父母のめぐみ(父母恩重経のはなし)

第4回講座

「ああ、かかる不孝の子を持てる」


法典:


直訳:
29 子供も二歳ころになりますと、やっと母親のふところを離れて、はじめて独り歩きをするようになります。しかしまだ体がしっかりしていませんから、うっかり手放したままにしておくと、とんでもないことになります。 30 父親が教えなければ、やけどをそろことさえ知りません。 31 また母親が刃物のあぶないことを教えなければ、指をおとすということすら、わきまえておりません。 32 三歳になると、すっかり離乳して、ものを食べるようになります。 33 何でもむやみに口に入れたがりますから、父親がよく教えなければ、毒を食べて命をおとさないとも限りません。 母親がついていなければ薬が病気を直すことさえ分かりません。 34 父親が外出して、よその家にまねかれ、おいしい珍しい食べ物をご馳走になっても、なるべく食べないようにして、わが家に持参し、子供たちをよんで、食べさせてくれます。 35 十回招かれれば一回ほどは手土産をもって帰らないことはあるかも知れませんが、九回までは手土産をもって帰ります。子供たちはいつも父母のおみやげをよろこび、ほほえんで、これをいただきます。 36 もし、どうした都合か、たまたま手土産をもって帰らないときにはどうでしょうか。子供はいつわって泣きさけび、お父さんをせめたり、お母さんにせまるといったありさまであります。

法典:


直訳:
37 だんだんと子供も成長して友人と遊ぶようになりますと、父親は衣だの帯だのを買ってやり、母親は髪をととのえ、もとどりをなでてやり、自分の好みの着物はみんな子供に与えてやって着せ、自分たちは古着を用いたり、破れた衣服でもそれをつくろって身につけています。 38 わが子が妻をもとめて他の女の子と結婚しますと、父母をひどくおろそかにするようになります。若い夫婦はおたがいに親しみ近づき、部屋にあって仲むつまじく語り楽しんでいます。 39 父母は次第に年をとって元気がなくなり、力もおとろえてまいりますと、たよりにする者は、わが子のほかにありません。 40 また頼みとする者は、嫁以外にはおりません。 41 ところが夫婦とも、朝から晩まで、いちどだって父母のところへやってきて、安否をたずねようとはいたしません。

法典:


直訳:
42 あるいは父が母をさきに亡くしてしまうこともあれば、母が父をさき立てて亡くしてしまうことがあります。 どちらにしても残された者が一人さびしく空室をまもるのは、あたかも一人旅の者が宿をとるようで、全くあじけなく、常に恩愛の情もなければいっしょに話しあう楽しみもありません。 43 夜中には夜具が冷えて、ゆっくり寝ることもできません。 44 着物も洗濯をしていませんので、不潔になりがちで、安眠することもできないようなありさまであります。 45 そこで、いくたびも、寝がえりをうって、いうことはきまった老いのくりごとです。 「ああ、わたしはどうしたわけで、このような不幸な息子をもったのだろう。」 46 親が用事があって子をよびましても、親にとってはどうしても気に入らない息子夫婦のことでありますから、こわい目をして怒り、口ぎたなくののししります。 47 そこで嫁も息子も、いっしょになって親を馬鹿にし、ひそかに嘲(あざけ)ります。 48 こんなことでは嫁も不幸であることはいうまでもなく、息子もまた不順でありますから、夫婦ともども五逆罪のうちに数えられる「親殺し」という罪業を言葉をもって犯すことになります。


解説:
「五逆罪」

1)父を殺し、2)母を殺し、3)宗教的な聖者を殺し、4)仏身より血を出し、5)仏教教団の団結を破る、という五つの重大な罪業をいいます。
親殺しというのは、べつに殺人ということでなくても、子供が口ぎたなくののしり、怒ることによって親殺しの罪業を犯したことになります。 父母を心配させ、悲しませるようなことをすれば、すべてこれ親殺しです。


法典:


直訳:
49 あるいはまた、急用があって、早く子供をよんで用事を頼もうとしますと、十ぺんに一度さえもこころよい返事はせず、親のもとにきて用事を足してくれないばかりか、怒ってののしっていいます。 50 「老いぼれはいつまでも生きているよりも、早く死んでしまったほうがましだ」と。 51 父母はこの言葉を聞いて、うらみのこころで胸がいっぱいになり、目は涙でくらみ、心まよい、悲しみ叫んで、こういいます。 52 「ああ、お前は小さいときにはわたしでなければ養うことができなかった。わたしでなければ育てられなかったのだ。」 53 ところが、今になってみると、逆に次のような思いがつのるばかりであります。 54 「ああ、わたしはお前を生んだけれども、こんなことであれば、いっそのこと生まなかったほうがよかった」と。 55 「もしも不幸にして、右に述べたような子がいて、父母が「生まなければよかった」といって嘆くようなことがあるとすれば、父母の嘆きとともに、その子はすでに地獄、餓鬼、畜生といった、人間以下の世界に墜ちているのであります。 56 すべての仏さま、金剛天、五通仙たちも、そこに墜ちた人間をすくうことはできません。父母の恩がいかに重いかということは、とうてい、言葉ではいい表わすことができませんが、いってみると、天空が限りないようなものであります。


解説:
「仏さま、金剛天、五通仙」

 金剛天は、仏法を守護する金剛力士。五通仙とは、五つの超自然的能力(天眼通、天耳通、他心通、宿命通、神足通)をそなえた聖者であります。


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