1.河套灌区の概要

 
(1)河套灌区の位置と地勢
 河套灌区は中国,内蒙古自治区,バイノール盟の西部に位置し,北流する黄河が大きく東に向きを変えた北岸に位置する.南に黄河,北に陰山山脈の狼山と烏拉山扇状地,西は烏蘭布和砂漠,東は包頭市郊外に接する.東西250km,南北50km,総面積119万haである.総面積119万haの中,116万haが黄河から灌漑する沖積平野,残り3万ha弱が北側山脈からの渓流が作った扇状地よりなる.標高は1019-1050mである.西南から東北に向けて低く傾斜し,東西の勾配1/5000から1/8000,南北の勾配1/4000から1/8000である.
(2)河套灌区の自然条件
1)気象特性
 河套灌区は,乾燥または半乾燥地の気候に属する.冬季は寒さが厳しく降雪量少なく,夏季は高温乾燥して降水量が少なく蒸発量が大きい.年平均気温は6.3-7.7℃であるが,1月の最低気温は−38℃,7月の最高気温は38℃と気温の較差が大きい.年間の平均降水量は灌区平均で159mm,東から西に向かって215-130mmへと減少する.一方,蒸発量は2100-2300mmに達する.冬季には降雪が少ないこともあり,最大1.3mまで土壌が凍結し,凍結期間は160日から180日におよぶ.
 年間を通じて西,西北風が卓越し,年平均風速は2.5-3m/Sである.冬季と春季には乾燥した黄土を巻き上げてしばしば風砂を発生し,年間の風砂日数は47-105日を数える.

2)水文特性
 取水口のあるトウコウ地点の黄河の1969-85年年間流量は,最小183億t,最大406億t,平均294億tであり,これは平均930t/sに当たる.黄河水の平均含泥量は3.1kg/m3であり,粒径は,0.1-0.05mmが12%,0.05-0.01mmが43%,0.01mm以下が45%を占める.黄河の水は1960-1971年実測で平均0.34g/lの塩分を含んでいるが,これは作物生育上障害を与える濃度よりもはるかに低い.塩分組成はCa(HCO3)2が50%,NaClが16%,Mg(HCO3)2が12%,MgSO4が4%,Na2SO4が8%を占める.なお,黄河は12月10日−25日から,3月10日−20日までの100日間凍結する.

3)水文地質と土壌
 灌区の地下水はその水質によって3種に区分される.すなわち全層淡水型(塩分量<3g/l),上部淡水下部塩水型,全層塩水型(塩分量>3g/l)である.全層淡水型は永済渠以西にあり,塩分量1.5g/lで灌区総面積の57.5%を占める.上部淡水下部塩水型は,永済渠より東へ烏拉特前旗北部地区に分布し,塩分量2g/l程度で全面積の22.5%を占める.全層塩水型は灌区の北部と南部に帯状に分布し,それぞれ5-10g/l,10g/lの塩分量で灌区総面積の20%を占める.
 河套灌区は黄河が何度となく河道を変遷し,洪水を繰り返す中で形成されたシルト質沖積平野である.沈積状況は場所により異なり,砂質と粘質が互層をなす.西部では砂質,東部では粘質の傾向がある.土壌有機物の含量は低くて0.51-1.39%にとどまり,栄養塩類含量も低い.
(3)河套灌区開発の歴史
 規模は小さいながらも黄河からの灌漑が始まったのは,漢朝の時代である.唐の貞元年間(785-804)には記録によると五原県付近に2本の水路を作り,数百の田を灌漑したとされている.宋の時代には戦乱のために用水路は荒廃した.清の嘉慶後期には内地の被災民が河套に入り,用水路を作り,開墾を進め,灌漑面積は再び増大した.1900年には8つの大用水路が完工し,黄河からの灌漑面積は7万ha前後となった.1901年以降清朝は灌漑面積を引き続き増大させ,解放初期には灌漑面積はすでに20万haに達していた.ただし当時の用水路は簡単なもので,黄河の水位が十分なければ自然取水できる保証はなかった.
 1950年,黄河の堤防工事が完成し,解放水門が建設され,灌漑面積は27万haに増加した.1961年,黄河に三盛公頭首工と幹線用水路への分水工が完成し,引き続き1965年に幹線用水路(総干渠),幹線排水路(総排干溝)の建設が始まり,黄河の水位に影響されない灌漑が可能になった.耕地の拡大は進行し,幹線用水路,排水路および各支線水路も拡張された1975年に,灌漑面積は48万haとなった.排水は幹線排水路を経て,すべて烏梁素海に排出された.烏拉特前旗の地下水は烏梁素海の影響を受け,塩分濃度の増加が著しくなった.1983年烏梁素海から黄河への排水路建設が完成した.幹線排水路から烏梁素海への排水はポンプ排水が行われている.末端の用水路,排水路の掘削は現在も継続して行われている.
(4)河套灌区の社会状況と農業
 河套灌区はバイノール盟の7旗,県にまたがり,689村の農村が存在する.灌区内総人口は145万人余り,そのうち農業人口が102万人を占め,農業労働者数は44万人余りである.灌区総面積119万ha中,湖面面積を除いた土地面積は108万haである.現在農業用地51.6万ha,草地36.5万ha,林地4万ha,その他が16.3万haである.農業用地の中,灌漑面積は48万haであるので,農業人口一人当たりの灌漑面積は,0.51ha,農業労働人口当たりでは,1.15haである.
 1990年のバイノール盟の農工業総生産額31.1億元のうち農業生産額が65.4%に当たる20.3億元を上げている.農業生産額の中,牧畜業4.1億元20.4%,耕種経営が14.7億元(72.3%)を占める.1990年現在,小麦,とうもろこしが総栽培面積の70.7%を占め,それぞれ9.6億kg,2.9億kgを産している.経済作物として栽培されている向日葵,てんさい等は栽培面積の27%を占め,それぞれ向日葵油2.6億kg,8.5億kgを産している.その他蔬菜,瓜類が2.3%を占める.
 バイノール盟の農業で河套灌区が占める割合は極めて高く,農地面積の86.1%,穀類,植物油(向日葵),てんさいのそれぞれ92.1%,96.6%,99.9%を占める.河套灌区内の作付け面積は,小麦40%,とうもろこし10%,向日葵25%,てんさい15%となっており,バイノール盟全体に比べ経済作物の作付け割合が高い傾向がある.単位面積当たり生産量は,穀類271kg/10a,向日葵273kg/10a,てんさい2300kg/10aである.


 
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