今回の講演者は小泉武夫氏.東京農業大学応用生物科学部の教授. 醸造学・微生物学などの研究の一方で,食の冒険家として,毎年世界各地の辺境を訪れて奇食変食の旅をされている方. NHKや新聞各社でよく論評されていたり,著書も多数なので,知ってる人は知っている・・・という感じの方. 今回の講演は,これまで各地で食べてきたものを著書と共に紹介する というものでした. 雑多にさまざまな所のさまざまな食の話をされていました. たとえば,焼酎の話. 焼酎の起源は,沖縄の泡盛.その泡盛は1400年頃にタイからやってきた.江戸時代には江戸でも蒸留され焼酎は飲まれていた.その資料・絵が残っている. 今でも泡盛はタイ米をつかって蒸留している.では,そのタイの酒はどこから? その謎を解くため,メコン川を遡る.中国のチンホイ.農家の軒下でみつけたモノ.それは,樽の上に水の入ったお皿を載せ,樽の上部から突き出るパイプ.そしてその先にツボ.パイプの先からしたたるもの・・・それが,焼酎. これは江戸時代文献に残っているものとほとんど同じ装置.ココに起源があることを突き止めた というお話. たとえば,ベトナム戦争が地域の食文化を変えたというお話. カンボジアの奥地の村.竹で作った家々が並ぶ小さな村. 30年ほど前のベトナム戦争で,激しい空爆に襲われた村. いまでも村のあちこちに大きなくぼみが残る. 激しい爆撃の後がそのままなのだと. ここは毎夕激しいスコールが降る. するとその雨は,くぼみに溜まり,いまではくぼみのほとんどは大きな池となっている. ここは熱帯.タダでさえ蚊がすごい. 村の周りの無数の池に,とてつもない数の蚊が湧く. また,池の周りに雑草が生い茂る. その蚊を目当てに,雑草の中に,とてつもない数の蜘蛛・蛙がやってくる. それを村人は,主食にする. その蜘蛛と蛙を目当てにして,無数の蛇がやってくる. それを村人は,ダシにつかう. 40年以上前にはなかった食物連鎖が,いまココにあるというお話. 他にも,漢方として重宝されている 熊の胃 の現実.薬のために殺される無数の猿のお話.などなど. 写真を見せながら “ほらっ.ほらっ.これ見て!” “これが,うまいんだなぁ〜” “こんなのが,まだあるんですよぉ〜” “ほら,これすごいでしょ!” まるで,そこらのおっちゃんの土産話を聞いてるような雰囲気. これまでの講演会とは,全然違う空気. 会場からも,笑い声が響きます. しかし,ときおり顔を出すシリアスな話. そして,開始80分頃.講演時間もそろそろ終わりという頃になって,それまでの“気の良いおじさん”から,“大学教授”の顔に変わる. 世界を旅して,いろんなものを食べてわかったことがあるという. 食べ物を前にして,世界中の子ども達はかならず“ありがとう”という. 今日ここに食べるものを与えてくれた神様に感謝を示す. それは,人は決して死んだものを食べないということ. 人は命あるものしか食べないのだ. 日本では,“いただきます”という. これには,“あなたの命を,私の命にさせて,いただきます”という 食(命)に対する畏敬の念が込められているのだと. しかし,日本では今,一日300万食が毎日捨てられている. これのどこに命に対する畏敬の念があるのだろうか. いま,良く叫ばれている“食育” 食育は,子どもに食を教育することではない. 食育とは,大人に本当の食というものを教えることなのだ. いまひとつ,食べることの意味 を考えて欲しい. そう訴えて講演を結びました. 正直,さいしょ今回の講演ははずれだったかな?と思っていました. でも,ラスト10分+質疑30分で,今回の講演も聴きにきて良かったなっと思いました. そんな雰囲気の変容に驚き・感心しました. これが,小泉氏の持ち味なのでしょうね. 私も一応農学博士.食について,今ひとつ考え直したい.そんな講演会でした. [前画面に戻る]
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