要約「10% HUMAN」


第2章 消化器トラブルと肥満 (p66 - 96)

第2章の主要ポイント

 - 消化器トラブル / ウォーカートンの悲劇
 - ニワムシクイの生態
 - 現代人の肥満
 - 腸内細菌(マイクロバイオータ)の食物
 - 粘膜好き微生物との共生



消化器トラブル / ウォーカートンの悲劇

消化器トラブル / ウォーカートンの悲劇

2000年カナダの田舎町ウォーカートンで上水道がO157汚染され住民5千人の半数が死亡。

このO157ウィルスの感染がきっかけで、「過敏性腸症候群」にかかり2年過ぎても1/3の住民が激しい腹痛と下痢が襲い続け、苦しんだ。

この悲劇がクローズアップされて、腸内細菌群の重要性が明るみとなった
ディスバイオシス
「過敏性腸症候群」の原因は、腸内細菌群の足並みの乱れ(ディスバイオシスという)
腸内細菌群での多様性が失われて、いつも多い細菌が減少したり、別の細菌が優勢になる、あるいは潜んでいた細菌がこれを好機にと暴れ出すこともある。 また、正常なときにはない炎症が別のところに出ることがある。例えば、腸壁を覆う細胞間に隙間を作って、そこから炎症トラブルの元を外に洗い出す。


ニワムシクイの生態

ニワムシクイの生態
イギリスからアフリカまで渡る茶色の小鳥


参考)ニワムシクイの奇妙な生態を動画で解説

エサを食べて脂肪をつけ2週間で体重17gから37gの肥満となり、数千km飛び元の体に戻る。


エサを食べて脂肪をつけ、2週間で体重17gから37gの肥満となり、奇妙なことに鳥籠中で大空を飛ばないのに、元の体に戻る

食べたカロリー以上に脂肪が蓄積し、運動量以上に脂肪が消費される。そんな何らかのしくみがこの鳥の遺伝子にプログラム化されている。


現代人の肥満

現代人の肥満

欧米人は過去50年間で体重の1/5(20%)増加している。1965年 50kg の人が2015年 60kg に。

2030年 アメリカの全人口の86%が肥満に
2047年 アメリカの全人口が肥満に

人という生物種は現在、ニワムシクイの「体重増進期」にあたり、少なく食べても脂肪が蓄積し、運動しても脂肪がそれほど減らない


肥満の原因は、DNAの体重増加遺伝子という説、あるいは、ウイルス感染説、など
対策としては、各種ダイエット(効果小)、
胃のバイパス手術(効果大)


腸内細菌(=マイクロバイオータ)の食物

腸内での食物の流れ
人が食べた物は小腸で消化吸収されたあと、大量な細菌がいる大腸に移動する。 そして細菌はそれぞれ好みの分子を分解し、吸収できるものだけ吸収する。 細菌が作った化合物の中で、人に有益なものが大腸の内壁から吸収される。
人の食べ物によって腸内で定着する細菌が変わる
 ある菌種は「肉に含まれるアミノ酸を分解」する遺伝子(DNA)をもつ。 ある菌種は「緑野菜に含まれる長鎖の炭水化物を分解」する遺伝子(DNA)をもつ。 ある菌種は「小腸で吸収されなかった糖分子を分解」する遺伝子(DNA)をもつ。
 例えば、「アミノ酸を分解する菌種」は、肉が安定供給されて繁栄するので、肉食者の腸内には多いが、菜食主義者の腸内には少ない。 肉食者がローストポークを食べると菜食主義者より多くのカロリーを引き出す。 また「脂肪好きな細菌」は、毎日甘いおやつを食べる人の腸内で多く繁栄。脂肪好きな人は、食べたドーナツや菓子から多くのカロリーを吸収。脂肪好きでない人は、大半が吸収されず大腸を通過する。
腸内細菌が人の食欲をコントロールする
 腸内細菌が人の遺伝子に信号を出して、エネルギーを脂肪組織に貯蔵させようとする。 一方、人の脂肪組織は、脂肪として貯蔵すると同時にレプチンという信号を出して、満腹感を脳に伝えて、食欲を減らそうとする。


粘膜好き微生物との共生

脂肪細胞が炎症を起こすケース


パトリスカニ(ベルギーの大学の栄養代謝学の教授)が、脂肪細胞が不健康になるメカニズムを発見した。


step1:腸内に住む「粘膜好き微生物」が減少
step2:リボ多糖(LPS)が血液中に入り込む
step3:脂肪細胞が炎症を起こして
step4:エネルギーが脂肪細胞に詰め込まれる
step1 の説明:粘膜好き微生物「アッカーマンシア・ムシニフィラ」 (ムシニフィラ=粘膜好き)

 粘膜好き微生物がびっしりと張り付いて層を作る。実は、この微生物が人の遺伝子に信号を送って粘液分泌を促し、できた粘液層に付着する。 こうして、人体の内部にリボ多糖(LPS)の侵入を防いでいる
step2 の説明:健康な人は、腸内細胞全体の4%が粘膜好き微生物で占められるが、BMI値が高い人ほど、この微生物が少なくなって層は薄くなる。肥満者に至ってはほぼゼロとなり、LPSが侵入して血液中に入る
step3 の説明:肥満者の血液中にリボ多糖(LPS)が入って濃度が高まると、脂肪細胞が炎症を起こして、脂肪細胞は分裂できない状態になる。
step4 の説明:健康な人がエネルギーを貯蓄する場合は、脂肪細胞が活発に分裂して新しい脂肪細胞に蓄えるが、肥満者の場合は、脂肪細胞が分裂できず数少ない脂肪細胞に多量の脂肪を詰め込むはめになる。 ここには免疫細胞が多く集まっていて、まるで感染症と戦闘中のようだ。
食事療法による治療




太ったマウスに「粘膜好き微生物」を加えたエサを与えると、健全細胞が増えて、体重が減る。レプチンの感受性も高まる。
痩せたマウスに高脂肪なエサで太らせると、「粘膜好き微生物」は減ってくる。この太ったマウスに植物繊維を加えたエサを与えると、「粘膜好き微生物」は再び増えてくる。
第4章で「粘膜好き微生物」のエサについて説明。


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ここからは付録、後でゆっくりご覧下さい!


第2章の残り項目

 - 消化器トラブル / 過敏性腸症候群
 - マウス実験などで解ってきた事実
 - 肥満マウス/人の腸内細菌群
 - 肥満はエネルギー貯蔵システムの機能障害
 - コラム:時代は変わって



消化器トラブル / 過敏性腸症候群

消化器トラブル / 過敏性腸症候群の流行
胃腸科医のところに訪問する人の 1/10(10%)、米国では300万人が患者。幾つかの要因がきっかけで、腸内細菌群のバランスが乱れ症状が発生する
要因:感染症、抗生物質、危険な薬、および 不健康なダイエット
症状と腸内にいる細菌群の特徴
膨満感や食欲不振:(シアノバクテリアが多い)
腹痛:(プロテオバクテリアが多い)
便秘:(17種類の細菌グループで量が多い)
共通点は、腸内細菌群が健康人と違うだけでなく、細菌種類の比率が不安定に変わる


マウス実験などで解ってきた事実

肥満者と普通者との比較
摂取カロリーの差:
 普通マウスが100カロリーを得るエサの量で、肥満マウスは102カロリーを得る、2%太る。 人間で換算、62kgの人が1年で1.5kg増、10年で15kg増
消費カロリーの差:
 普通マウスは、エネルギーを筋肉や器官での消費と、脂肪としての蓄えとの双方を行うが、肥満マウスは脂肪として多くを蓄える。 人間も同じ。
食欲の差:
 脂肪組織から「レプチン」というホルモンが血液中に多く放出され、これが脳に満腹感を伝える。普通マウスはこれで食欲が減ってくる。 肥満マウスの血液中には常時レプチンが多く放出されているために、 脳が「レプチン耐性」になって満腹感が伝わらない。 人間も同じ。


肥満マウス/人の腸内細菌群

腸内細菌群の違い痩せたマウス
1として
バクテロイデーテス門という種の
細菌の数量
肥満マウス 0.5
50%減少
フェルミクテス門という種の
細菌の数量
肥満マウス 1.5
50%増加
細菌集団の移動
ケース1)無菌マウスに、普通マウスの盲腸の内容物をなめさせると無菌マウスが太り始める。2週間で60%体重増。
ケース2)痩せたマウスの腸内細菌群を、肥満マウスの腸内細菌群で入れ替えると痩せたマウスは太る。
ケース3)肥満マウスの腸内細菌群を、痩せたマウスの腸内細菌群で入れ替えると肥満マウスが痩せてくる。 コンセプト「痩せた人の細菌を太った人に移す治療法」が特許にもなっている。


肥満はエネルギー貯蔵システムの機能障害

ウィルス感染症のケース


ニキルドゥランダハル(現在米国肥満協会の会長)が、25年前、肥満は生活習慣業ではなく伝染する感染症であることを発見。「アデノウィルス36(AD36)」
調
ニワトリや小型猿マーモットにAD36感染させると肥満となる。 人の場合、血液を数百人から集めてAD36の抗体反応を調べると、肥満者の30%が抗体反応(痩せた人は11%程度)

AD36感染すると、エネルギーが脂肪組織に貯蔵する方向へ加速する。


コラム:時代は変わって

2千5百年前、医学の父ヒポクラテスが「すべての病気は腸からはじまる」とまで言った。 2千年後の今の時代に知られるようになることを、感じ取っていたのかもしれない。 数十年前、「胃潰瘍」はストレスとカフェインが原因の生活習慣病だと信じられていた。 1982年、胃の中にコロニーを作るヘリコバクター・ピロリ細菌による感染症だと分かる。
スエーデンは肥満を深刻な問題としてとらえていて、高カロリー食品に「脂肪税」の導入を検討しており、医者は太り過ぎの患者に運動を命じることができる。




第2章のガッテン・ポイント

(1)消化器トラブルの一つ「過敏性腸症候群」は、腸内細菌の乱れによって起こる、 (2)腸内細菌の食物が「肥満」に関係する、 (3)粘膜好き微生物「アッカーマンシア・ムシニフィラ」が人の脂肪細胞を健康的にコントロールすること。
(4)肥満者の脳は「レプチン耐性」で満腹感がない、 (5)腸内細菌群の種類によって肥満の度合いが違っている、 (6)「肥満」は AD36 ウィルス感染でも起きて伝染し拡散すること。


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