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   内永ゆか子:企業経営とダイバーシティ [2007年1月]
                                  -講演会聴講レポート in 慶応MCC夕学五十講
女子学生にとっても役に立つ情報が多いので,ちょっと長めにレビューします.


今回は,日本IBM 取締役専務執行役員・開発製造担当の内永ゆか子氏.
彼女は,日本の大企業における女性役員の第一人者で,働く女性ならば多くの方が知っている人でしょう.
政府の男女共同参画会議等の議員にたびたび登用され,女性の働き方に関して数多くの提言を行っている方です.


さて,ダイバーシティとは何か?というところから話は始まりました.ダイバーシティとは,一言で言うと多様性.それがどう企業経営に活かされるのか.

市場は多様である.多様なニーズが渦巻く世の中に受け入れられる商品を提案していくためには,それを開発・提案する側の人間もまた多様でなければ ならない.企業の経営戦略の一つとして人材のダイバーシティ:多様性に取り組みはじめたときから,それまでの低迷していたIBMは蘇り世界企業へと邁進す ることとなったという.

ひとえにダイバーシティといってもいろいろ.国によって取り組み方も異なる.でも各国に共通する多様化の一つの側面が,社内の様々な場面における女性の登用であったという.
1998年.日本社会におけるIBMの女性管理職登用数はトップだった.けれども,入社5年後の女性離職者は男性の5倍.女性社員率はたった13%.管理者比率は男性の1/8.こうした実態は,世界中のIBM現地法人中最下位だった.

調査した結果,浮き彫りになった女性登用が進まない大きな理由は主に3つだったという.
○将来像が見えない
○オールド・ボーイズ・ネットワーク
○ワーク・ライフ・バランス

○将来像が見えない
社内にロールモデル(将来の自分の姿を投影する上司)になるような女性の上司が少ないため,自分の将来像をうまく組み立てられないことが多いとい う.男性の場合は,ロールモデルに溢れているためそれぞれの能力・志向にあった将来像が組み立てられるのに比べ,女性は圧倒的に不利な状況にある.そこに かつての同級生達など,女性達の世の中における多様な働き方をみて,大いに焦り,可能性を求めて離職したいと思う機会が増えていくのだという.

○オールド・ボーイズ・ネットワーク
会社創立以来,延々と築きあげられてきたそれぞれの組織の中に独特な雰囲気・文化・約束事のようなものがある.同じような家庭環境,情報源,スト レス発散法などを共有してきた男性によって築かれたそれらの空気は明文化されているわけではなく暗黙の内に蔓延している.それにそぐわない行動・発言を とったとき,男性新入社員ならば先輩がそっと教えてくれる.でも,女性新入社員の場合「女性だから」と放っておかれる.これが積み重なりどうしてもうまく 組織の中に入れなくなることが多いのだという.

○ワーク・ライフ・バランス
仕事と家庭の両立.これは世界中でみられるもの.日本に限ったものではない.最近は,男性にとっても大きな問題となっている.


この3つの要因を解決する策としてIBMが取り組んだ主なものは次のようなもの.
△ネットワークとロールモデルの構築.
 女性社員は男性社員に比べ,ネットワークの重要性に気づいていないことが多かったため,男女関係なくキーとなる重要な人物とのネットワークを積 極的につくることの大切さを浸透させた.それに併せて,様々な上司の姿,女性にとってもロールモデルとなるような存在を作るよう努めた.

△e-ワークとオンデマンド・ワークプレースの構築
 ワーク・ライフ・バランスの問題に対して,在宅勤務をとれる体制を整えた.そのために全ての業務に関する資料・手続きなどのシステムをネット ワーク上に構築した.それにより社員の机にはパソコンしかない環境を作り出し,在宅勤務が可能となった.導入してみると,女性の在宅勤務希望者よりも男性 の希望者の方が多いのだという.

△女性社員同士のネットワークの構築とメンタリングシステムの導入
 先のネットワークに加えて,女性だけのネットワークをもつことで,仕事の悩みなどを気軽に相談できる仲間を作った.さらにトップエグゼクティブ にそれぞれ2名ずつ女性社員をつかせ,定期的にミーティングをもつことを義務づけた.これにより会社トップとつながっているという感覚が,心理的に作用し てとくに若手社員の働きやすさが向上した.


現在,社内外の様々な取り組みにより徐々にダイバーシティが上がってきた.そしてなにより,多様化によって企業にとってもメリットが生まれてきて いるという.女性が働きやすい職場ということは,暗黙の事柄が少ない証拠であり,それはよりオープンな社内風土を持っていることであるため風通しが良く, アイデアが出やすくチームワークの整った会社になっていくのだと.
また新入社員の志願者も飛躍的に増え,企業イメージが向上するのだという.

内永氏は企業に対して様々なダイバーシティ対策を行うよう積極的に活動してきたが,それを受ける側の女性社員の意識の変革も大切であることを再三繰り返して言っていました.とくに以下の項目を意識してくださいとのことでした.

□自分のキャリアを明確に持つこと
  これが一番大切.自分の将来像をきっちりと持つこと.とくに大きな権
  限を持つ地位に就くことを嫌う女性が多いが,その地位でしかできない
  仕事・やりがいがあることをもっと意識する必要がある.

□与えられたチャンスにチャレンジすること
  男性であってもどういう縁でチャンスが来るかわからないのに,チャン
  スのもらい方に文句を言わずに成果を出すことが大切.

□個人としての価値/強みを持つこと
  機会があっても実力がなければ結局ビジネスパーソンとしては失格.

□社内外の人とのネットワークを大切にする
  女性はネットワークを持ち持続させることが苦手な傾向にあるらしい.
  ネットワークの大切さはそれこそビジネスにおける暗黙知であることを
  覚えておく.

□メンターを持ち,活用すること
  社内に限らず,とにかく「この人」というメンターを早くもつこと.


以上の5つは,女性に限らず男性であっても大切なことですね.

こういった話のほか,ウィメンズ・カウンシルのことやJ-Winのことなどについても,いろいろと話をされていました.普段なかなか意識していなかったことに気づかされることが多く,今回の講演はとても役に立つ内容だったと思います.

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