このコラムは、ART of POWERの代表を務める傍ら、レースメカニック、 レースエンジニアもこなす小野時孝氏が7MLに流したメールを、 氏の特別な許可を頂きWeb上に公開したものである。


「レースメカニックのお仕事」編

「サーキットを速く走るために」編


「レースメカニックのお仕事」編

レースメカニック、と言うと、何でも出来そうなのですが、そうではありません。 総称でレースメカニックですが、シャシ屋、エンジン屋、タイヤ屋、電気屋など、 と言われるそれぞれの専門分野に分かれていて、その2つ以上をこなす人はめったにいませんし、 出来ても手を出さないのが普通です。 私は、その中のシャシ屋です。エンジンについても多少の知識はあり、 一般車の方は、お客様にお金をいただいて組んだり修理しておりますが、 レース用は、一切手を出しません。 シャシ屋の仕事は、シャシ組み立て、足回りセッティング、 空力部分までと普段のガレージメンテナンスなので、ハンドリング調整に関しては、 専門分野ということが出来るとおもいます。 また、完璧を目指していますが、所詮人間のやる事ですから、 数え切れないほどの失敗や勘違いをしてきております。 これからの書き込みにも、間違い、勘違いなどが無い様努力しますが、 もしも、間違い、勘違いがありましたら、ご容赦ください。

よく雑誌とかで、クルマは、加速する、曲がる、減速するの3つの仕事しかしていないと言われます。 そのとおりで、これが、最大限の単純化した内容で、解りやすい説明と言う事になります。 この3つの言葉で解決できる自動車の動きを複雑にすると理論自動車工学、 と言う分厚い本が出来上がってしまいます。 この本の内容を全部理解していないと、足廻りのセッティングが出来ないのかといわれると、 そんな事はありませんし、私も全部どころか、半分も理解していませんが、 レースメカニックとして何とかやってこれました。 加速する、曲がる、減速するだけでは説明できない、 ハンドリング調整、クルマの動きについては、実にたくさんの要素が絡んでいます。 組み合わせは無限大でしょう。 一つ一つを掘り下げてしまうと、複雑になり理解の範囲を超えますので、 必要最低限を取り上げ、要因の少ない物は無視していく必要があります。 ハンドリングに影響を与える要因を1つずつ取り上げる予定ですので、 現実的な、立ち上がりでアンダーだ、と言うような問題解決には、 その要因をご自分で、組み立てていただく必要がでてくるかと思います。

順序だてて、全部を書き上げ、整理してから投稿するべきだとは思いますが、 時間の関係上、出来たものから順に投稿しますので、まとまりのない内容になってしまいますがご了承ください。

皆様のsevenライフの何らかのお役に立てば幸いです。


荷重移動について

ブレーキング時の荷重移動では
物理で、点AB間を最速で移動する方法は、等加速度で、移動する事見たいな内容がありましたよね。 そして、その等加速度移動中はGが一定なんですよね。 そんな難しい事を、と思われるかも知れませんが、私たちは、 コーナーに向かっての減速のときに、これを(この場合負の加速度) 自然にやろうとしているわけです。 体感的に、一番速く減速できる方法をわかっているからだと思います。 なので、減速中には、ほぼ一定のGが発生し続けています。 このGは、タイヤが発生させ、タイヤが受け止めていると考えて差し支えないと思います。 そして、このタイヤがGを受け止めている状態を、荷重移動している状態でGが大きいほど荷重移動量も大きいと考えてください。 あくまで増量ではなく移動ですので4輪の総合荷重に増減はありません。 100Kgの荷重移動があった場合、フロントは+50kgリアは−50Kgです。 荷重移動の、量的な問題ですが、車重が同じでGが同じなら、 移動量も同じであれば問題ないのですが、ぜんぜん違います。
同じGでの荷重移動「大」の条件は、

1、重心位置が高い=車高が高い
2、ブレーキバランスの前が強い
3、フロントスプリングが弱
4、リアダンパーのリバウンドが弱
 (条件によっては、リバウンドストロークが長い)

1、の重心位置は簡単に変えられないので、車高で調整しかないです。
2、は、荷重移動調整のために調節する物ではなく、ブレーキ温度を見て調節するので、実質的には、 調整不可能。ブレーキングとは関係ないですが、同じ車格のFF車とFR車で、 FF車のほうがエンジンブレーキがよく効くように感じるのは、 FF車のエンジンブレーキが前に効くからで、荷重移動量が多く、したがって、 ノーズダイブも大きいからでGも大きいように感じますが、実際はGが同じなら減速速度も同じです。 (タイヤがグリップしている場合)
3、4は直接の原因ではなく、姿勢変化量が多くなるために増えます。

エンジンブレーキ時の荷重移動は、上記をエンジンブレーキで行った物と思ってください。 したがって、Gを受け止めるのは駆動輪のみ、荷重移動大の条件の3は当てはまりません。 ちょっと想像してみてください。
想像できましたか。 それでは、本当のグレーキング時の荷重移動は、上記のものに、 今想像されたエンジンブレーキでの荷重移動をプラスした物です。 が、単純にプラスできません。 ブレーキングが、エンジンブレーキより強い場合は、 何もプラスせずに無視できます。 エンジンブレーキがブレーキングより強い場合、エンジンブレーキがブレーキングより強い分を、 その時のブレーキングだけによる荷重移動にプラスして考えて差し支えない物と思います。

加速時の荷重移動は、駆動輪が発生させる加速Gで、それを受け止めるのは、 駆動輪のみで、あとは、エンジンブレーキ時の荷重移動の反対をイメージしてもらえればOKです。


荷重移動速度について

速度、と言うからには、距離を時間で割ったもので、単位時間あたりの距離が、 たとえば100Km/Hであらわせるはずですが、この荷重移動速度が、 何Km/Hとか言うのは聞いたことがありません。 感覚的なもので測り様がないんじゃないかとおもっていますし、定義を書かれた書物を見た事がありません。

一般的に言われている荷重移動速度とは、 荷重が移動するきっかけを作ってから、タイヤに接地圧としてつたわってクルマが反応するまでの時間と理解しています。 これに、何故速い遅いがあるかと言う説明は困難ですが、 簡単に考えると、たとえば、100Kgの人が、体重計に乗るとします。 乗った瞬間に、100Kgを指すわけではないですよね。 10Kg・・20Kg・・と上がっていって、100Kgとなるわけです。 これと同じ事が、荷重移動時のフロントサスペンションで起こっています。 100Kgの荷重移動で、フロントは50Kg受けます。 一輪あたりでは、25Kgを受け止めるわけですが、瞬時にタイヤに 25Kgがつたわる訳ではなく、タイヤに伝わるまでの間に バネがあり、このバネが25Kg分縮む時に、上のように、 5Kg・・10Kg・・とタイヤにつたわっていって最後に25Kg全部が タイヤにつたわり、25Kg分増の接地圧となります。 ので、このバネが、荷重を受けてから、25Kg分縮むまでの時間が荷重移動速度となり、 荷重移動速度最速は、バネ無しのリジッドバネがやわらかいのもでは、ノーズが路面にヒットするまで (もしくはヒットしても) タイヤの接地圧となりませんので、移動速度は遅いと言う事になります。 が、上記は、ダンパーの無いクルマの場合です。(そんなクルマ無いですけど・・) ダンパーを完全に理解するのは非常に難しいです。 その設定単位ですら意味不明で、私も完全に理解しているわけではないです。 が、大丈夫です。 簡単にしてしまいましょう。

ココでまず、スプリングですが、 解りやすいように、10Kg/mmのスプリングにしましょう。 体重計の上にそのスプリングを乗せて、上から押します。

1mm縮むまで押すと、体重計は10Kgを指します (これをココでは、10Kgをつたえると表現しています)
1.5mm縮むまで押すと、体重計は15Kgを指します
3mm縮むまで押すと、体重計は30Kgを指します
このようにスプリングは、押す量によって、つたえるれる量の変化する物です。

ではダンパーは、これも解りやすいように、10Kg/mm/secとしましょう。 1秒間に1mm押すのに10Kgを必要とすると言う意味になります。 (実際にはこんな単位ではありません) このダンパーを体重計の上において上から押してみましょう。
1mm縮むまで押すと、押している間は、体重計の針は振れましたが、 その後は0に戻ります。1.5m、3mmでも同じです。 押す量によってつたえられる量の変化する物ではない事が解ります。 次は難しいですが、
1秒間に1mm縮むように押します。押している間は、体重計は10Kg指します。
1秒間に2mm縮むように押します。押している間は、20Kgを指しています。
1秒間に3mm縮むように押します。押している間は、30Kgを指しています。
ダンパーは、入力の速度によってつたえれる量が変化する物だという事が解ります。 逆にいうと、つたえる量に対して、速度が変化する物と考える事が出来ます。 なので、ダンパー付きクルマでは、スプリングだけの場合の 25Kg分縮むまでの時間の足りない分をダンパーが補ってくれる と考えて、差し支えない物と思います。

移動速度の 速い 条件は、
1、荷重移動が少ない
2、スプリングが強
3、ダンパーのコンプレッション側が弱

ただし、3、は荷重移動が完全に終了するまでの場合で、 ある程度以上強の場合、ダンパーがクルマが反応するのに充分な荷重をつたえる事になり、 感覚的には、荷重移動を速いと感じる事もあります。 ダンパーのコンプレッション側をあまり強くすると、路面への追従性が悪くなり、 悪路でのグリップ力は低下します。 調整が簡単な事もあって、ダンパーはセッティングによく使われますが、 経験上、ある程度の所までセッティングできている場合は、 多少の乗り味は変わるものの、タイムには影響しない事が多いです。

面白い話としては、 遅いドライバーほど、固いダンパーを好みますが、最終的にはやわらかくなります。 ついでに、遅いドライバーほどショートなギアを選びますが、 最終的には、ロングなギアに変わっていきます。

シャープに切れて、早くGを感じるほど速いと感じますが、 スピードが上がってくると、追従性の悪さから、グリップの低下を感じる。 コーナリング中のエンジン回転数が高いほど速いと感じますが、 スピードが上がってくるとパワーバンドを超えてしまう。 と言うのが原因だと思っています。

識者の方々へ、
ダンパーの件は、あまりにも乱暴で簡略しすぎである事は理解しております。 厳密に言うと間違いではないかとも思われるかもしれません。 が、足廻りのセッティングをするためにはこれ以上難しく考える必要はないと思っております。 ダイナミックと言うダンパーには、低速、高速、とコンプレッション側だけで2つの調整があり、 ずいぶん悩まされ、勉強したつもりですが、結局低速、高速、と分けて調整しても、 ドライバーは感じ取れないようで、最終的には、 両方同じだけ同時に調整した方が変化を感じやすかったようです。 これは、設計者のエゴではないかと思っている次第です。


荷重が移動したらなぜグリップするのか? について

荷重が大きいほどグリップするのであれば、重いクルマの方がよいのでないかと思われますが、 それは違います。 これも、強引に簡略して、しかも、タイヤを剛体さらに、止まっている状態と考えると、 その摩擦力は、接地圧に比例します。 接地圧10Kgの時にこれを動かす(転がすのではなく、横向きに)のに30Kgの力が必要だとすれば、 接地圧20Kgのときは60Kgが必要です。 横Gを受けたときのことを考えると、 横Gは重心にかかり、前後タイヤの力を受け持つ比率は重心位置によります。 荷重移動後の重心位置は、姿勢変化によって前よりにはなりますが、 フロントはそれ以上の荷重を受けて接地圧が上がっていますのでフロントはお得、 その分リアは損している事になります。 もっと強引にくくってしまうと、移動した荷重は横Gを受けない。 と言う事になりますので、 実際に重い車や、ウエイトを置く事とは違うわけです。 ウィング付きの車では、ウィングの重さは別として、 ウィングによって受けたダウンフォースも横Gを受けないのでグリップが良くなるわけです。


慣性モーメントについて

慣性:止まっているものは止まり続け、動いているものはそのまま動きつづけるという法則

モーメント:軸の回りの運動率、回転偶力(簡略して、考え方として)回転運動の回転方向の力 

なので、回転が止まりつづけようとする力、と回転しつづけようとする力の事になります。
もう少し理解するためにsevenを、串刺しにします。
前から後ろへ、フロントグリルから、エンジンを突き抜けて、 スペアタイヤを突き抜けてでてきます。 バランスが良いように真ん中に刺してください。 sevenの丸焼き状態になります。 このときの串を(X軸と呼んでいます)中心に回る(ような)クルマの動きをロール、 またはローリングと呼んでいます。 「(ような)」が付くのは、実際のロールの中心は、別の所にあるからで、 クルマの動きの方向を示す言葉と理解してください。

次は、横から串刺し、
アルミサイドパネルからセンタートンネルを突き抜けて、反対側の サイドパネルを突き抜けてでてきます。 これもバランスが良いように重心を狙ってください。 このときの串を(Y軸と呼んでいます)中心に回る(ような)クルマの動きをピッチ、 またはピッチングと呼んでいます。 実際の中心と違うのは、ロールと同じ。

次は上から下へ、
スクリーンの前あたりから、ミッションを突き抜けて下に出ます。 これもバランスが良いように重心を狙ってください。 このときの串を(Z軸と呼んでいます)中心に回る(ような)クルマの動きを ヨー、またはヨーイングと呼んでいます。 実際の中心と違うのは、ロールと同じ。 なので、ハンドリングに関しての車の動きの中では、

ロールの慣性モーメント
ピッチの慣性モーメント
ヨーの慣性モーメント

の3つがあり、慣性モーメントだけでは、意味不明になりますが、 一般的にハンドリングに関して慣性モーメントと言われている場合は、 ヨーモーメントをさしている場合が多く、話題がロールに関してならロールモーメントを指しているのが普通です。 ハンドリングに限らずに言ってしまえば、フライホイール、タイヤ、 ホイールなどなどクルマには、慣性モーメントと言う言葉を使って説明する部分がたくさんあります。 一般的には、慣性モーメントは小さい方が良いとされています。 (フライホイール、クランクシャフトを除く)

慣性モーメントの大、小については、 同じ重さの物であれば、回転の中心近くに重量のあるのもが小さく 中心より遠くに重量のあるものが大きくなります。 ホイールにタイヤがセットされている状態を考えた場合には、 同じ1Kgの軽量化なら、タイヤを軽量化するほうがホイールを軽量化するよりは、 このセットの慣性モーメントは、小になります。

さらに、
ロールの慣性モーメントを考えた場合エンジンは横置きより、縦置き。 ピッチ、ヨーの慣性モーメントを考えた場合フロントエンジンより、フロントミッドシップ。 リアエンジンよりリアミッドシップ、 フロントラジエターより、サイドラジエター。 ガソリンの増減によって、ハンドリングに影響が少ないようにセンタータンク、クルマの部品? としては重たい部類に入るドライバーは真ん中。 が良いということになり、居住性や快適性を無視していくとsevenやフォーミュラーのようなレイアウトになるわけです。


コーナリング前半の動きについて

ステアリングの切り始めですが、 クルマには、二つの方向の力がかかっています。 ヨーの慣性モーメントとそのまま直進しようとする慣性力です。

ヨーの慣性モーメントについては、 F1なんかでコースアウトしたときに、クルマを吊り上げられます。 バランスよく水平に吊り上げられているとして、これを、回転させたいわけですが、 タイヤを横向けに押して回したとして、最初はかなり力を入れないと回りはじめません。 これは止まりつづけようとする慣性モーメントに逆らうからで、 回りだすと、その回転を維持させるために押す力はほとんど必要なくなります。
次には、目的の角度で止めるには、それ以前から逆の方向に力を加えないとそれ以上回ってしまいます。 これは、回りつづけようとする慣性モーメントで、走行時に置き換えれば、 ハンドルの切り始めはアンダーステア傾向になり、ステアリングを戻して回転を止めるときには、 オーバーステア傾向になります。 さらに直進しようとする慣性力に逆らって、向きを変えるわけですから切り始めはアンダーステア傾向の要因が重なります。 切り始めから少しおくれてクルマが向きを変え始めると、また違う力がかかってきます。 ゆっくりステアリング操作した場合はほとんど感じずにクリッピングに向けてのRを描いて、 遠心力による横方向の荷重移動に移行しますが、 急なステアリング操作で速く向きを変えると、 ヨー方向へクルマが回転しますが、クルマの機構上は後輪軸の真中を中心に回ります。 が、この操作が急なほど、重心の慣性が大きくはたらき、 重心を中心に回ろうとしますので、リアは、ステアリングを切ったのとは逆方向に振られます。 これは、割り箸などの長いものの片方を横向けにはじくように押すと、 反対側は、はじいた方向と逆方向に動き、真ん中あたりを中心に回るのと 同じ現象です。 さらに、まだ残っている直進しようとする慣性力があり、 直進方向に対して、前輪と重心とのずれによって、クルマは回転しようとします。 なので、急なステアリング操作で速く向きを変えた場合、車の向きが変わると同時、 もしくは変わった直後にオーバーステア傾向になります。 このオーバーステアを利用して、ドリフトに持ち込むのが慣性ドリフト。 フェイントモーションと言うのは、あらかじめイン側に位置し一旦アウトに方向にクルマを向ける事で、 直進方向の慣性力を、実際の直進方向よりアウトに向け舵角を多く取ることで、 さらにオーバーステア傾向を強くするテクニックだと思います。


スリップアングルについて

スリップアングル:タイヤの向いている方向と、実際に転がっていく方向との間の角度。

なのですが、これだけではどういうことか解りづらいです。 タイヤが横方向に外力を受けると変形しますが、これは、 タイヤが横方向にスプリングを持っていると考えてみてください。 横方向の外力が10Kgであった場合、1Kg/mmのスプリングであれば、 10mm縮んではじめて、10Kgの外力とつりあって10Kgを受けれますが、 タイヤの場合は、この10mm縮むのが、10Kg分の変形として、外力10Kgを受けれる状態になります。 この外力を受けつづけると、変形しながら転がる事になりますので、 タイヤの向いている方向と、実際に転がっていく方向にずれが生じ、 このずれがスリップアングルです。 なので外力が大きいほどスリップアングルは多くなります。 横方向のスプリングのかたさは、タイヤの横方向の剛性に相当します。 なので、同じスリップアングルであれば、横剛性の強い(ハイトが低いなど) 方が大きい外力を受ける事が出来ると言う事になります。

ロールセンターについて

よく聞かれる言葉で、単純に言えば、クルマがロール方向に回転する際の中心位置です。 このロールセンターが低いほどロールしやすく、ロール剛性が低いと表現されます。 ロールセンターが高く、重心位置と一致すれば、横Gによるロールはしないということになり、 重心位置より高いロールセンターであれば、 通常と逆にロール(ボートのように内側に傾く)する事になりますが、 現実には、そういう設計はされず、 ロールセンターは、地表下50mmから地上200mmぐらいまでに設定するのが常識的です。 フロントとリアのロールセンターを結ぶ線をロール軸と呼んでいて、 ロール軸は、前後の軸重の重い方を高く設定される事が多いです。 現実には、シャシのねじれを除いて前後で違う中心位置でロールできるわけではなく、 ロール軸と重心を通る垂直線との交点の高さを中心にロールします。 通常は、車高を下げる事により、アームの角度が変わり、ロールセンターは低くなりますので、 ロール剛性も低くなります。

リジッドアクスルとドディオンについて

次に、横方向の荷重移動とロールについて話を進めたいのですが、 sevenのリアは、リジッドアクスルかドディオンが多いと思いますので、 まずこの両者の、特徴を知っておく必要があると思います。 リジッドアクスルとドディオンとも、バネ下重量の違いはありますが、 サスペンションの動きとしては、ほぼ同じと考えられます。 左右同時の上下運動については、スプリングにレバー比は無く、 ホイール10mm上へ移動で、スプリング10mmの圧縮ですが、 ロールの際の片輪のみホイールの上下移動に対しては、 スプリング取り付け位置の幅/トレッド のレバー比が生じますので、 この面から見れば、左右同時の上下運動に対しては固く、 ロールに対しては軟らかいということになります。 しかし、ロールセンターは、アクスルの左右方向を固定するピボットと一致しますので、 ダブルウィッシュボーンなどに比べ非常に高いので、 ロール剛性は高く、車高の上下によって、ロールセンターは上下しませんが、 車高を下げた場合、重心位置が下がる事によって、 ロール剛性は上がりますので、ダブルウィッシュボーンなどで、 車高を下げる場合とは違ってきます。


横方向の荷重移動とロールについて

これが、一番重要で、知りたい課題ではありますが、 一番難解で、難しい課題でもありますのでできるだけ簡略し、 要素の少ない部分は無視していきます。 余計なオーバーステアが出ないようにゆっくりとステアリングを切り始め、 クリッピングポイントに向けて、Rを描いて進んで行くと、 このRの中心から、車の重心に向けて遠心力が発生します、 この遠心力を、横向けの加速度=横Gと呼んでいます。 横Gが発生すると、タイヤはスリップアングルを生じ、横向けの力を受けれる状態になり、 横Gと釣り合った状態になリますが、 横Gを受け止めるのが、タイヤと地面との接点(地表)であるのに対し横Gは、 重心に対してかかるので、この高さの違いから、クルマはロール方向に回転しようとします。 したがってロールと同時に荷重移動が起こります。

ロール量と荷重移動量は、直接関係は無く、荷重移動量は、 重心位置、トレッド、横Gの大きさに影響されますが、 ロールした結果、姿勢変化による荷重移動が加わりますので、 ロール量大=荷重移動大であることは確かです。 が、ハンドリングを考える場合は、姿勢変化による荷重移動の部分を無視したほうがわかりやすいです。 アンダーステア、オーバーステアの調整で、ダンパー、スプリング、 スタビを調整すると言うのは、この状態でのタイヤ接地圧を調整するということだと言えます。 説明が難しいのですが、解りやすいように、 レバー比無しの1Kg/mmのスプリングを前後につけた車重200Kgの車で、 さらに重心は真ん中高さ30cm、トレッドは150cmとして、 1Gの横Gを受けたとすると、200*30/(150/2)=80Kgの荷重移動がおきて、 外輪は+40Kg内輪は-40Kg(*注意1)となりますので、一輪あたりでは、 20Kgの増減です。この時、外側は各20mm縮み内側は、各20mm伸び接地圧も前後等しく、 20Kgずつの増減です。 ココで、フロントを1.5Kg/mm、リアを0.5Kg/mmのスプリングに変え(シャシを剛体と考え)ると、 同じ横Gを受けた時には、外側が各20mm縮んだ所で、40Kgを受け、 その時のフロントは、1.5*20=30Kg増、リアは0.5*20=10Kg増
と、
内側は、20mm伸びで、フロント30Kg減、リア10Kg減となり、 前後の、外輪と内輪の合計には変化はありません。 接地圧も同じ分だけ増減します。 これを大胆に縮めると、前後の比率で、ロール剛性が高い方が、 荷重移動を多く受け、タイヤ接地圧の増減も大きい。 と言う事になりますが、この説明でわかっていただけたでしょうか?

*注意1
本によっては、この状態を、200*30/150と計算し、 40Kgの荷重移動と説明されていますが、+40Kg、-40Kgを40Kgの移動と考えるか、 80Kgの移動と考えるかの考え方の問題で、 私は、80Kgの移動と考えた方が解りやすいと思いこちらを使っています。


タイヤ接地圧とスリップアングルについて

以前の説明で、タイヤ接地圧と摩擦力は、比例する。と書きましたが、 これは、タイヤが剛体で、止まっている状態の事で、現実のタイヤは、 剛体ではなく、転がっている状態ですので、これが当てはまらず、 たとえば、

接地圧摩擦力
10Kg10Kg
20Kg18Kg
30Kg24Kg
40Kg28Kg
50Kg30Kg

と、残念ながら、比例してくれません。

スリップアングルは、同じ横方向の外力(横G)であれば接地圧大なほど少なくなりますが、この少なくなり方も、 たとえば、同じ外力の場合

接地圧スリップアングル
10Kg15度
20Kg10度
30Kg6度
40Kg3度
50Kg1度

と、少し極端に書いていますが、このように比例せず外力を受けている限りは、永遠に0度にはなりません。

上記は実際にはありえない、わかりやすくするための極端な例ですが計算してみましょう。
静止時の荷重が4輪とも30Kgで横Gで、60Kgの荷重移動があり、 フロントのロール剛性が高く+20Kg−20Kgでリアが+10Kg−10Kgの場合、

フロントリア
接地圧50+10=6040+20=60
摩擦力30+10=4028+18=46
S.A1+15=163+10=13

と、左右両輪の合計ではロール剛性の高いフロントの方が摩擦力は少なくなり、 スリップアングルが大きくなります。

前後の荷重移動の時には無視していたので、ついでに計算してみましょう。 静止時の荷重が4輪とも30Kgで、減速により40Kgの荷重移動があった場合。

フロントリア
接地圧40+40=8020+20=40
摩擦力28+28=5618+18=36
S.A3+3=610+10=20

となり、この状態で、横Gを受けた時には、フロントの摩擦力が大、 スリップアングルは小で、オーバーステア傾向となります。 実際には、横方向にも荷重移動が起き、あわせて考える必要がありますが、 左右の荷重移動と前後の荷重移動のハンドリングに与える影響の割合は、 コーナリング中一定ではなく、ケースバイケースで、その割合を考える必要がありますのでこの部分は、 分けて理解しておいた方がいいでしょう。

ココで、お気づきの方もいらっしゃるでしょうが、 4輪全部で考えた時

摩擦力
横方向荷重移動86
前後方向荷重移動92
荷重移動無24*4=96

と、荷重移動無しの場合よりも減ってしまいます。


荷重移動と姿勢変化と摩擦力について

荷重移動によって4輪合計の摩擦力が少なくなる事が解りました。 これは、グリップ力の限界=コーナリングスピードの限界=減速力の限界が低くなる事を意味しますので、 荷重移動は少ない方が良いのですが、 荷重移動大小は、トレッド、ホイールベース、重心高さ、Gの大小に影響され、 設計段階で決められている物でどうしようもありません。 が、しかし、今まで無視してきた、姿勢変化による荷重移動は、 コントロールできます。 姿勢変化による荷重移動とは、ブレーキングによって、前傾になり、 重心位置が前寄りになる、ロールによって重心位置が外寄りになる事による荷重移動で、 これがロールを嫌い、ロールは少ない方が良いといわれる原因です。 これを無くするには、足廻りは、リジッドになりますが、それでは路面への追従性が悪く、 路面が完全にフラットでない限りはグリップ力は下がります。 ので、足廻りの硬さは、路面への追従性と、姿勢変化との妥協点となり、 路面が悪いほど軟らかくなるということになります。 さらに、姿勢変化にも多少のメリットがあり、姿勢変化が大きいほどドライバーは限界を感じ取りやすい。 また、姿勢変化が大きいほど、荷重移動速度が遅いので、コントロールし易い。 と言われています。 ので、姿勢変化のコントロールは、ドライバーの腕次第ともいえます。
たとえば、腕のいいドライバーが、硬い足廻りで、1分2秒でつくばをラップ出来るとすると、 その足廻りの真似をしたくなり、真似をすると腕が伴わない場合は、1分6秒でスピンばかりすることになり、 腕の差は4秒以上と感じてしまいます。しかし、 自分に合った足廻りを見つける事で、1分4秒で走れて、スピンも しなくなり、腕の差は2秒と言う事になります。

話がそれてしまいました。

横方向の荷重移動にも、荷重移動速度があり、 前後方向の荷重移動とほとんど同じ条件ですが、 スタビがからんできます。 これも、早いほうがクルマの反応がよいのですが、 上記のように、ドライバーの腕によります。


ダンパー、スプリング、スタビそれぞれの役割について

コーナリング時においては、 それぞれロール剛性をコントロールする物ですが、 どれで調整しても同じではありません。 それぞれの特性から、効き具合が変わってきます。 コーナリング初期の、向きを変えロールが始まる段階ではダンパーを調整するのが反応がよく、 だんだんロールが深くなっていく段階ではスプリングを調整、 ロールしきってロール角が最大になる前後では、スタビが効いてきます。 考え方としては、それぞれ、ロールしようとする動きに抵抗力を発生し、 その抵抗力が、タイヤ接地圧となって、クルマが反応するのですが、 初期の段階でロール量が少なく、 ロールしようとする速度の速い時点では、スプリングの発生する抵抗力は弱く、ダンパーが効いています。 だんだんロールが深くなっていく段階では、ロールする速度もだんだん遅くなってきて、 スプリングが圧縮される量も増え、スプリングが発生する抵抗力が大きくなってきます。 この段階では、プレロードを与えられない構造のスタビはまだ充分な抵抗力を発生していません。 ロール角が最高に達する前後では、スタビも充分な抵抗力を発生し、 スプリングでの抵抗力+スタビの抵抗力となりますので、 スタビでの調整が効いてきます。 ロールしきった状態では、ダンパーの効きは0になります。
ココでダンパーセッティングについての注意事項ですが、 (個人的にダンパーをコーナリング特性調整のために使うのは嫌いですので、 その分は割り引いて考えてください) ダンパーはその特性上、ロール角を調整できる物ではなく、ロール速度と、 ロール初期にのみ反応します。ロール速度を調整して、ロールしきるまでにコーナリングを終えれば、 最終的にロール角を調整した事になると思われるかもしれませんが、コーナリング初期から、 ロールしきるクリッピングポイント近くまでは、充分に時間があり、ダンパーでの調整は、やはり無理です。 確かにフロントダンパー強の場合、向きを変えるときの反応が良くなり素早く向きが変わるので、 アンダーが消える、もしくは少なくなり、その分奥まで突っ込めると思われがちです。 しかし、それよりも、ダンパー強によるデメリットは多くなります。 ブレーキングで、フロントが沈み込んでいる時には、路面のギャップをよくひらう、と言うか、 ギャップに対して、バネ上がよく動くと言うような事を感じている方がいらっしゃるかと思いますが、これは、 バネが圧縮されていてが強い状態でギャップをひらうからで、 これと同じ事が、コーナリング中の外輪には起きていて、コーナリング中 外輪は、路面への追従性が悪い状態にあります。 上記で、ロールしきった状態では、ダンパーの効きは0になると書きましたが、 悪い事に、このギャップをひらう動きではダンパーがはたらきますので、 路面への追従性はダンパー強なほど悪くなります。 逆の働きで、内輪が、縁石を超える時には追従性の良くなっているおかげで、 案外ズムーズに縁石を乗り越えますが、これもダンパーが強なほどバネ上の動きが大きくなってしまい、 不安定になります。 おまけにダンパーは、オイルの流路抵抗で減衰力を発生する物なので、 そのオイルの粘度に影響が大い=温度による影響が大きいので、ダンパーに頼りすぎると、 一周目と最終周の違いが大きい事や、セッティング中のダンパー温度と、 走り出しのダンパー温度の違いなどに気付かず、セッティングとしては、どつぼに入ることが多々有ります。

スタビは、その構造上、左右同時の上下運動での効きは0で、 コーナリング調整に適しているのではありますが、プレロードをかけれないので、 ロール初期段階では、充分な抵抗力を発生できません。さらに、 ロール初期段階で充分な抵抗力を発生するほど強にすると、最終的なロール量が極端に減り、 ドライバーが限界を感じ取りにくくなると共に、スタビに対するダンパーは無いので、 横G解除された時の反動が大きく、切り替えしのあるコースでは不安定になります。 ついでに言えば、リアスタビが強の場合、カウンターで止まった時のお釣りが強烈です。 が、スタビは、反対側バネ下に連結されていて、外側が沈みこむと内側も沈み込ませるように働くため、 内側が持ち上がるのを防ぎ、 車高を低く保て、荷重移動を少なくします。

それなら、バネで調整するのが一番良いのかと思われますが、 バネも硬くすると、ストレートやブレーキング、時での路面への追従性は悪くなってしまいます。 バネだけでロールを抑えようとすると、 タイヤのグリップ力が充分な場合は、外があまり沈まずに内輪が持ち上がるようになり、 重心が高くなり荷重移動も大きくなります。

コーナリング特性調整の為には、バネ、ダンパー、スタビ、のそれぞれの性質を理解して、 その3つのバランスの良い妥協点を見つけるようにする事が最適です。 極端な例で言うと、 リアダンパーとバネが弱で、スタビが強が極端な場合は、 コーナー中盤まではアンダーで、クリッピングポイント近くでオーバーと言うような、 一番乗りにくいリバースステアのクルマが出来上がってしまいます。


クリッピングポイントから立ち上がり

クリッピングポイントでは、どのペダルも踏んでいない状態、 もしくは、軽くスロットルを踏んで、エンジンブレーキを解除した状態で、 その時のステアリング特性は、弱アンダーが理想とされています。 これはこの直後にスロットルを踏むためにリアの限界がフロントより少し高い状態を維持しつつこの弱アンダーの程度とその時の向きで、 スロットルを踏めるタイミングをつかむためと推測していますが、 多くのドライバーがこの弱アンダーを好んでいるので、 早く向きが変わりクリッピングポイント近くでは弱アンダーになる足廻りセッティングにするために、 四苦八苦しているのが現実でしょう。
が、この、軽くスロットルを踏んでいる状態が、出来る出来ないで 条件が大きく変わり、中には、スロットルがハーフ以上開いているのを 左足ブレーキで調整している状態のドライバーまで居ますので、 ドライバーの乗り方次第と言う事になります。

面白い話、と言うか余談ですが、 耐久とか、GTでは、二人以上のドライバーが同じ車に乗るので、 ハンドリングについて二人以上の意見を聞くことになるのですが、 速いドライバーはアンダー、遅いドライバーはオーバーだと言う事が多いです。 データロガーで見ると、 速いドライバーの乗り方は、ブレーキングは遅く、奥まで突っ込み、 激しいブレーキングで減速しますが、ガツンと踏まずに、ギューと踏みます。 ブレーキを緩めると同時にハンドルを切り出し、ブレーキングをだんだん緩めながらクリップへ近づき、 クリップ手前でブレーキ解除、 すぐにスロットルを踏み出しますがハーフ以下でクリッピングポイントに付き、 その後全開ですが、ジワーと、全開にします。 その間ハンドルは、ジワーと切り込み最大舵角は、クリップ付近、 その後ジワーと戻しています。 遅いドライバーの乗り方は、奥まで突っ込めずにガツンとブレーキング、 ブレーキを緩めワンテンポおくれて、それでも早めにハンドルを切り出しますが、 その舵角は大きく、クリップまでしっかりブレーキを踏んだままオーバーステアはハンドルで調整していますので、 最大舵角はクリップより手前になっています。クリップを過ぎると即全開全閉の繰り返しで、 結局全開にするのはハンドルを戻す直前となっています。

これが良い例悪い例とは言い切れませんが、遅いドライバーは、 ペダル、ハンドル操作が荒く、クリッピングポイントで、スロットルを軽く踏んで、 リアのエンジンブレーキ力を解除と同時にフロントへの荷重移動を戻して、 オーバーステアから弱アンダーステアへの移行をスムーズに出来ないため、 オーバーステアだと言っているのではないかと推測しています。

話を戻して、 クリッピングポイントでのハンドリングの状態は、ドライバーの好みに合わせたとして、 その後はスロットルを踏み込むのですが、 この時、リアのグリップが限界もしくは限界近い場合は、スロットルを踏み込む事によって加速方向にもグリップ力を使う事になるので、 即スピンする事になります。なので、現実には、リアのグリップ力に多少余裕があるので、 スロットルが踏み込めると言う事になります。 スロットルを踏み込むと当然加速しますので、加速による荷重移動がおきて、 リアのグリップ力はさらに増し、フロントのグリップ力が少ない状態になり、 クリップ以後の加速状態ではアンダーステア傾向になり、 これをプッシングアンダーと呼んでいます。 LSD付きのクルマの場合、外輪と内輪の回転差をなくし、同じ回転で押そうとするので、 プッシングアンダーは強く出ます。これは、リアのグリップ力に余裕がある場合で、 リアのグリップ力に余裕が無い場合は、横Gと加速方向にグリップ力を使うと同時に、 LSDの働きで、内輪は加速外輪は減速方向へとこじるような力がかかります。すると、 リアが横Gに対して使えるグリップ力がさらに減りますので、オーバーステアになりこの状態は、 パワーオーバーと呼ばれています。 このパワーオーバーがスムーズにでれば、プッシングアンダーと相殺されて、 スムーズに立ち上がれるのですが、ハンドルを戻しきる、もしくはその直前から、 前に書いた、ヨーの慣性モーメントによるオーバーステア傾向がプラスされるので、 コントロールはかなり難しくなります。

プッシングアンダーを減らすには、

LSDの効き弱
荷重移動を少なくする=重心を下げる=車高を下げる
リアスプリング強
リアダンパーバウンド強
フロントダンパーリバウンド強
加速力弱

パワーオーバーを減らすには

LSDの効き弱
荷重移動を多くする=重心を上げる=車高を上げる
リアスプリング弱
リアダンパーバウンド弱
フロントダンパーリバウンド弱
加速力弱

と、LSDと加速力以外は、全く反対になり調整の難しい部分です。

え〜っと、これで、コーナリングが終ってしまいましたね。 ハンドルを戻した後は、踏みたいだけ踏んで行っちゃいましょう。 ハンドリングについては、これでおしまいです。


あとがき

”レースメカニックのお仕事”は楽しんでいただけたでしょうか。 セッティングにも終わりがありませんし、ハンドリングに影響を与える要素もまだまだありますが、 肝心な部分は一通り書いたつもりでおります。 また、その2で訂正したように、物理的理論と感覚もしくは理解するための例や説明には、 矛盾が生じますので、識者の方々には疑問に思える部分があるとは思いますが、ご容赦ください。 なるべく多くの方に解って頂けるように”Sueさんにも解る”を目標に(Sueさん、失礼をお許しを・・) 難しい専門用語は避けて、解りやすく説明したつもりですが、頭の中では解っていても、 文字にするのは難しかったです。 特にその7〜その10は難解だとは思いますが、この辺を理解していただかないと、 何のためにスプリングなどを変えるのかが解らないままになりますので、 ハンドリングのセッティングに興味のある方は是非、読み返してでも理解いただければと思います。

しかし、私の思っている、一通りの肝心な部分を理解していないレースメカニックや、 レーサーもいくらでも居て、勘だけを頼りにセッティングし、それなりの結果を出していたりするので、 理解しなければ、セッティングできないと言う意味ではありません。 逆に机上の空論となってしまい、結果が思い通りにならないことも多々有ります。 でも、机上論+感覚による勘で、セッティングがうまくいったときは快感ですよ。 なお、”レースメカニックのお仕事”に対する 質問、疑問、反論、間違いの指摘、違った意見、には、 可能な限りお答えしますが、都合上返信に時間がかかることも有りますので、ご了承ください。

”レースメカニックのお仕事”をご購読いただいた皆様には、 最後までお付き合いいただきありがとうございました。

byおの


「サーキットを速く走るために」編

”レースメカニックのお仕事”につづき、調子に乗って、 ”サーキットを速く走るために”と題して、レースセッティングの私の考えを一方的に連載しようと思っております。

レースをしておられる方で、ご自分でメンテナンスされている方対象です。

プロにメンテナンスを依頼されている方は、そのプロの方を信じ、 すべてを任せて、走る事だけに専念してください。 セッティングセンスや、レース運び、メンテナンス方法は千差万別で、 正解、不正解と線引きできるような物ではありません。 その中の私の思うやり方を紹介していきますが、 決して、私の紹介したやり方と比較して、 ”それは違うんじゃないか” とか ”他のプロがこう言ってたぞ”とか 発言したり、思わないでください。 ドライバーとメカニックの間には信頼関係が大切です。

レースをしておられる方対象なので、かなりの出費が必要です。

足廻りのセッティングをするわけですら、 硬さの違うバネ、ダンパー、スタビがなければ話になりません。 街乗りをされる場合でも、レース用のセッティング(バネやダンパー) では、街乗りに耐えれるものではなくなりますので、自走する場合でも、 現場で、スプリングとダンパーは換えるぐらいの覚悟が必要です。 現状で街乗りが快適なら、バネ定数(km/mm)で、倍ぐらいのレートから始めても、 やわらかいぐらいですし、ダンパーも街乗りでは、 突き上げでゴツゴツ感がひどいと思ってても、サーキットではやわやわです。 なので、レース用として信頼できる車高調整式ダンパーで、出来れば、 フロントとリアで同じスプリングが使える物、そのダンパーに合うスプリング数種類、 現状より強いスタビ数種類の用意が必要です。 必要な道具もそろえておかないと、時間がかかったり、 セッティングが出来ない状態になってしまいます。 走行会程度だという方は、レース中心になっておりますので、 適当に解釈して、可能な範囲でサーキット走行をお楽しみください。 レース中心の方でも、完全に遂行するには、走行時間やメンテナンス時間/費用の問題もありますので、 その辺は適当に判断してください。


レース車輌はとにかくクルマの状態の把握、管理が大切です。 車重、車高、トーイン、キャンバー、キャスター、キングピン角、トレッド、 ホイールベース、コーナーウェイト、タイヤサイズと減り具合、 フレームのねじれ具合と剛性、燃料残量、ダンパーとスプリングとスタビの硬さ、 前後のロールセンター、ストロークに対するキャンバーとトーの変化量、 エンジン出力と特性、LSDの特性 などすべてがセッティングに影響する物です。 調整不可能な物もありますが、知っておいて、それを頭にいれてセッティングを進める事が重要です。

まず自分でアライメントを取ります。 アライメントは、毎回、サーキット入りしたら毎日取ります。 レースから帰っても、バラす前にアライメントを取ってからメンテナンスに入ります。 何でそんなに、と思われるかも知れませんが、状態の把握、管理とアライメントは時には、 足廻りのトラブル(部品のクラック等)や、 シャシのトラブル(クラック、ねじれ、剛性低下)を、 教えてくれたり、整備ミス(車高設定、ボルトの緩みなど)を教えてくれたりします。 余談ですが、清掃も大切です、上記のようなトラブルや、 不具合を発見するのは、ほとんどが清掃時ですし、 レース界では、”きれいな車はコンマ1秒速い”といわれています。

まず、デーモンツイークスの赤い方の2002カタログを手に入れて

271ページのトーインゲージ
274ページのPACEコーナーウェイトゲージ
275ページのPACEキャンバーゲージ

を買いましょう。

リッチな方は、もっと良い物を、

262ページのコーナーウェイトゲージ
263ページのレーザーパッドレベリングシステム
273ページのレーザートー/トラッキングゲージ
275ページのスマートレベルキャンバーキャスターゲージ

など、もっと高価なものでも良いのですが、その辺は適当にお願いします。

もっとリッチで、速くなるのなら金に糸目はつけないと言う方は、 年間1000万円で、私と契約してください。 申し出ていただければ、この後の連載は中止します。 (って、冗談ですから・・^^;;)

そんなもんに金は出せん、と言う節約コースの方は、 トーインゲージ、キャンバーゲージは必要ありません。 コーナーウェイトゲージだけは、代用できる物がありませんが、 これも誰かに借りてしまいましょう。

節約コースの方中心に話を進めます。
もちろんクルマは、すべて調整ができる訳ではない事は解っております。 それでも、自分の車の状況を知るために、リジッドのクルマでもリアのアライメントも取ります。 アライメント測定の精度を上げるため、ホームセンターに行って、プラスティック製の メスシリンダー(100〜300cc)を2本と、透明のビニールホース(内径3〜6mm)を3m買ってきます。 メスシリンダーの側面下の方にビニールホースの外径より0.2〜0.5mm小さい穴をあけます。  それぞれのメスシリンダーの穴にビニールホースの両端をねじ込みます。 これで水平器の出来上がり、後はどちらか片側から水を入れていって、 両方ともに7割程度の水位まで入れます。 ココまで用意できたら、クルマを管理、メンテナンスするガレージで、 普段クルマをメンテナンスしている場所にクルマをおき、ガムテープ等で、 4輪の位置と車高を取る場所4箇所にマーキングして、一旦車を移動します。 メスシリンダーを、タイヤ接地面の中心と思われるところと、 車高を取る場所に別々において、 それぞれのメモリを読んでいき、一番水位の低い場所を探します。 メスシリンダーを片側だけ移動する時は、持ち上げてしまうと反対側があふれるので注意、 上を手でふたするとあふれません。 一番水位の低い場所が一番高い場所です。次はその場所を基点に、 低い場所に何かを敷いてレベルを合わせていきます。 敷く物は鉄板、アルミ板、プラスティックのシート、紙、ベニア板など、 重さに耐えれてA4ぐらいの大きさがあればればなんでもOKです。 4点が同じ水位になれば準備は終わりです。 信用できないようでかなり正確です。 高低差で、誤差1〜2mmくらいまでは計り様によっては出せます。 誤差1mmとしてトレッドを1350mmとしても、誤差は、角度で2分33秒 なので、充分な精度です。


レベルがでたので、クルマを元に位置に戻します。
タイヤ空気圧を合わせます。
ハンドルをまっすぐにします。

次に4箇所の車高を測定して、記録します。 車高の測定場所は、いつも同じであればシャシのどこでもいいです。 最低地上高も特に重要ではありません。 たとえば、アッパーアームのピボットが測りやすいのなら、 それでもOKです。ただ、最低地上高は、その数値マイナス?mmと、 おおまかに把握しておく必要はあります。 がんばって、0.5mmまでは目測しましょう。

次はキャンバーです、 糸(60〜70cm)の先にナット(10mm〜14mm)を結び付けます。 車を横から見て、ホイルの中心を通るように、ナットを吊るした糸を、 ナットが地面すれすれのところで、フェンダーにガムテープか何かで貼り付けます。 この時、糸かナットがタイヤにあたるようなら、 糸とフェンダーの間になにかかませて、タイヤに触れないようにします。 糸の揺れが止まるのを待って、ホイールの上側の、リム部分(一番外側の出っ張りは、 傷ついていたり曲がったりしているのでその内側の平らな部分) から、糸までの距離を計ります。同じように下側も計り、その差を計算します。 お解りの通り、問題は差なので、0から始まっている金尺でなくても、 プラスティックの文房具の定規で充分ですが、0.5mmまでは、がんばって目測してください。 ポイントは、定規をホイル面に対して直角ではなく、 水平(糸に対して直角)に当てる事です。同じ要領で全輪はかり、計算した結果はメモしておいてください。

測った数値のホイルの上側が大きければキャンバーはネガティブ逆はポジティブです。 自分の車の左右や前後での比較、状態による比較だけが目的なので、 mmのままでもよいのですが、通常は角度で表すものですし、 違うサイズのホイールに履き替えた時にも、他の車輌との比較でもピンと来ませんので、 角度に計算し直しますと、下のようになります。

測定値13インチ1415
mm
0.50.0870.0810.075
10.1740.161 0.150
1.50.2600.2420.226
20.3470.3220.301
2.50.4340.4030.376
30.5210.4830.451
3.50.6070.5640.526
40.6940.6450.602
4.50.7810.7250.677
50.8680.8060.752
5.50.9540.8860.827
61.0410.9670.902
6.51.1281.0470.978
71.2151.1281.053
7.51.302 1.2091.128
81.3881.2891.203
8.51.4751.3701.278
91.5621.450 1.354
9.51.6491.5311.429
101.7351.6111.504
10.51.8221.6921.579
111.9091.7731.654
11.51.9961.8531.730
122.0831.9341.805
12.52.1692.0141.880
132.2562.0951.955
13.52.3432.1762.031
14 2.4302.2562.106
14.52.5172.3372.181
152.6042.4182.256
15.52.6912.4982.332
162.7772.5792.407
16.52.8642.6602.482
172.9512.7402.557
17.53.0382.8212.633
183.1252.9012.708
18.53.2122.9822.783
193.2993.0632.858
19.53.3863.1432.934
203.4723.2243.009
20.53.5593.3053.084
213.6463.3863.160
21.53.7333.4663.235
223.8203.547 3.310
22.53.9073.6283.386
233.9943.7083.461
23.54.0813.7893.536
244.1683.8703.612
24.54.2553.9513.687
254.3424.0313.762

10進法表示ですので、小数点以下に60をかけると分が、またその小数点以下に 60をかけると秒が出ます。が、秒は切り捨てでよいでしょう。


次は、トーイン測定です。

右タイヤと左タイヤの距離の前側、後ろ側を計るタイプのトーインゲージは、 現場用として、4輪の整列具合もわかるように、少し時間をかけて計ります。 20mm角ぐらいのアルミパイプをクルマの全幅より、 40mmほど長い寸法にして2本用意します。 この2本の長さが全く同じ必要がありますので、やすりで仕上げて精度を上げます。

一本のパイプをフロントノーズに水平にガムテープで貼り付けます。 クルマの中心とパイプの中心が合うように、 高さは、ホイールの中心の高さ、なので、フロントグリルの前になるかと思います。 うまく水平に貼り付けましょう。 貼り付けたら、ホイールの中心からパイプまでの距離を測り、 約10mm以上の差があるようなら、パイプ貼り付け部に何かかませて調整します。(10mm以下なら無視)

同じように、後ろ側にももう1本のパイプをセットします。
パイプがセットできたら、パイプに糸を通します。 、たこ糸や、釣糸、何でもよいのですが、あまり太いとメモリが読みずらいです。 どこから通してもいいですので、1本の糸でクルマを一周するように前後のパイプに通して、 最後は結んで結び目は、パイプの中に回しておくとよいでしょう。 これで、クルマの左右に平行に糸が張れたことになります。 これを基準にトーインを取るわけですが、精度を上げるため、 パイプの左右の位置を正確に真中に来るように、 まずフロントは、フロントホイールの前側のリムと糸との距離が左右で同じになるようにパイプを左右にずらせて合わせて行き、 ある程度まであわせてから、次には、後ろ側も左右位置を合わせます。 面倒な作業ですががんばってください。 次には、もっと精度を上げるために、前側は、フロントホイールの前側と後ろ側の糸との距離を測り、 その平均値が左右同じになるように合わせます。続いて後ろ側も同じようにパイプの左右位置を合わせます。 ココで、お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、一回り太くて、短いパイプをかぶせて、 二重構造にすれば、この左右合わせの作業は、簡単に出来るようになります。

左右あわせが完了したら、測定に入ります。 もうすでに何度も測定していますが、もう一度きちんと計ります。 測定は、水平で、糸と直角に0.5mmまでは目測してください。 フロントは、ホイールリムの前側と後ろ側の差を左右共測定、 計算して記録しておきます。 リアも同様です。 ステアリングがまっすぐかどうか、今一度確認します。

トーイン測定が終われば、この状態で、左右のホイールベースを測っておきます。 これは、直接メジャーで測って問題ないでしょう。 トーインも、角度で管理する方が便利です。換算はキャンバーと同じ。 右タイヤと左タイヤの距離の前側、後ろ側を計るタイプのトーインゲージを使われる方は、 この状態で、測っておけば、タイヤで?mmのトーインは角度で?度と解り、 現場での緊急の調整には便利です。


次に、コーナーウェイトを測りますが、 これは、それぞれの、ゲージの取り説に従ってください。 コーナーウェイトゲージのない方は、誰かに借りるか、 ショップで測ってもらうとよいでしょう。 レースに参加する時は、オフィシャルに申し込むと、 車検の事前に、ウェイトを測らせてくれる場合がありますので、 聞いてみて、測れるのであれば、メモを持っていって、 コーナーウェイトを記録しておきましょう。

レースカーにおいてコーナーウェイトは、非常に大切です。 高価なものは必要ありませんが、レースをつづけるつもりであれば、 圧力式の3万円程度の物で充分ですので、ご自分でもたれる事をお勧めします。

で、コーナーウェイトゲージを自分で買った場合は、自分であわせるしかないので、少し説明を、

150(F.L)180(F.R)
125(R.L)130(R.R)

のような場合、右前に重量物が集中しています。 ベストな方法は、重量物の移動です。 が、無理、もしくは難しい場合は、左前の車高を少し上げ、 同じ分右前を下げで、

160170
120135

と、妥協できる範囲になります。 また、

150180
135125

のような場合は、フレームがひずんでいます。 この場合、乗車状態から見て、前が右にねじれている、もしくは後ろが左にねじれている状態です。 車高もそのように出ているはずです。 ベストな方法は、フレーム修正機で修正ですが、 左前の車高を少し上げ、同じ分右前を下げ、 左後ろ少し下げ、同じ分右後ろ上げで

165165
130130

と、こうはうまくいきませんが、重量物の片寄りよりは、 うまくコーナーウェイトが出せてしまいます。

さて、アライメント測定の結果は、いかがでしたでしょうか? とんでもない数値だった場合は、調整する必要があります。 が、その前に、そうなった原因を追求します。 アームやフレームの曲がり、左右部品の精度などよく確かめて、 原因が解れば、その修理もしくは部品交換が先決です。 原因が解らずの場合は、調整するしかありませんので調整します。 全くアライメントの基準が解らないという方は、 個人的な意見で、sevenには触った事はないですし、 おおよそですが、sevenには、以下の数値が適切ではないかと思われます。(ラジアルタイヤの場合)

フロントトーイン=0〜アウト20分
リアトーイン=0〜イン20分
フロントキャンバー=1度〜2度30分
リアキャンバー=0〜1度30分
コーナーウェイト左右差=車重の3%以内
圧力式の場合=4輪圧力合計の3%以内

sevenでのレース経験が豊富で、何度も調整して適切なアライメントをご存知の方は、 この数値にこだわる必要は全くありません。あくまで、参考です。

アライメントでもう1つ大切な物に、バンプステアがあります。 これは、車高の変化によってトーインが変化してしまう物です。 完全にトー変化を0にするのは難しいですし、ラックの取り付け高さか、 タイロッドエンドの取り付け高さを変更する必要がありますので、 調整は困難ですが、バンプステアが大きいと、ブレーキングで不安定になったり、 ロールが大きい時に不安定な動きになります。 暇な時にでも挑戦してみてください。 バンプステアを取るのはフロントのみです。 取り方は、スプリングを外して、ダンパーのみ取り付け、 トーインを取る要領で、車高を変えながら、トーインを測ります。 車高は、ダンパー伸びきりもしくは、バネが遊ぶ車高から、 5mm刻みに、ノーズが地面に付くまで、もしくは、機械的な限界の車高までを測定し、 トーインの変化を測ります。 この、フルストロークでの変化量が、20分以内なら問題ないですが、 それ以上なら、調整出来るように加工してでも調整する価値があると思われます。 この時、ついでにキャンバー変化量とレバー比も測って把握しておけばセッティングに役に立ちます。

アライメントに付いてはココまでですが、 要するに管理が大切で、車高を下げてキャンバーが、目的以上に付いているとか、 キャンバーを変えて、トーがあっちゃ向いてるとかと言う状態のままでは、セッティングになりません。 いちいち測るのは面倒ですが、慣れてきて、道具を工夫すれば20〜30分で車高、 キャンバー、トーぐらいは測れるようになりますし、 点検しておけば走行時の安心にもつながります。


サーキットを走行してのセッティングです。

練習第一、と、走るばっかりもいいのですが、 感じ取る事と、状況に合わせた走り方も大切ですので、 ある程度慣れたらセッティングを始めないと、そのクルマのその状況での走り方に固まってしまいます。 また、不具合に対応するだけで終わってしまわずに、 その走行時間の、目標を立てて、たとえば、バネの硬さならバネの硬さに重点をおいて、 意識して感じ取るように走り、積極的に調整しないと、進歩はありません。 先に書いた、アライメントも含め、何度もバネやスタビを交換したり、 セッティングと言うのは、面倒な作業ですが、がんばりましょう。 かなりプロ的になりますが、 セッティングに終わりはないと言ったように、これでもうこれ以上はないと言う足廻りはありませんし、 もうセッティングが出来る用意がない時でも、 燃料を少なくして、予選用の車高を決めたり出来ますし、 前後のスタビを切って(外して)しまったり、弱いばねをいれて、 ドライでどの程度走れるか、を試すのも、乾きそうなウェットからのスタート時には役に立つデータと練習になります。 ただし、エンジンや燃料系、電気系にトラブルがある場合は、 そちらを優先して、足廻りセッティングは後回しです。 スターティンググリッドにつく事が最優先ですし、調子の悪いクルマではセッティングになりません。

と言う事で、まず実走行で最適な車高を出します。 といっても、車高だけを上げ下げすると、色々不具合がでてきますので、 対処しながらになりますが、車高を出す事を目標にセッティングに入ります。 以前の説明から、車高は低ければ低いほどよいのですが、限界が有りますので、 だんだん下げていきます。もちろん基本は、水平で4輪同時に、 この時点では、タイムは関係ありませんので、目的の場所で、 目的程度のブレーキングが出来れば、ピットトゥーピットで帰ってきて調整する方が早く出来ます。 車高の低さの限界は、路面とのヒットで決まってしまいますので、 3mm〜5mmぐらいづつ、じょじょに下げていきます。 一番ハードなブレーキングをする場所で、一旦ノーズが路面にヒットするまで下げます。 この、ヒットの仕方ですが、

「ガツン、スーー  」の場合は、ダンパーが弱すぎ。
「ゴン、ザッ、ザッザッ  」の場合は、スプリングが弱すぎ。
「ザーッ、ザッ、ザッザッ  」がベストです。

が、それ以前に、コースのパンピーな場所で、車体をヒットするようなら、 ダンパーバウンド側を、これも、4輪同時に強にします。 それで、もし、そのパンピーな場所を越えるのに不安定になって、 全開でいけなくなる。もしくは、硬すぎて耐えれない場合は、 それが、車高の低さの限界となります。

レースカーには、すり板と呼ばれる、5mmぐらいの厚みの アルミ板か真鍮の板が、底に取り付けてありますので、 それが最初にヒットして、シャシには影響ないようにされていますが、 sevenにそういうものが無く、直接フレームがこする様なら、 何か対策をしておいてください。 毎回こすりながら走るわけにはいきませんので、この状態から、3mm程車高を上げ、 ベスト車高として記録し、常に維持するようにしてください。 予選一発のハードブレーキで軽くこするぐらいが、ベストな車高です。


前回の車高の出し方は、フォーミュラーカーの事で、 sevenの場合、ウェットサンプでは、一番最初に路面にヒットするのは、 オイルパンなのかもしれませんが、その場合は、アンダーガードをつけておいて、 そのアンダーガードがヒットするまでと言う事になります。 また、ドライサンプ車でも、もともとの設定車高が100mm以上と聞いておりますので、 途中で、無理が出てくるところがあるかもしれません。ので、機械的な限界は、 ボールジョイント、ピロボールの角度の限界や他の部品との接触などで、 ガレージで、アライメントとともに、ストロークの限界を調べておきます。 スプリング、ダンパーを外した状態で、ハブを手で持ち上げ、 無理のない状態までが、ピロボールやボールジョイントの角度の限界と判断してよいと思います。 ハンドルを切った状態でも確かめます。 次は、ダンパーのみを取り付けて、先程の限界と車体が路面にヒットする位置の早いほうを優先して、 バンプラバーが効いて足廻りをいためたり、急激に車体が路面にヒットしないように設定します。 バンプラバーは、材質や元の長さによりますが、 2/3ぐらいの長さまでは比較的簡単に圧縮されてしまうので、バンプラバーの長さが2/3になって、 上記の限界として問題ないと思います。 バンプラバーが無しでも、限界までストロークしないダンパーだった場合は、 残念ながらレースでは使い物になりませんので、街乗り用に取っておいて、 短いダンパーを入手しましょう。

ジオメトリー的に無理が出てくる場合考えられるのは、 フロントロールセンターが下がりリアのロール剛性は上がるので、 途中からオーバーステアになるような事ですが、 この場合、車高を優先するかジオメトリーを優先するかによりますが、 出来れば、車高は下げたいので、フロントに硬いバネをいれて対処可能であれば、 硬いバネを入れてもう一度出直しです。 車高を下げると、フロントキャンバーがネガティブについてくる事も、頭に入れて、 出来れば下げるたびに、キャンバー調整を同時に進めたいのですが、それが無理でも、 ある程度以上キャンバーが付いてしまっていた場合は、調整します。 また、ダブルウィッシュボーンの性格上、ストロークに対してのキャンバー変化量が、 車高を下げるほど大きくなり、 タイヤによっては、その変化に対応できなくなって、ロール時のグリップ力が減ったり、 不安定になります。その場合、キャンバーを減らせばある程度対処できますが、 アームの取り付け位置の変更が出来ない限りは、 それが、車高の限界となります。

と言うように、どうなった、もしくは、どうしたから、そうなった(ハンドリングが 変わった)かを考えながら、対処してさらに車高を下げるのか、元の車高に 戻すのかを判断していき、最終的な車高を決定します。

車高設定のために、車高を上下したのなら、アライメントを取り直します。 キャンバー設定は、車高と同時に進めても良いです。
ドライバーの感覚に頼らずに、タイヤの減り具合を見て決めます。 外側が多くく減っていれば、ネガティブに振って、内側が多く減っていればポジティブに振る訳ですが、 この時に必ずタイヤ温度を測って、内側と外側の温度差が10度以内で、 内側と外側が均等に減る所にあわせます。 温度差が10度以上なのにまだ外側が減ると言う場合は、 温度差の方を重視してください。

ココで、タイヤ温度について少し触れておきます。 タイヤ温度の上昇はタイヤ表面と路面との摩擦でおこるのではありません。 確かに多少温度は上がりますが、無視できる程度です。 タイヤ温度の上昇は、トレッド面のゴムの変形によりタイヤ内部から起こっています。 なので、ほとんどはスピードが高く、ゴムの変形の激しいストレートで、温度が上昇しています。 で、キャンバーが付いている場合は、内側の温度の方が高いわけです。  なら、なぜ左側のほうが高いのかというと、 左側に荷重のかかっている(ゴムの変形が多い)時間が長いからで、 グリップしているほどタイヤ温度は高くなる事になります。 なので、タイヤ温度によって、キャンバーは決める事は出来ません。 温度差が10度と言うのは、タイヤの性質を維持するための温度のばらつきの許容範囲ということです。

ついでに空気圧について、
タイヤ空気圧は、温間が大切で、冷間空気圧はどうでもいいです。 この温間空気圧をうまく管理できるように、ラップチャートには、 毎回、走り出しの気温、路面温度を付け、ピットイン時に温間空気圧を合わせて、 走行終了時にもチェックします。 その後、日陰におき、冷えた時に、冷間空気圧を測り、 その時の空気圧と気温もラップチャートに記録しておきます。 このデータを何度か取れば、決勝スタート前の気温、路面温度から、 冷間で何キロ入れれば、温間で適切な空気圧になるかが解ります。  このために、タイヤは、最低でも走行の1時間前からは、日陰において管理し、 空気圧をあわせるのは、走行10分前ぐらいが良いでしょう。

キャンバー設定は、新品か、新品に近いタイヤで行ってください。 減ったタイヤでキャンバー調整すると、 新品に換えたときに、必ず不具合がでます。 キャンバー変更で、トーインが変わってしまう場合は、 その都度修正していってください。

これで、ベスト車高と、ベストキャンバーが出ました。 この二つは、ハンドリング調整のためにあまりいじりません。


次にダンパーの硬さをコーナリング時に合わせます。

車高を出すためにフロントダンパーを調整して、 ブレーキングの為にちょうど良いダンパーセッティングが出来ているのなら、 これもあまりいじらず、そのフロントダンパーの硬さに合わせたリアの硬さを探し出します。 コーナリング初期の向きを変えロールが始まる部分に神経を集中して、 前後のバランスを考えフロントに、リアを合わせます。 あまり硬くすると、トラクションでは不利である事を確認しながら設定します。 とはいえ、軟らかすぎると、ステアリング切り始めから、ロールが始まる初期の段階で、 フロントの動きにリアがついてこれず、 硬すぎると、この段階ではクルマの反応はいいのですが、 その後バネやスタビが効いて来た時にはねるように流れます。 (ドライバーによっては、”横っとび”する感じといっています)

次にダンパーリバウンドの調整ですが、 ダンパーリバウンドは、コーナリングにあまり影響しませんので、 どの段階でも不具合があれば調整します。 軟らかすぎる場合、全体的にふわふわした感じで、4輪同時にバンプするような時に、 一回で止まらず何度も上下に揺られます。 また、ストレートエンドでクルマが落ち着かない感じになります。 硬すぎる場合、ブレーキングなどで、沈み込んだら上がってこない感じ、 コーナリング中の連続したギャップでクルマの動きが不安定になる。 などの症状になりますが、その症状がまだ無い場合は、 シケインなどの切り替えしで1つ目のコーナーから2つ目に移る際のロールからの起き上がりのスピード調節に使えます。


次は、バネです。セッティングにおいては、やはりバネが一番大切だと 私は考えています。

なので、今までずいぶん苦労しました。 一番厄介だったのは、ウィングカー時代のフォーミュラーで、 最低地上高40mmのレギュレーションになった時で、 40mmも隙間が開くと肝心のアンダーウィング効果は激減します。 そこで考案されたのが、バネは、停車時の車高を維持するためだけの軟らかい物を入れ、 本来のバネの働きは、バンプラバーですると言う物でした。これで、車検時は40mmの車高が保てて、 実際に走り出すと、ウィングのダウンフォースによって、 20mm以下の車高になり、衝撃吸収、ロールの制御は、 スタビとバンプラバーの材質、太さ、高さ、で調節するのです。

それに比べたら、今は楽です。 バネのするべき仕事をバネにさせれるのですから、 しかもそのバネの硬さは数値で示されています。 と言う裏話も入れながら・・・
まずはフロントなのですけど、 実は、多くのsevenのフロント足回りは、レーシングカーとしては、 考えられないような、厄介な足回りです。 現段階では、ブレーキングにバネの硬さを合わせているのですが、 そのブレーキングに関しては、逆アンチノーズダイブになっています。 アップライトのロワーピボットにトラニオンを採用しているため、 フロント足回り全体が、キャスター分後傾して、 もちろん上下アームのシャシ側ピボットも後ろ下がりになっているため、ブレーキングでは、 積極的にノーズダイブしてしまいます。 おまけにそのトラニオンの機構上ハンドルを切る事によって、 ピボットが上下しますので、ジオメトリーが変わってしまいます。

さらに、ワイドトレッド(ロングアーム)が、流行しているようですが、 その場合、ダンパーの取り付け角度が、前から見て、かなりハの字になっていて、 45度近く傾斜しているように見えていますが、 これも厄介で、ストロークしていくと、だんだん軟らかくなる方向になります。 これの逆は、世間で言う、プログレッシブルで、よいのですが・・・

さらにワイドトレッド採用時は、レバー比がかなり変わりますので、 ワイドとレッドの効果を直接比較するには、アーム交換と共にレバー比を計算して、 バネを交換しておく必要があります。 別に、sevenをこけ下ろしたいわけではないので、誤解の無い様ににお願いします。 (今は私もsevenオーナーですから)

sevenのフロントバネの設定は、上記のことを念頭において進める必要があります。

レバー比が出てきたので、ご存知の方も多いでしょうが、 少し説明しておきますと、 sevenのフロントレバー比は、0.66と聞いていますが、計算がややこしいので、 0.5のレバー比の場合、

レバー比が1(無し)で2Kg/mmのスプリングの場合、 レバー比が0.5なら4Kg/mmだと勘違いしている人が多いのですが、 この誤解は、動かしてみればわかります。 上記で、タイヤを20Kgの力で押し上げた場合、10mmストロークしてバランスが取れます。 計算は、20Kg/10mm=2Kg/mm、これを、レバー比0.5で考えた場合、 40Kgの力で、5mmのストロークで、バランスをとる必要がありますので、 計算は、40Kg/5mm=8Kg/mmとなります。 要するに「2/レバー比^2」となります。

なので、sevenの場合、リアスプリングが2Kg/mmの時にフロントとリアを同じ硬さにしたいときは、 (左右輪同時の上下の場合)2/0.66^2となり、4.59Kg/mmのスプリングがフロントに必要です。


説明を加えますと、 sevenのリアの場合、左右同時の上下動の場合レバー比は無しですが、 ロール時には、ダンパー取り付け位置の幅/トレッド幅のレバー比が発生します。 私のバーキンの場合、940/1330=0.71がロール時のレバー比となりますので、 ホイールレート(レバー比1の事)で2Kg/mmならば、ロール時は約1Kg/mmの硬さしかない事になります。 スペーサーなどを入れて、ワイドホイールをはかせた場合は、 さらに、レバー比が大きくなっていますので、要注意です。 リアのロールセンターが、フロントよりもかなり高いため多少救われていますが、 サーキット走行ではリアスタビが欲しい所です。

肝心のスプリング設定ですが、 フロントに関しては、コーナーリングだけに合わせれれば良いのですがそういうわけにもいきません。 現在は、ダンパーと同じく、ブレーキングのノーズダイブで、 路面にヒットしない車高を維持するための硬さになっているはずですので、 コーナリングでのロール量にかなりの不都合が無い限りは現在のフロントにリアを合わせる方向になります。 バネの設定には、そのサーキットでの中速コーナーが適しています。 中速コーナーで、ステアリングをきって向きが変わりロールが始まってからロールしきるまでの範囲を意識して、感じ取るようにしますが、 バネは、立ち上がりにも効いていますので、進入時と、 スロットルを開け始めてからの立ち上がりでの前後のバランスを確認するようにします。

クルマやタイヤにもよりますが、リアが軟らか過ぎると、フロントを中心にピッチングが起きたりします。 それが無い場合は、感覚的な判断になります。 リアが固すぎる場合で、タイヤが勝っていると、外側が沈まずに内側がもちあがる感じになります。 あたりまえですが、リアスプリングは、可能な範囲で弱く設定する方が、 立ち上がりでの、トラクションでは有利です。 進入も、立ち上がりもニュートラルステアがのりやすいのかもしれませんが、 それは無理です。 進入ではエンジンブレーキもしくはブレーキング状態、 立ち上がりでは加速状態ですので、同じステアリング特性にはなりえませんので、 どこで妥協するかがポイントですし、それぞれの乗り方と個人的感覚なので、 決まったレートや、前後比もありません。 どうしてもつかめない(解らない) 場合は、とりあえずリアスプリングを2割ほど固いものに変えてみると、 良くなるにしても悪くなるにしても、方向性が見えてきます。

全体を硬くしたい、軟らかくしたいといった場合、 現在のレート+?Kg/mmというのではなく、割合で考える方がうまくいきます。 たとえばフロント10Kg/mm リア5Kg/mmの状態から、全体を硬くするのなら、 フロント12Kg/mm リア7Kg/mm では無く、 前後とも2割アップで、 フロント12Kg/mm リア6Kg/mmが正解です。

バネ設定は重要な要素なので、もっとたくさんの症状の例を出して 説明できれば良いのですが、私の場合は、自分が乗った感覚ではなく ドライバーからのコメントと、それまでのセッティングの流れから 判断していますので、説明できません。  あしからず・・


スタビのセッティングに入りますが、その前に少し。

多くのsevenには、リアスタビがありません。 そこで、サーキットを速く走るためには、本当に必要なのかどうかを考えてみます。 スタビの無い理由は、ロータスには無かったからだと思いますが、 それでは、現行のタイヤ、エンジン、サーキット路面には合わないような気もします。 しかし、sevenのリアサスペンションにスタビが不向きなのには以下のような理由もあります。

sevenのリアサスペンション(リジッド、ドディオン)は、フロントと同じく、 レーシングカーとしては考えられないような厄介な物です。 (ロール量にかかわらす対地キャンバーが一定だという部分は すばらしいのですが・・・)
リンクの方式云々については、話がややこしくなりますので無視して、 バネ上とバネ下を別々に考えると少し解りやすくなります。 バネ上は、横Gによって、ロールし外輪のバネを圧縮して、 内輪のバネは、荷重が抜けた分伸びます。 ココまでは、あたりまえで、すでに理解されていると思いますが、 バネ下も、左右がつながっているので、バネ下はバネ下で、独自に荷重移動し、ロールしようとします。 ホーシングだけが転がっていって、急旋回するのを想像してみていただくと解りやすいかと思います。 ホーシングだけだと、サスペンション無しのリジッドなので、荷重移動が、 想像しにくいですが、極端な急旋回では、内輪が浮くような事は想像つくと思います。 なので、横Gによるバネ上の荷重移動に加え、バネ下も荷重移動するので、 内側のタイヤ接地圧は少なくなります。 この状態で、スタビをつけると、スタビの機構上、内輪バネ下を引っ張り上げる方向に働きますので、 さらに内輪のタイヤ接地圧が少なくなり、場合によっては、浮いてしまいます。 内輪が浮かないまでも、接地圧が低いため、内輪は空がきしやすく、 LSDが市販されていなかった当時では、コレは、致命的だったと思います。

なら、LSDが市販されている現在で、sevenのリアスタビは必要なのかといわれると、残念ながら、 私には経験が無いので解りません。 今までの所、フロントは、ブレーキング時よりロール時はバネは強く働く方向であってスタビ付きなのに対して、 リアは、ロール時のバネは弱く働く方向で、唯一ロールセンターが高いだけなので、 ロールの深い所ではフロントの負担がかなり多い事は想像がつきます。 ロールの深い所でアンダーなら、付けてみる価値はあると思われますが、そうでない場合は、 もう少し複雑な要素が絡みますので、リアスタビの必要性についてはやはり付けてみないと解らないです。 経験した車の中では、唯一86が、リアホーシングだったのですが、 スタビはついていましたし、スタビの交換によって、ロールをコントロールしていました。 ただ、左右直結に近いようなLSDの調整が必要で、それには、独特の乗り方も有ったようです。 スタビの無い車を、サーキットでセッティングした事が無いので、 この先もスタビが有る前提で話を進めますのでご了承ください。


スタビの調整について

スタビの効果は、すでにおわかりだと思いますが、 ロール時にしか効かず、ダンパーコンプレッション側の効きとリレーする形で効き、 最大ロール量調整に効果大です。 その、最大ロール量は、設計上フォーミュラーで、1度〜1.5度。 ツーリングカーでは、3度〜5度と言われていますが、最近のツーリングカーは、もう少し少ないようです。 sevenでは、設計上は5度ぐらいのロールは容認していると思われますが、 現行タイヤ、現行サーキット路面では、2度〜3度ぐらいに抑えるのが適当ではないかと思います。 データロガーにダンパーストロークセンサーがある場合は、 ダンパーストロークから、ロール量を計算して、スタビを調整したりしますが、 そうでない場合は、やはり乗った感覚で、調整する事になります。 一番ロールの深い、クリッピングポイント前後のハンドリングで、 通常は、前後のバランスで、グリップさせたい方を弱くするのですが、 それは、ある程度セッティングの出た状態での話で、sevenの場合は、 フロントは特に、あまりストロークを多くとると、ジオメトリー的にキャンバーがつきすぎたり、 バンプステアが出たりして不安定な域に入ります。そして、硬いほうがグリップする可能性がありますので、 弱くすれば、グリップすると言った、一般論の先入観を持たずに調整する必要があります。 経験上の話としては、一般車に限らず、レーシングカーでもほとんどの設計者は、 スプリング、スタビ、ダンパー、車高に対して弱気で、 車高は低い方がよく、スタビ、ダンパー、スプリングとも、設計段階の設定値よりも、 硬いほうが、タイムは出ます。 特に、スタビについては、レーシングカーであっても、設計段階の硬さで、 満足できる結果であった事は無いといえるほどです。 古い話ですが、Gr-Aの時に、BMW M3のチャンピオンマシンをシュニッツァーから買った時、 スペアパーツとして、ダンパー、スプリングは一本も無く、 スタビを前後5〜6種類渡されて、”タイヤとサーキットによって、スタビを変えろ、 セッティングはそれだけだ!”と言われました。 実際には、スプリングを作って変えたりしましたが、スタビの交換だけのセッティングで、 チャンピオンをとったティームもあるということです。

フォーミュラーでも、F2からF3000に移行した頃に、スプリングの硬さは タイヤの固有振動数に合わせる。ロール量、前後バランスはスタビの調整で行う。 と言うセッティングが流行して、みんながタイヤ屋さんに固有振動数を聞きに行って、 そんなことを知らないタイヤ屋さんがタジタジになった時期がありました。

実際のスタビ調整から話はそれましたが、一般車では全く問題にならないスタビなので、 調整すると言う概念がない方が多いと思われますので、 例を出してみました。 個人的な意見としても、一般道では問題のない物ですが、サーキットにおいては、 ダンパーや、スプリングを換えるのと同等以上に、交換、調整の必要があると思いますので、 サーキットを速く走るためには、現状より硬いスタビの用意をお勧めします。


スタビまで終わり、サスペンションセッティングが一通り終わりましたが、 車高、ダンパー、バネ、スタビとセッティングが進んでも、 満足できる状態でない場合、もう一度車高からやり直しです。 一通り経験しているので、次は、途中からでもいいですし、 明らかにバネが合っていないとわかるならバネだけを換えてもいいです。

タイヤの種類やハイト、設定空気圧が変わると、クルマの動きが変わってきますし、 路面温度、路面の質、などによってもやはりサスペンションセッティングは違う物になってきます。 慣れてきてコーナリングスピードが上がってきた時にもセッティングは変わってきますので、 一度決まったらずっと同じと言うわけにもいきません。 もっと言うと、シャーシがへたってきて剛性が下がると、 硬いバネが必要になってきたりしますので、新車時とシーズン終了時には、 ぜんぜん違うバネがはいってたりすることもよくある事です。

アライメントによるセッティングについて。

sevenの場合アライメントの調整は、リアは車高のみ、 フロントは、車高、キャンバー、トーインのみですが、 フロントの車高は、一度決まったらコレをいじると基準がなくなりますので、 前後バランスの調整のための車高調整は、リアのみでするのがいいでしょう。 キャンバーも、アンダーだからネガティブにと、安直にいじる物ではなく、 タイヤのヘリ具合とタイヤ温度を見て一度決めると、タイヤが変わる、 設定空気圧が変わるなどがない限りは、コレもあまりいじらない方がセッティングはうまくいきます。 フロントのトーは、キャンバーにより変わりますが、セッティングに使うというよりも、 転がり抵抗の少ないようにあわせるほうが良いと思います。 しかし、タイヤ温度分布で内側の温度が高すぎるけれども、外側がよく減ると言う場合は、 トーイン方向に振ると、タイヤ温度が外側に移っていき結果としてフロントのグリップが上がる場合もあります。


雨の日の走行について。

雨の日は、基本的には、走らない事をお勧めします。 雪がなくては、スキーは出来ない、波がなくてはサーフィンが出来ないのと同じで、 スポーツですから天候に左右されます。あきらめてください。 過去の経験から、危険度はドライの10倍ぐらいになります。 80%くらいの確率でクルマを壊されます。 プロのドライバーで、スポンサーがあるわけではないのであれば 危険を冒してまで走る意味はないです。 しかし、レースにエントリーしていて、予選や決勝が雨なら走らないわけにもいきませんので、 雨対策を、

1.サーモスタットがない場合は、グリルにガムテープを張って、水温調節 と同時に、熱対策のダクト類は、塞いでしまいます。

2.ドライと同じタイヤなら、空気圧は20%ほど高い目にあわせます。 理由はタイヤ温度が上がりにくい事と、接地面を減らして面圧を上げ、 水はけをよくするためです。

3.前後とも車高を上げます。
思い切って10mm〜30mmぐらい上げてしまいましょう。 理由は、コースアウトする確率が高いので、グラベルにつかまりにくいように と、重心を上げてロールしやすいようにします。

4.ダンパーをソフトにします。
思い切って、フルソフトでもいいくらいです。 コレも、理由は、初期ロールしやすいようにです。

5.スタビを外してしまいます。
片側のリンクだけを外せばOKです。

6.バネを20〜30%軟らかい物に交換します。

7.キャンバーを30分〜1度ポジティブ側にふる。
理由は、ロール角が浅いので、それに対応するためです。

8.ブレーキバランスをリアに2回転ほど振ります。
理由は、荷重移動が少なく、フロントが先にロックしてしまうからです。

優先順位順になっています。 とりあえず時間のない場合は、この順位で実行していって、 バネやキャンバーは無視してもいいですが、時間がないとわかっていれば、 車高は、高い目にしておくのが良いでしょう。 ブレーキバランスは、車に乗り込んでからでもできる前提で、最後です。 調整の量は、雨の度合いにより適当に判断してください。 その他にも、ECUの雨対策やコクピットに水が入ってくるのならその眼張りシールドの曇り止めなども忘れずに・・・


あとがき

気が付けば、一般的に言える事は書き終えていました。

サーキットを走ってらっしゃる皆さんの参考になったでしょうか。

くどいようですが、サスペンションセッティングは、同じことを何度も繰り返す面倒な物です。 がんばって、セッティングしていってください。 コレもまたくどいようですが、たとえば、筑波を1分2秒で走る同じ車種の2台のsevenのスプリングレートが、 F15k/R10kとF6k/R8kであっても、私には、なんら不思議ではありません、 それぞれが、それなりの乗り方をしていて、両方とも速いのですからそれでいいのです。 自分の乗り方に合ったセッティングを見つけ出してください。 私たちが一番困るのは、たとえば、”シルビアに乗っています、 スプリングは何Kがいいですか” という質問で、”乗り方によります” と答えると、”奥まで突っ込んで、速く向きを変えてたちあがっていくタイプです” とか言われてしまいます。 ”その向きの変え方にもよりますし・・・・・・・” と、くどくど説明すると、”結局答えられないのか”と言われてしまいます。 答えられないのですからそれでいいのですが、与えられる情報が少ないのに安直に何Kなんて答えられません。 私が知っているのは、何をどうすると、どういう動きになるかであって、 スプリングを何Kと決めるのは、それまでのセッティングの流れと、 コーナーでの状況を聞いて判断しているので、車種によって決まったレートはありませんので、 皆さんは、その辺を勘違いしないように、苦手なコーナーがあるのなら、 そのコーナーのどういう動きがいや、もしくは怖くて苦手なのかを自分で判断して、 コレまでの私の書き込みを参考にセッティングをしてみてください。

ココまで、読んでいただいた方には長い間お付き合いいただきありがとうございました。

サーキットを走ってらっしゃる皆さんのご健闘を期待しています。

私も今は、バーキン+BBエンジンを入手し、筑波1分切る事を目標に車を作っている最中ですので、 完成すれば、サーキットでお会いする事があるかもしれませんが、その時はお手柔らかにお願いします。

byおの