父母のめぐみ(父母恩重経のはなし)

第5回講座

「父母に十種の恩徳あり、何をか十種となす」


法典:


直訳:
57 信仰心の深い男性、女性のみなさん、このように無限に深い父母の大恩をかりに区別してみますと、父母に十種の恩徳があります。 58 十種というのは何かといいますと、次のとおりです。 59 一、妊娠したとき行往座臥食物などに注意する恩のめぐみ。 60 二、子供を生むときに受ける苦の恩のめぐみ。 61 三、子供を生んだときにその苦しみをすっかり忘れて愛念するの恩のめぐみ。 62 四、お乳を与えて養ない育てる恩のめぐみ。 63 五、おしっこで濡れたほうに身をかわして、乾いたほうに子供をやる恩のめぐみ。 64 六、大小便などの不浄を洗濯する恩のめぐみ。 65 七、食味を口に含んで、これを与えるときには、にがい味のものはみずから飲み、甘いものは吐いて与えてやる恩のめぐみ。 66 八、子のたまにやむを得ないことがあるときは子の愛にひかれて、自分の意に反した悪業をつくるけれども悪道に堕すことがない恩のめぐみ。 67 九、親元を離れて遠く旅でもするときは、帰ってきて顔をみるまで心配するという恩のめぐみ。 68 十、生まれる前から成人するまで慈しむという恩のめぐみ。 69 このようにして、まさしく、父母の恩のめぐみが重いことは、天空の限りないのに似ています。

法典:


直訳:
70 信仰厚い男性、女性の方がたよ、このような父母の限りない恩のめぐみは、どのようにして報いるべきでしょうか。とても報いつくすことはできません。 71 そこで、仏さまは詩形のことばで、父母の恩のめぐみを賞賛して、次のようにのべられています。

72 慈悲深い母親が懐胎して十カ月の間というものは、胎児は外から生命を養う食物をとることができませんから、胎児は母親の血を分け、その肉を食うといわれるように、母親の身体から直接に栄養をとります。そうしますと、母親は重病にかかったように体がおとろえます。これはわが子に対する血と肉との施しにほかなりません。子供の身体は、このようにして形をなしてまいります。
73 月が満ちて、いざ出産ということになりますと、陣痛が始まり、身体中に痛みをおぼえ、骨節はばらばらに解体してしまうほどで心は悩み乱れ、たちまちにして一命を落してしまうこともあります。
74 やがて出産が安らかであれば、死んだものが再び生きかえるようになり、産声をあげるのを聞きますと、母親もこの世に生まれ出たように感じるものであります。
75 初めて子供が生まれたときには、母親の顔は花のように美しかったのに、子供を養って数年のたちますと、容色もすっかり衰えてしまうほどでありいます。


法典:


直訳:
76 水のようにつめたい霜ふる夜も、氷のように寒い雪の朝がたにも、母親はおねしょで濡れたところに自分は寝ても、子供は乾いたところに寝かせます。
77 子供は母親のふところに大便をしたり、またはその着物に小便をしても、母親は少しもそれをいとうことなく、洗濯して清潔にしてあげます。
78 食物の味をまず口に味わってみてから、これを子供に与えるときに、うまくないものは自分で食べ、うまいものはすすんで子供に与えます。
79 もし、わが子のためにどうしても止むにやまれず、親心から道をふみはずして罪を犯して、みずからその報いを受けるようなことがありますが、親はそれをもいといません。
80 もし、わが子が遠く旅立つならば、無事に帰ってきて、その元気な顔をみるまでというものはわが家から出ても帰宅しても、旅のわが子に思いをめぐらし、寝てもさめても、いつも案じるのはわが子のことです。


法典:


直訳:
81 親というものはこの世に生きている限りわが子の身に代わってでもやってやりたいと思いますし、自分が死んだのちでもわが子をいつまでもあの世から護ってやろうと願うものであります。
82 これほど広大無辺な父母の恩徳は、どのようにしたら、世の親の子として報いることができるでありましょうか。 83 生きている間には到底、報い尽すことはできないほどであります。ところがどうでしょうか。生長して大人になりますと、父母が何かの用事があって言葉をかけても、声を荒々しく、怒ったりすることがあります。母親が世話をやいても、それに対して反抗いたします。 84 結婚して新しい生活に入りますと、父母にそむき、その気持に全然そぐわないようになり、それはまるで、全く恩を受けたことのない他人のようにふるまいます。兄弟も仲良くしないどころか、にくみ嫌うことはまるで恨みがある者のようにさえいたします。 85 これに対して妻の親族の者がきますと、奥座敷に招き入れて、もてなし、自室に迎え入れ、うちとけて話しあいます。 86 ああ、これほど嘆かわしいことがありましょうか。人々はまさしくさかさまになって、親しい者をかえってそまつに扱い、親しくない者とかえって親しむというのは、何としたことでありましょうか。 87 だが、父母の恩徳の重いことは、天空が限りなく広がっているのにたとえられます。

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