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   藤原正彦:知識・論理・情緒 [2006年1月]
                                  -講演会聴講レポート in 慶応MCC夕学五十講
今日の講演者はお茶の水大学数学科教授の藤原正彦.
最近,「国家の品格」や「祖国とは国語」といった著書もありますね.

数学の世界にどっぷりと使っていたこともあってか,ノーベル賞クラスの世界的天才達とのつきあいが多かったようで,そういった中で実感した“発見”の周辺事情を説いていた.

発見に必要なものは主に5つであるという.

1つ.圧倒的で広範な知識.
 能動的に獲得した知識こそ大切.それは知的好奇心によって支えられている.
 天才は例外なく努力家である.努力を苦に思わない.
 
1つ.極度の集中力.
 これには“野心”が必要であるという.“野心”とは,「身分不相応の考え」.欧米では野心は最高の褒め言葉.
 さらに,野心を持つには,自信が必要.そしてなにより,野心と自信を持つ続けるには,楽観的であること.
 人は,ダメだと諦めた瞬間に脳の6〜7割の機能が停止する.

1つ.集中力を持続できること.
 一瞬の集中は誰でも出来る.
 “ヒツヨウ”なのは“シツヨウ”さ.

1つ.鋭敏な感性を持つこと.
 敏感なアンテナをもっていること.それはすなわち情緒力であるという.

1つ.すぐれた論理能力.
 きちんと論理的に考える“技術”を備えていること.
 しかし論理的すぎてはいけない.論理的すぎる人は評論家にしかなれない.

そして藤原氏は,これら5つの要素の中でも,とくに重要なのは“情緒力”であるという.
 ここでいう情緒とは,喜怒哀楽の感情表現ではない.
 野に咲くスミレを心底美しいと思える力であるという.

多様な自然環境の中で,自然と共に生きてきたおかげでわれわれ日本人は,繊細さを獲得し,モノノアワレを獲得した.しかも,それはごく一部の才人にのみ備わったものではなく,万人がもつ感覚である.

発見の最後のひらめきは,この情緒・・・繊細な美しさの中で見いだされる.


知識・情報・技術・・・それもいい.
でも,それらに関心を抱くのと同じくらい,文学・芸術に関心を払いなさい.そうすることで新しい頂へと向かえるであろう.
そう講演を締めくくりました.


講演本体も十分面白かったのですが,今回の講演は,質疑応答の方がより面白く思いました.

講演の内容から,“教育”に言及する質問が多かったのですが,とくに,話の中で強調されていた“情緒”をいまの日本社会でどう培っていけばいいのか?という質問も興味深かったので紹介しておきます.


情緒は,教育によって培われるものである.
自然に触れるだけではダメ.親が子の前で美しさに感激する姿を見せることが大切なのだと.

そうして,“自分の哀しみを悲しむ状態から,他人の哀しみを悲しむことができる”ようにしっかりと教育すること.
それが教育の第一の目的である.そう強調されていました.


数学とは,“高い山の頂にある,美しい花を採りに行くようなものである”と表現する藤原氏.なんとも美しくも本質を捉えた表現であろう.
たんたんと“〜なんですよねぇ〜”っという語尾をくり返しながら,柔らかい口調で語っていた藤原氏ですが,その実は非常に激しく強烈なメッセージを帯びている講演でした.

今回の講演を聴いて,昨年聞いた千住博氏の日本美術に関する講演,それに先日読んだ「否定学」における日本独特の思考構造に関する論述とが,自分の中で,みごとに融合されていく印象を受け,自分にとっていいタイミングでいい話を聞けたなという感じがしました.


関連書:
 国家の品格 2005/新潮新書 藤原正彦
 武士道―いま、拠って立つべき“日本の精神” 2005/PHP文庫 新渡戸稲造 著 / 岬 龍一郎 訳
 情緒と創造 2002/講談社 岡潔


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