要約「10% HUMAN」


第4章 免疫とアレルギー (p130 - 164)

第4章の主要ポイント

 - 人は無菌では生きられない
 - 免疫学のおさらい
 - 制御性T細胞(Treg)への指示を出すのは
 - アレルギーの原因
 - アレルギーと抗生物質
 - コラム:チコちゃんに叱られる



人は無菌では生きられない

人は無菌では生きられない
人類史上でほぼ無菌で生きた唯一の人間がデイヴィット君。 重症複合型免疫不全症として生まれ、ずっと無菌室で育った。
泡のような仕切り空間にいたので「バブルボーイ」との愛称。 空間記憶は貧弱だが、時間記憶は優れていた。
1971年12才の時、姉から骨髄移植を試みたが、残念ながら1ヶ月後に死亡。原因は姉の骨髄にウィルスが隠れていて、それが弟のリンパ種を引き起こした。
デイヴィット君を無菌で育成中に糞尿の微生物を観察していて、腸の中に少しずつ細菌のコロニーが出来ていた。害を与えているようすはなかった。死亡解剖の結果、消化管が普通の子どもと変わらず正常であった。無菌マウスを解剖した場合には、消化管が普通のマウスとは著しく違っているのだが、「バイエル板」と関連する。


免疫学のおさらい



(参考図)免疫系のチーム

マクロファージ - - - 歩兵
B細胞 - - - 狙撃兵(特定の標的を撃つ)

T細胞(Th、Tc、Treg)の中で、
ヘルパーT細胞(Th)- - - 通信士官(免疫応答の司令官)
制御性T細胞(Treg)- - - 准将(免疫応答にブレーキをかける)
T細胞は、胸腺学校で厳しい訓練を受けて、生き残った未熟T細胞だけが成熟T細胞となる


(参考図)胸腺学校

制御性T細胞(Treg)

制御性T細胞(Treg)への指示を出すのは

制御性T細胞(Treg 細胞)

准将 Treg 細胞は、興奮した司令官(ヘルパーT細胞)を抑える



免疫系は「炎症反応」の促進と抑制のバランスをとっている。自動車の運転に例えると、
    アクセルを踏み込みながら(ヘルパーT細胞)
    ハンドブレーキを軽く引き続ける(Treg細胞)

アクセルから足を離すと、免疫機能が停止して、病原菌が増殖する。 また逆に、ハンドブレーキから手を離すと、免疫機能が暴走気味になる。

准将 Treg 細胞に指示を出す最高司令官は、人間の細胞でなく、マイクロバイオータ(腸内細菌)だということ。 微生物にとっては、免疫系は穏やかで寛容なほうが都合がよい。


アレルギーの原因

アレルギーの原因
アレルギーの広がりについて。真の辺地にアレルギー問題は存在しない。 欧米では1950年代に増えはじめ、1990年代からは横ばい状態、つまり満杯。 途上地域や新興地域では年々アレルギーが増えている。
衛生仮説
1989
アレルギーは感染症が原因。幼い時に多くの感染症にさらされることから、衛生意識が高まり清潔に手洗いして寄生中が減ったり予防接種をするなどして感染症が少なくなった。
 感染症を経験しなかったが故に、体内に危険な微生物がいなくなり免疫細胞の仕事が奪われ、無害な花粉などを標的にしている。
旧友仮説
1998
「ホロゲノム進化論」、免疫学の発展により真実が解明が進み、抗生物質などによる腸内細菌のバランスの乱れが真の原因。
 結果、免疫系のバランスを保っていた「Treg 細胞」に指令を出す微生物が少なくなり、免疫機能が勝手に暴走するようになった。
「ホロゲノム進化論」とは、宿主(ゲノム)と微生物(マイクロバイオータ)が一体となって進化してきた。免疫系もあらゆる微生物と一緒に育ってきている。 例えば、祖先が哺乳類に進化して、母親の胎盤で赤ちゃんを育てるようになると免疫系が、「自分」である母親とは違う赤ちゃんを「自分でない」から「敵だ」と攻撃することが起こらないように免疫系の機能が進化してきた。Treg 細胞など


アレルギーと抗生物質

アレルギーと抗生物質
「90年代小児調査」2013年イギリスの大学、1990年代初期に妊娠中の1万4千人を対象に、妊婦から生まれた小児の調査結果を報告。
その中には、(1) 2歳前に抗生物質を与えられた小児は、全体の74%。 (2) その小児たちは、8歳になるまでに嘆息を発生する率が2倍近くも高い。 (3) 抗生物質の治療回数が多い子ほど、嘆息、皮膚炎、花粉症を発症しやすい。

抗生物質で一つの感染症が治っても他の感染症に対して無防備になる。抗生物質が目標の病原菌をなくしてくれる、というよりはむしろマイクロバイオータ(腸内細菌)の構成比を大幅に変えてしまうためである。

抗生物質「メトロニタゾール」は無酸素の嫌気性の細菌だけを殺すが、
1)マイクロバイオータの構成比が変わる。
2)免疫系の振る舞いが変わり、人の遺伝子に作用して、腸を防護する粘膜層のタンパク質の製造を止めさせる。
3)粘膜層が薄くなって、あらゆる微生物などが血液中に侵入しやすくなり、免疫系は過剰攻撃の態勢となる。


コラム:チコちゃんに叱られる

チコちゃんに叱られる風のたとえ話
チコ「アレルギーって知ってる。何んでなるの?」
岡村「親の遺伝子とかの影響じゃないのかな」
チコ「それもあるけど、ボーット生きてんじゃないよ! アレルギーになるのは、あなたのお腹に回虫がいなくなったから!」
寄生虫とかを駆除し衛生的になり、「興奮した免疫細胞」が自分の身体を過剰に攻撃するようになった、これを「衛生仮説」という。「旧友仮説」では、微生物こそが「興奮した免疫細胞」を抑制する役割を持った昔からのお友達なのです。


(参考図)
寄生虫が Treg 細胞を誘導し免疫系を抑制
糖尿病ネットワーク(2020年5月)


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ここからは付録、後でゆっくりご覧下さい!


第4章の詳細項目

 - 胸腺についての解説
 - コレラ菌の戦略
 - 病原体にとって毒性と宿主
 - バイエル板とは
 - 免疫系とのパスワード
 - Treg 細胞異常「IPEX 症候群」
 - リーキーガット・コンセプト
 - コラム:「リーキーガット症候群」
 - 腸の透過性に関連した病気
 - ニキビは思春期のシンボル?
 - ニキビ治療と抗生物質



胸腺についての解説

胸腺

胸腺についての解説記事


コレラ菌の戦略

コレラ菌の戦略

コレラ菌は宿主の腸内で増殖して、宿主が瀕死の状態になるとすばやく脱出する。

1)コレラ菌は腸内の壁に接着し猛烈に増殖
2)コレラ菌のCAI-1遺伝子の働で、微量の化学物質を放出
3)増殖してこの濃度が高くなり一定値まで達すると、コレラ菌のCAI-2遺伝子の働で、一斉に動作が変わる。これを「集団感知」という。
4)「ゾット」という毒素を出して、人の腸の隙間から水を出させる。この時、別な酵素を出して腸壁から離脱し、水と共に体外に脱出する。

宿主から追い出されるのではなく、自らの計画で脱出し、子孫を確実に増やす。人の機能である鍵穴、それを開く鍵(ゾット)をコレラ菌が持っていること。
「ゾット」は閉鎖帯毒素と言い、腸の細胞を結合する鎖をゆるめ、水を腸の側に流す。これに対して、人の方は「ゾヌリン」という同じ機能の酵素を持っていて、これが腸の透過性をコントロールしていることが分かっている。(これに関しては後述)


病原体にとって毒性と宿主

病原体にとって毒性と宿主

病原体の微生物では、バランスのよい毒性を獲得すること。
強い感染力 - - - 宿主の咳くしゃみで拡散して感染する程の強毒
弱い毒性 - - - 他人にうつす前に宿主を死なせないほどの弱毒
毎年流行するインフルエンザは成功者。ただし変異を繰り返して、毒性の強いものが10年毎に現れて騒がすことはあるが、そういうのは長く生きられない。
 エボラや炭疽菌は 1990年代まで、感染すると宿主を殺すほど毒性が強すぎて大流行しなかった。2014年のエボラでは毒性が弱まったので流行が拡大した。
宿
宿主の側から見て、伝染病が流行する条件は、集団生活好き(病原体を拾い易い)、かつ移動癖があること。なお、多くの野生動物では接触機会が少なく、大流行しない。
コウモリは太古からの歴史を通して、病原体の保有率が高い。何万、何十万が狭い巣の中で群れて暮らし、飛んで移動して、離れた集団と餌場などで頻繁に接触する。病原体は波状に広がり変異し、数ヶ月、数年後に拡散する。
 人間は近代化によって、コウモリに似て来ている。 病原体にとっては、現代の人間が理想的な宿主ともいえる


バイエル板とは

バイエル板とは
哺乳類の腸内には「バイエル板」とも呼ばれる特別な訓練場がびっしりと並んでいる。通過する非自己の異物を訓練場に引き寄せて、大量の免疫細胞たちに触れさせ、人体にとって有害で攻撃すべき敵の特徴を学習させて、戦闘力を高めている。

(参考図)バイエル板

NHKスペシャル「人体」2018年放送
万病撃墜!腸が免疫の鍵だった、


無菌マウスでは、バイエル板の数が少なくて小さい。 免疫細胞たちは訓練不足で脆弱のために、無菌マウスは無菌室から出すとすぐ死んでしまう。


免疫系とのパスワード

免疫系とのパスワード

免疫系にとって、「病原体」の表面にある小さな分子である抗原は、危険信号の赤旗であり、以前に出会ったかを自動的に見分ける。「有益な微生物」も旗を挙げて知らせるが、敵か味方は教えない




免疫系にとって、敵か味方を知る方法にパスワードが使われている。 例えば、マイクロバイオータの中でも最も数が多く有益で、出生直後に腸内に入植する細菌の一つ「バクテロイズス・フラジリス」細菌にパスワードが発見された。多糖類A(PSA)という物質。
1)バクテロイズス・フラジリス細菌は、PSA を産出し放出
2)免疫細胞がこれを食べると、PSA が Treg 細胞を起動
3)Treg 細胞はこの細菌を攻撃しないようメーセージを送出
初期にコロニーを作る細菌が産出するパスワードは、それぞれの微生物が人体の「高級クラブの会員」として受け入れられるよう進化してできたものといえる。


Treg 細胞異常「IPEX 症候群」

Treg 細胞異常「IPEX 症候群」
免疫系の Treg 細胞を生産できない突然変異の遺伝子で生まれた子は、致死的な病気「IPEX 症候群」となる。炎症を起こす免疫細胞を多量に産出し、リンパ節と胸腺が肥大化する。小児期に1型糖尿病、皮膚炎、食物アレルギーなどを発症し、やがて多臓器不全で早死にする。
つまり、Treg 細胞が無いとブレーキ解除で免疫機能が暴走する。


リーキーガット・コンセプト

リーキーガット・コンセプト

リーキー=「すきまのできた」
ガット=「腸」
- 腸内細菌のバランスが乱れると、
- 人の免疫系を刺激する
- 免疫系は「ゾヌリン」酵素を出す
- ゾヌリンは腸内の異物を洗い流す
- 隙間から逆方向に不法移民が体内に流入

ゾヌリンは人が出す酵素で、腸の透過性をコントロールする。(コレラ菌が出す毒素「ゾット」と同じ機能)


コラム:懐疑的な「リーキーガット症候群」

懐疑的な「リーキーガット症候群」

「代替医療産業」は、リーキーガットコンセプトが大のお気に入りで臨床データや大した医療効果がなくとも、真実を曲げてでも、何でも「リーキーガット症候群」と称してそれらしい説明と治療法を提示。

既存の科学界や医学界は「リーキーガット症候群」に懐疑的、そして「リーキーガットコンセプト」にも信頼性が低いと消極的な姿勢


腸の透過性に関連した病気

セリアック病

「セリアック病」は自己免疫疾病の一つ。1994年には無名だが現在は欧米人口の1%が患者。「グルテン」を食べただけで体調悪化する。グルテンは、小麦、ライ麦、大麦の穀粒の中に含まれるタンパク質パン生地を伸ばしたりイースト菌の気泡を長持ちさせる機能がある。

免疫細胞がグルテンを外敵とみなし抗体を産出、抗体は腸の細胞をも攻撃し、傷害と痛み下痢を引き起こす。

セリアック病患者の腸組織にはゾヌリンが高濃度で存在していた。そのために腸壁に隙間ができていて、グルテンが血液中に流入して、自己免疫反応を引き起こしていた。



腸の透過性に関連した、その他の病気
「肥満」では、腸壁隙間から細菌由来の物質リボ多糖(LPS)が血液中に入り、脂肪細胞が炎症を起こす。(第2章参考)
「心の病気」としては、トラウマ的な出来事が腸壁に隙間を広げることがある。


ニキビは思春期のシンボル?

ニキビは思春期のシンボル?

先進国の90%以上がニキビを経験している。10代の思春期をとうに過ぎてもニキビは増加。女性では、20代、30代、それ以上にも多い。 しかし未開の人々にはニキビがない、何故か?

古い考えによるニキビの原因は、
 - 男性ホルモンの過剰
 - 皮脂の過剰
 - アクネ菌の反乱

ニキビ患者には、発疹のない健康そうな場所にも、免疫細胞が過剰に存在する。ニキビも慢性的な炎症の一形態かもしれない。
アクネ菌やその他の皮膚常在菌を敵とみなして、免疫系が過剰反応しているとの考え方も出ている。


ニキビ治療と抗生物質

ニキビ治療と抗生物質

従来は、アクネ菌がニキビの原因と考えられていたので、抗生物質で症状を改善するケースが一般的で、皮膚に直接塗布したり、薬として飲んだり、数ヶ月も数年も治療を続ける。


ニキビ治療に、抗生物質を長時間服用の患者と未使用者の比較調査結果では、
1)対象者8万5千人の試験:服用者は風邪や感染症に2倍多く感染。 2)別の大学生の試験:服用者は風邪や感染症に4倍多く感染。






第4章のガッテン・ポイント

(1)人は無菌では生きられず、マイクロバイオータ(腸内細菌)の存在を必要 としている、 (2)免疫機能の暴走をTreg 細胞が抑制する、 (3)さらに、Treg 細胞に指示を出すのはマイクロバイオータ(腸内細菌)である、 (4)アレルギーの原因は、「衛生仮説」から「旧友仮説」に変わったこと。そもそもの原因は抗生物質の乱用にも起因するということ。
(5)コレラ菌は人体に指令を出している、 (6)免疫細胞はバイエル板で敵の特徴を学習している、 (7)リーキーガット・コンセプトがあり、腸の透過性をコントロールする酵素がある、 (8)ニキビもアレルギーの一つかも?




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