Gallery Top page  Club Michille Top page

マルシン・ルガーの時代考証

ルガー P08
序章

ザッハートルテと申します。
今回は小生のコレクションの1つであるマルシン・ルガー海軍モデル(以下ネイヴィー・ルガーと呼称)をご紹介したいと思います。
いままでClub Michelleさんのこのページに紹介されてきた他の方々のコレクションを拝見しますと、いずれも大変凝ったカスタムを施されていますね。それと比べると小生のルガーにはこれといったカスタムも行っておらず、恥ずかしい気がしますが最後までご一読頂けましたら幸いです。

このルガーは以前Club Michelleさんより購入したものです。唯一の改修点はマガジンボトムをクラフトアップルさん製作の木製のものに交換したことです。ルガーの専門書を見ますと、少なくとも小生が見た写真では1910年代に製造されたルガーは全て木製マガジンボトムが装着されています。マルシンさんのネイヴィー・ルガーは1917年製の実銃をモデルアップしているので、少しでもリアルにしようと思い、実銃を真似してみました。

ご存知の方も多いと思いますが、実銃のルガーには実に多くのヴァリエーションが存在します。海外ではルガーだけを詳細に解説した分厚い専門書が多く出されていますし特に米国では、他の銃には目もくれず、ひたすらルガーだけを集め続けている熱烈な「ルガー・フリーク」が数多くいるそうですからその奥深さがお分かり頂けるかと思います。

マルシンさんのルガーはそのフォルムや内部構造はもちろんのこと、刻印についてもほぼ忠実に再現されており、いままでトイガン化されたルガーのなかでも最高傑作の部類に入ると思います。ですからトイガン化にあたってマルシンさんが数ある実銃ルガーのなかでもある特定のモデルを参考にしたことは大いに考えられるわけで、それでは実際に調べてみようと思い立ちました。

小生の場合は他の皆さんのようにカスタマイズの過程を述べることはできませんので(笑)、以下の第1章ではマルシンさんがどの実銃ルガーをモデルアップしたかを検証してみたいと思います。
また、リアルなのは銃本体だけではなく、ダミー・カートも大変リアルなものが付属しています。そこで第2章で付属のダミー・カートがどういった実物を再現したかを検証します。


第1章 銃本体の検証

ルガー P08

 
マルシンさんのルガー検証にあたっては米国のルガー・コレクター、Jan C. Still氏著の "IMPERIAL LUGERS AND THEIR ACCESSARIES"を参照しました。Still氏はルガーが製造されていた時期を3つに分け(ドイツ帝政期、ワイマール共和国期、第三帝国期)、それぞれの時代のルガーについて1冊ずつの著書を著しています。上記の本はそのなかのドイツ帝政期のルガーを解説したものです。

マルシンさんのルガーの「時代考証」の手掛かりはリアルな外観と刻印です。まず刻印から見ていきましょう。
レシーバーの左側、ちょうどチェンバーの部分に3つの刻印があります(図1)。これらはドイツ海軍による検査印兼受領印です。また、この箇所のちょうど反対側、つまりレシーバー右側にも4つの刻印が打たれていますが(図2)、4つのうち一番右の刻印を除く3つはレシーバー左側のものと同様、軍の検査印です。ネイヴィー・ルガーは民間向けと軍用に製造されましたが、これらの刻印からこのルガーが海軍に納入されたものであることが分かります。

そしてレシーバー右側4つの刻印のうち一番右側のものはこのルガーが製造された工場を表わすマークですが、このマークからDWM(Deutsche Waffen und Munitionfabriken=ドイツ造兵廠)で製造されたものであることが分かります。ちなみにルガーはDWMのほかにドイツ中部のエアフルトとベルリン郊外のシュパンダウ、そしてドイツ南部のオーベルンドルフにあるマウザー(モーゼル)社でも製造されていました。蛇足ですがオーベルンドルフには現在、マウザー社の他にヘックラー・ウント・コッホ(Heckler & Koch)社の工場もあります。なお、このルガーがDWM製であることはトグル上面に打刻された "DWM"の飾り文字からも分かります(図3)。

ルガー 刻印 ルガー 刻印 ルガー 刻印

また、チェンバー上面には「1917」の刻印がありますが、これは1917年に製造・納入されたことを示しています。

次に外観です。
ネイヴィー・ルガーにはグリップ・セフティが装備されたものとされていないものが存在しますが、マルシンさんのルガーにはグリップ・セフティがありません。また、ルガーのメインスプリングにはコイル状のものと板バネのものの2種類がありますが、マルシンさんのルガーのそれはコイル状のものです。
さて、以上を要約すると以下のとおりとなります。

  1. 民間向けではなく、軍用(海軍)に製造された。
  2. 製造工場はDWM。
  3. 製造年は1917年。
  4. グリップ・セフティなし。またメインスプリングはコイル状。

前述のStill氏の著書によると、これら4点の条件を備えたルガーは「M1914」と呼ばれるタイプであることが判明しました。
さらにM1914の項を読みすすむとM1914についてさらに以下のことが分かりました。

  1. M1914は1916年8月29日にドイツ海軍より8,000丁が発注され、同年10月から1918年5月にかけて合計7,926丁が製造・納入された(残り74丁がどうなったのかは不明です。もしかすると発注がキャンセルになったのかもしれません)。また納入地はドイツ北部のキール軍港。
  2. 1項の詳細は以下のとおり。

製造/納入年月 製造・納入数 備考
1916年10月−12月 700丁  
1917年01月、5月−9月 2,995丁
1918年01月−4月 4,231丁  
合 計 7,926丁  

*マルシンさんがモデルアップしたのはこのうちの1丁。


第2章 ダミーカートの検証

ダミーカートの検証で参考にしたのはE. J. Hoffschmidt氏(名前からするとドイツ系の人ですね)著 "Know Your Walther P.38 pistols"という本です(不思議なことにStill氏の著書にはカートリッジの解説がないのです)。
マルシンさんのダミーカートのリム部には@aux、AS*、B7、C41という刻印が打刻されています。Hoffschmidt氏の本を調べてみると…。ありました。これに該当するカートの解説が。詳細は以下のとおりです。マル付き数字は上記の刻印に付されたものに対応します。

@カートリッジ・メーカーのメーカー・コード。「aux」は「ポルテ(Polte)」というメーカーのマクデブルク工場で製造されたことを示す。
Aカートリッジ・ケースの材質。S*は真鍮を示す。ちなみに「St+」という刻印はスチール製を示す。
B製造ロット番号。つまり「7」は第7ロットを示す。
C製造年。つまり「41」は1941年製であることを示す。

1917年製のルガーに1941年製のカートはちょっとミスマッチのような気がします。できればDWM製のものを再現してほしかったと思います(ちなみにDWMのメーカー・コードはズバリ「DWM」です)。しかしカートを4/6/8インチ銃身付きの各ルガー別にそれぞれ作り分けるというのもメーカーさんにとっては大変なことでしょうからあまり無理を言うべきではありませんね。このカートが一番マッチするのは4インチ銃身付きルガーです。というのはマルシンさんがモデルアップしたものが1936年製のものだからです。

ルガー P08


終章 最後に

以上が小生が検証した「時代考証」です。最近のトイガンはマルシンさんのルガーに限らず大変リアルになっていますが、そのことで上記のようなことを調べるというトイガンの新しい楽しみ方が増えたと言えるのではないでしょうか。
マルシンさんからはネイヴィー・ルガー以外にも4インチ銃身付きのものと8インチ銃身付きのものが発売されていますし、タナカさんからもエアソフトガンで実にリアルな各タイプのルガーが発売されていますが、いずれも上記のような「時代考証」を行うことが可能です。ルガー・ファンの方は一度トライされてみてはいかがでしょうか。

<参考文献>
Jan C. Still著 "IMPERIAL LUGERS AND THEIR ACCESSARIES" (1991)
E. J. Hoffschmidt著 "Know Your Walther P.38 pistols" (出版年不明)

 


文責:ザッハートルテ

mail to:vier-jahreszeiten@nifty.com

Gallery Top page  Club Michille Top page