カンボジアの奥地の村.竹で作った家々が並ぶ小さな村.
30年ほど前のベトナム戦争で,激しい空爆に襲われた村.

いまでも村のあちこちに大きなくぼみが残る.
激しい爆撃の後がそのままなのだと.

ここは毎夕激しいスコールが降る.
するとその雨は,くぼみに溜まり,いまではくぼみのほとんどは大きな池となっている.
ここは熱帯.タダでさえ蚊がすごい.
村の周りの無数の池に,とてつもない数の蚊が湧く.
また,池の周りに雑草が生い茂る.

その蚊を目当てに,雑草の中に,とてつもない数の蜘蛛・蛙がやってくる.

それを村人は,主食にする.

その蜘蛛と蛙を目当てにして,無数の蛇がやってくる.

それを村人は,ダシにつかう.

40年以上前にはなかった食物連鎖が,いまココにあるというお話.

他にも,漢方として重宝されている 熊の胃 の現実.薬のために殺される無数の猿のお話.などなど.


写真を見せながら

“ほらっ.ほらっ.これ見て!”

“これが,うまいんだなぁ〜”

“こんなのが,まだあるんですよぉ〜”

“ほら,これすごいでしょ!”

まるで,そこらのおっちゃんの土産話を聞いてるような雰囲気.
これまでの講演会とは,全然違う空気.
会場からも,笑い声が響きます.
しかし,ときおり顔を出すシリアスな話.

そして,開始80分頃.講演時間もそろそろ終わりという頃になって,それまでの“気の良いおじさん”から,“大学教授”の顔に変わる.

世界を旅して,いろんなものを食べてわかったことがあるという.


食べ物を前にして,世界中の子ども達はかならず“ありがとう”という.
今日ここに食べるものを与えてくれた神様に感謝を示す.

それは,人は決して死んだものを食べないということ.
人は命あるものしか食べないのだ.

日本では,“いただきます”という.

これには,“あなたの命を,私の命にさせて,いただきます”という
食(命)に対する畏敬の念が込められているのだと.

しかし,日本では今,一日300万食が毎日捨てられている.
これのどこに命に対する畏敬の念があるのだろうか.

いま,良く叫ばれている“食育”

食育は,子どもに食を教育することではない.
食育とは,大人に本当の食というものを教えることなのだ.

いまひとつ,食べることの意味 を考えて欲しい.

そう訴えて講演を結びました.


正直,さいしょ今回の講演ははずれだったかな?と思っていました.
でも,ラスト10分+質疑30分で,今回の講演も聴きにきて良かったなっと思いました.
そんな雰囲気の変容に驚き・感心しました.
これが,小泉氏の持ち味なのでしょうね.
私も一応農学博士.食について,今ひとつ考え直したい.そんな講演会でした.


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