Public Peace : 治安

1.概要

 最近は日本の治安も悪化してきてはいますが、まだまだ世界に名だたる安全大国です。その安全な国で育ち、多額の現金を持ち、なおかつ大騒ぎしない我々日本人は、現地の犯罪グループの格好のターゲットになっています。日本人を見つけると自分の獲物だと言って犯罪グループ内で内輪もめが生じるほどの「カモ」ぶりだとまで言われています。

 以下に現地で暮らした経験に基づく「身を守る基本的な考え方」や「危ない場所」の判別とその対処方法、そして自分や知人が実際に体験した例を参考にした「ケーススタディ」をご紹介します。 日常からちょっと気を配ってさえ入れば、トラブルは最小限度に抑えられるものです。

2.身を守る基本的考え方

 プロヴァンスでは殺人事件のような凶悪な犯罪はめったにありません。でもちょっと大きな町には外国から入ってきた貧しい労働者がたくさんいますし、地元の人が俗に「ジプシー」などと呼ぶ集団も少なくありません。彼らは生きてゆくために何とかしてお金を手に入れたいのです。結果としてスリ、置き引き、引ったくり等の軽犯罪は少なくありませんし、強盗の被害に遭った知人もいます。まず、身を守る基本的な考え方をご紹介しますが、これはフランスでは当然のことなのです。

 ・どんなに注意していても完全に盗難から逃れることは不可能なので多額の現金は持たない。

 ・観光旅行中はお金を持っていそうな身なりをしない。

 ・自分の持ち物から手または視線をはずすことはその持ち物の管理を放棄したことになる。

 ・貧困者の多い地区には足を踏み入れない。

 ・自分は絶えず注意を怠っていない人物であるととのポーズをみせる。

 基本的には貴重品(パスポートや現金)を持たないことが一番ですが、旅行中ですのでそうも行きません。貴重品と多額の現金は見えないところに身につけ、頻繁に使う小額の現金のみを小銭入れに入れて利用します。小銭が足りなくなったら人目に付かないところで補充します。多額の現金を人目にさらけ出すのは極力避けましょう。

 プロヴァンスを観光するときの服装は質素なもので十分です。ブランド服や派手なアクセサリーで飾った身なりの良い人は多額のお金を持っているとみられます。もちろん高級レストランで食事をする場合やパーティーの場合はドレスアップしますが、その場合には女性にはエスコート役がいますし、地下鉄やバスなどの公共交通機関は利用しません。ホテルでタクシーを呼んでもらうことをお勧めします。帰りもレストランでタクシーを呼んでもらうべきです。中途半端にお金持ちのマネをするのは非常に危険です。

3.危ない場所

 第一に空港や駅、大きなホテルのロビーなど、旅行者が集まる場所が狙われやすい場所です。次に有名観光地。そして危険な犯罪が多いのが貧困地帯の入り組んだ路地、人気のないところです。

 特に以下のケースで注意しましょう。

・ホテルのフロントでのチェックイン手続きや駅での切符購入時は自分の荷物への注意がおろそかになります。連れ合いに見ていてもらうか、自分の股の下に置き、両足ではさみます。犯罪者はやりにくい相手だと察するでしょう。

・ホテルのロビー等で知らない人に突然話し掛けられたら、まず自分の荷物に注意を向けて下さい。仮に時刻を聞くだけだったとしても、相手はあなたの反応は当然と理解してくれます。

・たとえ相手が親切そうな日本人でも、知らない人にホテル名や部屋番号、出発時間等を聞かれたらはっきりと「答えたくない」と断りましょう。そんな情報は他人にとって何の役にも立たないはずですので不自然です。

・有名観光地では俗に「ジプシー」と呼ばれる人達の犯罪が多いようです。たいていの場合、どこからともなく複数の人が現れて取り囲まれ、ひるんでいると金品を物色されます。

・有名観光地ではいきなりカメラを向けて写真を撮り、法外な料金を請求する奴がいます。写真を撮られそうになったら手で顔を隠し、「ノン」とはっきり言いましょう。

・入り組んだ路地、人気のないところには近づかないようにしましょう。いきなり建物の中に引き込まれるケースもあり非常に危険です。

4.ケーススタディ1

・郵便局でのスリ

 エクサンプロヴァンスの郵便局で切手を買おうと窓口の列に並んでいる時、もう間もなくだと思って財布を取り出して、ブルゾンの左ポケットに入れた。いつの頃からか後ろに黒人と北アフリカ人風の若い男二人が後ろに並んでいたが、一人が私の右側の床にコインをぶちまけてしまった。右足はをどけながらコインを拾う姿を見ていたが、コインを拾いおわると二人は郵便局を出てしまった。ふと気がつくと左ポケットの財布がなくなっていた。「財布を盗まれた!」と大声を出したら回りの人は皆一斉に両手を上に挙げ、「オレじゃない」。慌てて郵便局の外に飛び出したが、もう彼らはいなかった。おろしたばかりの現金1500Frとカード4枚を失った。

 カード番号と連絡先は別ポケットのメモにすべて記入してあったので、すぐにカード会社に電話してカードをストップさせ、証拠書類作成のため警察に行ってカードの被害届けを出した。

・ジプシー(?)のケース1

 両親を連れてアルルの円形闘技場を見に行ったとき、古代劇場と円形闘技場の間でジプシー風の若い女性が現れ、雑誌を両手に持ちながら何か言いつつ近づいてくる。何かの寄付を求めているのかなと思っていると、雑誌の下から手を伸ばしてこちらの荷物に手をかけようとしている(これは彼らの常套手段です)。「ヤバイ」と思って早くその場を立ち去ろうと両親の方を振り返るとすでに7−8名の同様の若い女性に囲まれ、荷物や体に手をかけられて金品を物色されている所だった。あわてて追い払ってその場から走り去った。

・ジプシー(?)のケース2

 マルセーユの目抜き通り(カヌビエール)を昼間歩いていた知人の一家。ジプシー風の子ども3−4名に取り付かれ、ふと気がつくとバッグの蓋があいており、中身がなくなっていることに気がついた。子供たちが前方にいた母親の大きなスカートの中に逃げ込もうとした瞬間、知人の奥様が追いついて子どもの一人に一撃を食らわせ、子どもは歩道に倒れ込み盗んだ財布とパスポートを散乱させ逃げ去っていった。

・エスカレータでのスリ

 エクサンプロヴァンスの女子大生がマルセーユに遊びに出かけた。観光名所である旧港の地下鉄駅から地上に登るエスカレータにて、先に乗っていた男性がエスカレータを上り切ると同時に立ち止まり、彼女は後に乗っていた男性との間にドスンと挟まれてしまった。騒ぎが終わって気がつくと700Frの入った財布がなくなっていたという。現場から彼女が電話してきて、警察に行って被害届けを出すべきか否かを聞いてきたが、現金だけなら戻るはずもないし、盗難の証拠も必要ないので被害届けを出しに行く交通費が無駄になるだけとアドバイスした。

・車内強盗

 エクサンプロヴァンス在住の知人が車でマルセーユに出かけ、繁華街で赤信号待ちしている時でした。停車中にいきなりドアを開けられて盗まれるケースがあるので彼らはドアロックをちゃんとしていたのですが、族はスクータで車の横につけるや否やハンマーで窓ガラスをブチ破り、ひるんだすきにひざの上のバッグを盗んで行ったそうです。

・パス乗務員の詐欺行為

 彼女は海外旅行40数回という「つわもの」でした。丘の上にあるマルセーユ名物のノートル・ダム・ド・ラ・ガルド教会を訪ね、路線バスに乗って旧港に降りようとしたときでした。運転手に5Fr払ってバスに乗り込んだのですが、来るときのように切符をくれない。何度言ってもくれないので「5Fr程度だし、まあいいや」とあきらめてしまった。運転手はそれからバスを降り、5分ほどして戻り、バスは旧港に向けて出発。旧港に着くや否や、青い制服を着た二人組が彼女のところにやって来て乗車券を見せろと言う。彼女は持っていないが運転手がくれなかったと言ったが、運転手はこれを無視。制服二人組は無賃乗車違反で500Fr払えというが、彼女は持ち合わせがないと言うと、じゃあ150Frでもいいと言ったとか。最後はパスポートまで取られそうになりながら逃げ出したそうです。

・パリのクリニャンクールにて

 パリの北部クリニャンクールは骨董品蚤の市で有名な場所ですが、貧困層の居住区域でもあります。十分に気をつけながらクリニャンクールの雑踏の中を歩いていたのですが、ふと妻がいなくなった。後ろを振り返ると、コートに煙草の火をつけられたと言って騒いでいる。相手は背が高くやせた黒人男性だが、なにやらすまなそうな顔をして一生懸命謝っている。しかし、ふと気がつくと会話の反対側からアラブ系の男性3−4人が妻を取り囲んでいる。「マズイ」と思って間に割って入ると彼らは慌てて雑踏の中に消えて行った。と同時に妻が「財布を取られた」と大騒ぎ。バックの中のファスナーが開けられ、いつもの場所に入れた財布とハンカチがなくなっているという。しかし、しばらくして妻はニヤッと笑って、「今日はクリニャンクールに行くから財布は別の場所に隠し入れておいたんだった」と。幸い被害はハンカチだけで済みました。

・バルセローナにて

 バルセローナの有名観光地サグラダファミリア教会を見て車に乗り込もうとした時でした。教会の中でチラチラと見かけた日本人がニコニコしながら近寄ってきて、どこのホテルに泊まっているかと聞く。何故だと聞くと、自分も車で来ているのだが駐車場付きのホテルを探しているという。たいていのホテルには駐車場があるはずだし、なくてもフロントで親切に公共駐車場を教えてくれるのは当たり前のこと。うさんくさいので、今日はもう帰るから泊まらないと言って無視した。

5.ケーススタディ2

(パリ在住の学生さんから送られてきた貴重な事例です。[1998.2.18])

・1997年9月 場所:republique

 午前11頃わりと見晴らしのよい道路を歩いていると、青色のトヨタコルサに似た型の車から50歳位の男が最初にフランス語で話しかけてきました。私が今一つフランス語を聞き取っていないのに彼は気づくと、今度は英語で話しかけてきました。内容はこうです。「私はファッション関係の仕事をやっており、先日パリで行われた、ファッションショーにきたときにカジノでお金をすっていまい、これから車でイタリアに帰らなければならないのだが、ガソリン代がなくて困っている。ガソリン代は700フランあればなんとかなるので、今私が持っているバレンチノの牛革の”ブルゾンとハーフロングコート”2着と交換してくれないか」と彼は名刺を見せつつ話しかけてきました。彼のなまりからして確かに彼はイタリア人のようでした。少なくともフランス人ではありませんでした。そして彼が見せたバレンチノの服もどうやら本物のようでした。<ひょっとしたら非常に良くできた偽物なのかもしれないのですが、偽物の服でも700フランならお買い得といった感じの服でした>しかし、私はバレンチノとかには全く興味がなかったので、いらないといって断ったのですが、彼はそれでは400フランではどうかと言ってきました。私はブランドはともかくとして、「これが400フランなら安いな」と思ってしまいました。しかし、そのときの私の所持金はまさに400フランちょうどだったので、結局断りました。そしてここからが私の愚かな行為なのですが、私は田舎出身なので自分でいうのもなんですが変に情深いところがあり、それとパリに来たばかりで、フランのパリにおける価値を十分にわかっていまかったために、つい「I give you」と言って50フランあげてしまいました。

 今考えれば、彼は日本人やブランド好きねらいの詐欺師だったような気がします。パリに車でファッションショーにくるような男が、カジノでお金を使い果たしてしまったとは言っても、50歳位の年齢にしてクレジットカードの1枚ももたず、何回もパリに来ているのに金を借りる知人の一人もいないのは変ではないでしょうか。私は彼に50フランを渡してしまったことを後悔しているのですが、もしあのとき私がお金を結構もっていて、ブランド品に目がない性格だったとしてら、ひょっとしたら700フランとか彼に喜んで渡していたかもしれません。もし、彼にお金を支払ったら、、、。彼はおそらく適当に、かつ強引にわたしにさよならを言ってその場を去っていたのではないかと思います。もちろん私は服など手にはしていないでしょう。これが私の最初の詐欺経験でした。

・1997.11月初旬

 午後に友人とルーブル美術館へ行くと(美術館めぐりはせずに上の広場を歩いていると)、いきなり写真を撮られました。角度がわるかったので、その男50歳くらいはもう一度写真を撮ろうとしてきました。彼が執拗に1フランというのでわたしはついそれくらいならと思い、写真を撮らせてしまいました。<これまたわたしは馬鹿でした>そのあと彼は写真を入れる封筒を私1フランを受け取りました。が、しかしです。彼は写真は別料金で180フランと言ってきました。わたしは瞬時に確かに写真1枚が1フランのわけがないと気づき(気づくのが遅い)ぼったくりと分かりつつ「5フランなら買う」と言ったのですが、彼は180フランを執拗に要求してきます。幸い私の友人が腕をとりその場を去ってくれたので何事も起こりませんでしたが。その場を去るときに彼が「MOTHER FUCKER!」と言っていたので、彼の人格と、詐欺を確信しました。一見親切に見える中年のカメラ好きのおじさんも一皮向けばひどいぼったくりカメラマンだったわけです。

・1998.1.15 場所パレロワイヤル 東京三菱銀行前

 夕方。友人とオペラ座付近のカフェでコーヒーを飲んだ後、あたりはすでに暗くなっていたのですが、散歩がてらにパレロワイヤル駅まで歩いていると「おかあさん、はやく」という日本語が聞こえてきました。すごく変わった叫び声だったので、最初私はそれをパリに来ている少し言葉が不自由な人の声だと思いました。しかし20歳くらいの彼女が走って近づいてくるとどうやら彼女は誰かを追いかけているということ分かりました。そしてそれからしばらくして彼女の母親と思われる女性がへろへろになって走ってきて、「どろぼう、だれかつかまえて」とへなへなの日本語で叫びました。しかし、私の見る限り犯人らしき人物はすでに見あたりませんでした。その後に誰かが通報したのであろう警察のパトカーが走っていきました。

 これは私が直接被害にあったのではないのですが、ひったくりが現実に目の前で起こったことを自覚してきたのは私が家に帰ってからでした。東京三菱銀行近くには日本食レストランが数多く存在し、パリの普通のレストランで仏語も英語も話せず、日本語ではもちろん相手にもされないような人たちが、しかたなく、あるいは、日本食に飢えた観光客が夜のパリの裏道の危険などまったく考えもせずに、そこへやってくるのです。そういった日本人観光客を常にねらっているスリひったくりの目があることを私自身痛感させられました。

・1998.2.15 場所ポルトマイヨ

 私の彼女がパリに遊びに来ており、過去の経験から日本人は非常に狙われやすいと学んだ私は普段は、日本ではいわゆる「べたべた。いちゃいちゃしている」と思われるくらいに、彼女のそばを歩いていたのですが、本当にまさかのような出来事でした。監視カメラがあり、切符売りの駅員が見ている改札のところでです。彼女が切符を入れ改札をぬけようとしていると、英語で「thief!thief!thief!」とおじさんがさけんでいるのに気づきました。何事がと思いそちらを見るとそのおじさんは黒人の男を指さしてどろぼうとさけんでいたのです。そして、彼女のリュックがあけられていました。

 幸い、彼女と日用品を買いに行くことにしていた私は彼女の小さいリュックに大きな紙袋を小さく折り畳んでむりやり入れさせていました。おじさんの叫び声と、スリに「なんじゃこりゃ」とおもわせるような紙袋のかいあって、他の所持品カメラと財布(200フラン所持)は無傷でした。

 では彼女がどうやってリュックをあけられたかというと、彼女が改札を抜けようとしたとき黒人の男が後ろにべったりとくっついてきて一緒に改札をでようとしてきたそうです。そして、普通なら(パリの無銭乗車事情を知らない日本人なら)それを怪しく思ったかもしれないのですが、彼女は何回かそのような無銭乗車を目撃していたためにその黒人も強引に無銭乗車を試みていると思ったようでした。知識が災いしたとはこのことを言うのかもしれません。スリひったくりは混雑したところとか満員電車の中とかに限らず、以外と防犯カメラがあって日本人が安心しそうな場所での一瞬のスキを突いてくることも十分に想定しないといけないことを実感させられた出来事でした。また、エスカレーターや動く道路(床が動くやつ)などで立ち止まるのも危険が高いような気がします。大抵のフランス人は短気なのかそういったところではまず小走りであるいて入るので、若い、特に黒人系の人がエスカレーターや動く道路で自分の後ろなどに立ち止まったときは、なるべくそこから離れた方がいいと思います。


 以上が私が経験、目撃したパリの軽犯罪なのですが、こうして書いてみると、私は被害者としてはまだましなほうかもしれません。とにかく皮肉かな犯罪に対する「本当の警戒心」は経験によって生まれるような気がします。どんなに観光ガイドとかに犯罪の対処法を書いてあっても相変わらず日本人の被害者が減らないのは、日本人の犯罪に対する甘さと、パリの犯罪の多様性と彼らの大胆な行動故ではないでしょうか。