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   羽生善治:現代という時代 [2006年7月]
                                  -講演会聴講レポート in 慶応MCC夕学五十講
かつて史上初の7タイトルを制した棋士・羽生善治氏でした.
先週でしたか,NHKのプロフェッショナルにも出演されていましたね.

私も彼にはとても興味があり,著書はいくつか読んでいます.
TV番組や雑誌のインタビューでは,だいたい羽生氏個人の対局に挑む姿勢などに着目されることが多いですが,今回の講演では「将棋の歴史」といった普段とはちょっと違う視点から話を始めていました.


そもそも将棋はインドが起源だそうです.
戦争好きの王をたしなめるために,バーチャルな争いをさせて気を静めようとして考えられた.これがやがてアジア各地に伝播し,改良され“1つの国 に1つの将棋”が誕生していった.羽生氏は,それら各国の将棋に触れルールを覚え,実際にゲームをしていったという.するとその将棋の中にその国の文化・ 歴史・思想が反映されている様にであって感銘を受けるのだという.
数ある将棋中でももっとも奇抜なのが日本の将棋なのだという.なにが奇抜かというと,取った駒を再利用できるという点.それから,非常に升目が 少なく,駒が少ないという点.無駄をそいだシンプルな盤面の中に,ゲームとしての激しさを保つ駒の再利用という形に,俳句や短歌に通じる日本らしさを感じ ると羽生氏はいう.

もともと茶道,華道同様に家本制度・世襲制であったが,いくら巧みな“型”を編み出しても対局の場では,勝負がついてしまう現実のなかで,次第に強い人なら誰でも名人になることができる実力主義へと変遷していったという.

しかし,名残はいろんな場面にある.
たとえば対局の際に和服を着る習慣.対局の際に駒を並べるときのその並べ方にも流派がある.それから,“打ち歩詰め”というルール.これは歩で王将を取ってはいけないというルール.これも江戸時代に確立されたものらしい.

そうやって確立されてきた将棋.これは人間同士のぶつかり合い.
しかし,最近パソコンとインターネットの登場によって,その争いの様相が一変しているのだという.パソコンによって過去の対戦歴を呼び出せるようになったために,まずそれらを分析し,強い棋風を系統立てて分析する流れが産まれた.
羽生氏が天才とうたわれていた20年前は,対戦歴の分析をどれだけやったかでアドバンテージをとることができていたが,いまや対局前に分析することは当たり前のこととなってしまった.

時間をかけて新しい手を考えても,即座に情報化され分析されるため,原則的に作戦は1回しか使えなくなった.

IT化によって,技術と情報を囲い込むことが難しくなってしまったため,棋士達の実力に圧倒的な大差というものが無くなってしまった.そういう状況の中で,ほんの少しだけ先に出るためには,“読み”と“大局観”に寄るしか無くなってきているという.
“読み”とは,好みや直感によって,戦いの焦点を絞ること.
“大局観”とは,流れや方向性を感じること.
これらは圧倒的な知識と経験の下積みの中からわき上がる一瞬の“ひらめき”である.

この“ひらめき”で一歩先に出るためには・・・
・いつも少し危ない手をうつこと
 人は何もしないと自然に無難な方へ行く.そこで意識して新しいことをやるようにすること.

・とにかく実践してみること
 実践してみないとどうしても理解できなことが多い.目先の勝負にこだわっては,長期的な成長は望めない.

・とにかく繰り返すこと
 いろんなことを沢山繰り返しつづけることで,あるとき突然総てがつながる.
 このとき,大きな発見が生まれる.


なるほど!!
このあたりになると脳科学者・茂木健一郎氏や,数学者・藤原正彦氏,演出家・秋元康氏などと同じところにたどり着きますね.

このほか,対局中の心のあり方など興味深い話もたくさんありましたが,そういったものは著書にも出ているのでそちらでカバーしてみると良いと思います.


口癖である「あのー」をいっぱい語間に挟みながら,淡々と,そして一言一言を慎重に選ぶようにぽつりぽつりと語るのですが,その一つ一つに含蓄が あるのが印象的でした.いつも極度の緊張の中で戦っている勝負師から,得られるもの非常に多くて,いつも以上に沢山のメモをとってしまいました.
とってもエキサイティングな講演会でした.

関連書:
 決断力 2005/角川oneテーマ21 羽生善治
 勉強の仕方―頭がよくなる秘密 2000/祥伝社黄金文庫 米長邦雄・羽生善治


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