講演者は,日本画家の千住博氏. これまでに彼の講演や著書で感銘を受けていたので,ナマの千住氏の語りを聞けるとあってはりきっていってきました. 「なんとかして人に伝えたいと思う心こそが,芸術なんだ」という千住氏の持論を,さまざまなエピソードから展開していきます. モネ,ルノワール,マチスといった巨匠達の絵から伝わるもの.彼らの言葉は,不自由な生活の中から出てきたものでした. 1年間の気温差が60℃にまで達する厳しい自然環境のニューヨーク.「人種のるつぼ」ならぬ,「人種のサラダボール」とも言える多様な個性によって営まれる暮らしの中で,文化のベースを乗り越えて伝えようとする人々の思いが街に芸術家達を呼び寄せる. アルタミラの洞窟.1万3前年前の人類は,暗闇の中にともされた揺らめく光の中で,神を感じ,それを伝えようしました.その姿は,月を抱いた動物たちでした. 食材達の良さを引き出し,なんとかおいしいものに仕上げようとする営みとしての料理.草花の良さを上手に配置して,心地よい空間を作り出そうとする営みとしてのガーデニング. こんな私たちの生活の中にも,芸術は溢れています. 美を感じる心は,誰にでもある. そして,感じた美を人に伝えたいと思う気持ちもまた,誰にでもある感情. 芸術は,いつも私たちのちかくにあるのです.そう千住氏は説いていました. 彼の美への確信,芸術への確信には,とても力があります. そして,それを聴衆である私たちに伝えようとする語りかけは,まさしく芸術であったかと思います. 時折,「おや?」と懐疑的にならざるを得ないエピソードもちらほらありました. また,講演の内容自体は,私自身何度か見聞きしたことのあるものでした. けれども,何度触れてもなにかがわき起こる感覚を味わうことができます. そういう意味で,千住氏は本当に芸術家なんだなっと感じました. [前画面に戻る]
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