BONO's page -> マイ・研究室 -> 保管ページ ->

   荒木重雄:26番目の選手とともに [2006年4月]
                                  -講演会聴講レポート in 慶応MCC夕学五十講
さて,荒木重雄氏は,千葉ロッテマリーンズの事業部部長.
千葉ロッテマリーンズといえば,ご存じプロ野球団.昨年は6冠を達成しましたね.ボビーバレンタイン監督の指揮の下,パリーグ制覇,日本シリーズ制覇,アジア制覇を成し遂げました.
で,じつは制覇したのは試合だけではありませんでした.

昨年の千葉ロッテマリーンズの観客動員数は,それまで最高だった2004年の約2倍以上.通常,優勝するとその特需で動員数が増えることはあるのですが,昨年のロッテは6月の段階で,それまでの観客動員数を上回るという“優勝特需”ではない成果によるものでした.

90年代の日本経済を「失われた10年」と形容します.
それと同様プロ野球も「失われた10年」と言って良いほどここ数年低迷していました.
要因は大きく二つ.環境の変化に対応できなかったことと,親会社の経営の悪化でした.
国際化の流れを甘く見て,多くの日本人プレーヤーをアメリカに持って行かれ,IT化を軽視した結果TVは視聴率を失い,コンテンツの多様化を行わなかったために野球の公式試合の勝敗のみで売り上げを稼がざるを得ない業況を脱することができなかった.
それに加えて,親会社の経営悪化.経済成長時代に儲かった企業の節税対策としてお金を使うために保有されていた球団も,儲からなくなった企業にとっては何のメリットも生まない不良債権のようなもの.

そこで一念発起したロッテは,日産ばりの経営再生化プロジェクトを立ち上げたのだという.やったことは以下の通り.

・コミットメント.
  →成果を定義して,目標を明確にした.

・野球界から野球業界へ
  →業界内部を意識した経営ではなく,視野を外に向けた戦略のシフト.

・勝ちを価値にする戦略.
  →優勝球団でも10回に4回は負ける.それでは最大でも10回に6回しか設けられない.負けた試合でも楽しいスタジアムを.

・三位一体経営
  →夢を作る.そのプロセスをファンと一定になって作り上げる.
   選手と一緒に戦う意識を.

・ステークホルダー戦略
  →客層,スタジアム,メディア,地域,リーグ球団組織,そして親会社であるお菓子メーカーロッテのそれぞれの立場にあった戦略を.

・企業ブランドVS商品ブランド
  →チームがブランド力を持つサッカーとは異なり,各選手がブランド力を持つプロ野球.自軍の選手ブランドを高めつつ,サッカーを見習ったチームブランド戦略を.

・外部の作用
  →38人の主要スタッフ中30人を外部から登庸.
   意識の変革を組織的に産み出す.


これら一つ一つの戦略が,相互に重なり合った結果は,世間の知るところ.
いまや他球団もうらやむほどの球団になっている.
たとえば3回のヒーローインタビュー,たとえば日本リーグ初戦白一色でうまったスタジオ,団地の中の道路で行われた優勝パレードetc.

さまざまな取り組みが発案された敬意と,その実行過程,そしてその取り組みに対する反響を一つ一つ荒木氏は紹介していました.


でも,荒木氏の講演を聴いていてとても疑問に思ったことがあります.
それは,そもそも2005年から大幅に外部の人材を入れて本格的に球団経営改革をやっていこうと画策した人物とその人が取ったリーダーシップがどんなものだったのか?というもの.
これは,他の講演者の方々も疑問に思ったようで,それに関連する質問がいくつかされました.
が,実は荒木氏も外部から新しくロッテへ入った30人のウチの1人とあって,そのあたりの事情にはあまり明るくないようでした.

しかし,低迷する業界とその一組織が,発想を変え,様々な手を打ち出して成果を上げていく過程には,学ぶところがいろいろとあった講演だったと思います.


[前画面に戻る]

▲ページトップへ

Copyright(C)1998 Shinichi Takeshita(竹下伸一).All Rights Reserved.