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   池谷裕二:脳を知り,脳を使いこなす [2006年10月]
                                  -講演会聴講レポート in 慶応MCC夕学五十講
今回は,東京大学大学院薬学系研究科 講師の池谷裕二氏.
数年前に糸井重里氏との共著で「海馬」という本を出して,一躍有名になった方です.
最近だと脳科学者というと茂木健一郎氏が筆頭に出てきますが,池谷氏はそのブームの火付け役となった方と言っても良い人だと思います.

池谷氏は,脳の中でも「記憶」を司る「海馬」の研究をされています.
いろいろと興味深い研究成果を出されていますが,ビジネスパーソン向けの講演会ですから,脳の面白い性質をいろいろと紹介していました.


まず,錯視のいろんな例を示しながら,私たちは真実を見ていないことを意識させます.
たとえば↓のサイトなどに例があります.
錯視のススメ
北岡明佳の錯視のページ

そうして,脳は勝手に,世界を解釈しているという事実を私たちに突きつけます.

たとえば,脳へ入ってくる目からの情報は,わずか3%しかないという事実.残りの97%は,脳が補完しているのだという.人間の神経の活動と,脳内の動き,それに筋肉の働きを割合で示すと 10:100000:1
外部とつながっているのはごくわずかである.私たちが真実だと思っている世界のほとんどは,自分の脳が作り出した世界である.

脳は物事に勝手に因果関係を作り出そうとし,風景に意味を見いだそうとする.しかし,これは悪いことではない.敵から逃げるとき,食べ物を確保するときなど「動物」としてそれは有利な能力だから,進化の過程で残し・強化してきたのだという.


では,勝手に作用する脳にたいして,私たちの意識・思考はどこまで自由なのだろうか?
様々な研究の末見えてきた結論は,結局,私たちには自由意志はないということ.
「心」だと思っていたものは,私たちを安心させるための「飾り」でしかないのだと.

普通私たちは,何かを見て,聞いて,触れて,感じてそれに対して,意識するにしろ無意識にしろ何かしらの反応をする. と思っている.

けれども,実験などで脳,神経,筋肉などの動きをつぶさに調べると,まず脳が動き,それに反応して,神経が動き,筋肉が動くのだという.そう「何 かを見て,聞いて,触れて,感じ」たときよりも先に,すでに脳は動いてしまっているのだ.たとえば,好きなときにボタンを押しても良いといわれても,「ボ タンを押したい」と意識するより前に,脳はすでにボタンを押すための動作を開始しているのだ.
この気持ち悪い事実に,なんとか自分の中で折り合いを付けるために「心」が存在するのだという.

では,どういうときに「脳」が動きだすのか.
いろいろ調べてみると,脳の中を行き来する電子のまたたき,ゆらぎによって決まることがわかってきたという.結局,でたらめなのだ.
単語を暗記してもらう実験を繰り返してみると,覚えてもらう単語を見せる2秒前の脳の中の電気の状態によって,その単語を覚えられるかどうかが決まるのだと.本人の「覚えよう」とする意思とは関係ないのだ.


だから,何かを「記憶」しようとするとき,それを覚えられるかどうかは脳の中の電子のゆらぎによってきまるので,できるだけゆっくりとあいまいに覚えるのが得策なのだという.
あいまいに覚えることで,脳が勝手に意味を見いだして補完してくれる.
そしてそのいい加減さが,記憶された情報の汎用性を高めるのだという.
人間は,動物は,未来の自分のために物事を記憶する.
だから,この情報は「未来の自分のためになる」ということを意識すると,より強い意味の補完を脳が施し,その情報の汎用性を高め,記憶を保持させる.


ではどういうときに,より「未来の自分のためになる」と人は,脳は感じるのか?
それは新しい情報に触れたときなのだという.新しいもの,新しいストーリー,新しい風景,新しい意味付け・・・過去の自分が持っていなかった情報に触れたとき,よりつよく「未来の自分のためになる」と感じ,強い意味の補完を施し記憶するのだという.


私たちはいろんなものに興味を持ち,積極的に動いて,新しい情報に触れることが大切なんですね.
この講演自体がとても新しい情報で,興味をそそられ,未来の自分のためになると強く感じられるものでありました.積極的に新しいものに触れることの大切さを再認識することができて,今回はとくに,今の自分の方向性に確信が持てた講演会でした.

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