要約「10% HUMAN」


第5章 抗生物質 (p165 - 200)

第5章の主要ポイント

 - ペニシリンの発見 / 成長剤
 - 耐性菌の出現
 - 食物の汚染
 - 腸内細菌の乱れ / 21世紀病の誘発
 - 抗生物質と抗菌剤
 - 皮膚のマイクロバイオータ



ペニシリンの発見 / 成長剤

ペニシリンの発見
1928年 アレキサンダーフレミングがペニシリンを発見
1942年 ペニシリンで命を救われた最初の年
意義: 病気を治すという医学上のメリット大
    細菌感染での死者の急減!生命の薬
抗生物質が普及したきっかけ:
1944年 Dデー、ノルマンディー上陸作戦のタイミングで多量使用
1950年代 梅毒 (成人の15%が感染)の治療に抗生物質を使用
生産重量は増大:
1945年 900トン/年 → 2005年 2万トン/年
成長剤としての活用
1940年代: ニワトリに抗生物質を与えた結果、成長が50%促進
意義: 家畜の病気を治すという医学上メリット、および
    家畜肥満の栄養剤という経済上のメリット
その後、家畜の飼料に毎日少量の薬を混ぜるのが日常業務となり、
米国では、抗生物質の70%が家畜用の成長剤となった。
1953年 米海軍、新兵に抗生物質で治療試験
    連鎖球菌の感染にオーレオマイシンを予防的に使用、
    結果、服用しない新兵と比べて著しく体重を増やした。
意義: 栄養価を高めると好意的であった。


耐性菌の出現

耐性菌の出現
ペニシリンで死なずに変異を繰り返して生き残る細菌が出現する。
そして次々に新しい抗生物質の開発される。例えば:
1950年代 「ペニシリン」に耐性を持つ黄色ブドウ球菌が現れた。
   この菌はペニシリンを分解するペニシラーゼ酵素をつくる。
1959年 この菌に対抗して、「メチシリン」抗生物質の開発。
数月後、メチシリンに耐性を持つ黄色ブドウ球菌(MRSA)が出現。
   この菌で年に数十万人が死亡している。
2000年までに、20種類の抗生物質が開発されている。
多用のいましめ
パトラー教授:軽傷者に救命用の薬である抗生物質を使うことの
危険性は抗生物質への耐性菌の出現を促すことにある。
「いずれポスト抗生物質時代に突入する」と予言。つまり抗生物質
が発見される前の時代に戻ってしまい、ちょっとした切り傷でも死
ぬ時代、外科手術で命を落とすリスクも高まる。
ペニシリンを発見したフレミング自身が、耐性菌の危険を予想し、
注意深く使用するよう喚起していた。


食物の汚染

家畜の抗生物質汚染
家畜は、医学上及び経済上のメリットで抗生物質が使われていた。
抗生物質での汚染が問題となり、使用にブレーキがかかり始めた。
- EUの農家は、2006年以降、家畜の栄養剤目的での使用を禁止。
- 米国、その他の国では、今でも栄養剤目的での使用を継続中。
- ほとんどの先進国では、薬を与えたばかりの家畜を搾乳したり
 食肉工場に出す事を禁止している。
家畜の抗生物質残留量は、法的な基準で検査されている。
しかし、規制のゆるい国では、抜き打ち検査で安全基準を超える
残留抗生物質の汚染食品が一定の割合で見つかる。食品を通して
人が抗生物質をいくらか吸収してしまう可能性はゼロではない。
野菜の抗生物質汚染
では野菜は安心なのか? 有機野菜は家畜の糞を肥料に使う。
家畜に投与される抗生物質の75%が糞として排出されて、これが
有機肥料となる。セロリやコリアンダー、穀物には残留抗生物質が
含まれる、微量だが何週間も何年もたつうちに野菜に蓄積される。
農地に撒かれる肥料に含まれる抗生物質についての規制はない。
(現状、農地10平方mに抗生物質1錠か2錠分が含まれる)
むしろ野菜よりも、肉の方は検査されており安全ともいえそう。


腸内細菌の乱れ / 21世紀病の誘発

腸内細菌の乱れ
抗生物質のほとんどは「広域抗生物質」といって、単一種の細菌だけを標的にできなくて、広域圏の細胞種をまとめて殺してしまう。
医者にとっては好都合、原因菌を特定する時間と手間を省ける。
このような大量破壊兵器よりは、もう少し狭い同一グループ属の全細菌だけを標的にするものを「狭域抗生物質」という。
いずれにせよ、抗生物質によって腸内細菌が乱れ、結果的に 21世紀病を誘発する。第1章〜第4章を参照。
大量破壊と耐性獲得という抗生物質のマイナス面が重なって出現し
た危険な病気に「C ディフィシル感染症(クロストリジウムディフィシル感染症)」がある。付録を参照下さい。


抗生物質と抗菌剤

抗生物質と抗菌剤の違い
抗生物質(Antibiotics):微生物から作った細菌を殺す薬。
抗菌剤(Antibacterial drugs):人工的に作った細菌を殺す薬。
「アルコール」も細菌を殺す化学物質であるが、
細菌の基本構造を壊すので、細菌に耐性をつけるすきを与えない。
抗生物質、抗菌剤は細菌に耐性をつける危険性がある点が異なる。
抗菌剤の安全性
抗菌石鹸の化学物質の安全性は詳細には調べられていない
理由:医薬品は安全性が義務だが、
化粧品など健康グッズはメーカが安全性を証明する必要はなく、
使用禁止を命じるのはメーカではなく規制機関の仕事である。
欧米で、5万種以上の化学物質に対して安全性検査済みが 300種。 その検査結果:使用禁止は 5種(1.7%)。
想定:1%が有害と仮定すると、5万種 × 1% = 500種が有害。
これだけの製品を家の中には置いてはいけないことになる。
しかも少しずつ蓄積されてじわじわと影響がでる場合は、有害で
あることに検査で気がつかない。例えば、アスベスト被害など。
抗菌剤の中でも「トリクロサン」の毒性が問題になっています。
付録を参照ください。


皮膚のマイクロバイオータ

皮膚のマイクロバイオータ
抗菌石鹸で手を洗って清潔になるメリットに加えて、以下の
デメリットが発生する。
1)有益な細菌を洗い流してしまう。
2)他の細菌がその空白を埋めてしまう。細菌群の場所争い
有益な細菌の例:人の皮膚に住むアンモニア酸化細菌(AOB)。
この細菌は、汗の悪臭と関連している。付録を参照下さい。
悪性の細菌が空白を埋める例:連鎖球菌属の細菌。
こういう細菌は、感染症を発生する。付録を参照下さい。



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ここからは付録、後でゆっくりご覧下さい!


第5章の詳細項目

 - 抗生物質の使用量
 - C ディフィシル感染症
 - 抗菌剤「トリクロサン」の毒性
 - 連鎖球菌属による感染症
 - 脱臭剤による悪臭の悪循環
 - コラム:ピロリ菌はカナリア?


抗生物質の使用量

抗生物質の使用量
生産重量は増大:
1945年 900トン/年 → 2005年 2万トン/年
全世界に普及:欧米で1年に抗生物質での治療者数=平均40%
(上位イタリア、アメリカ=57%、下位スエーデン=22%)
1998年 米国で使用量調査を実施:
抗生物質の 3/4 が次の5種の呼吸器系感染症の治療に使用
 (1) 耳感染症(特に乳児、小児に使用)
 (2) 副鼻腔炎
 (3) 咽頭炎
 (4) 気管支炎
 (5) 上気道感染症
このように抗生物質が必要以上に使われている原因は、
- 医師の都合責任:細菌が原因のものは数%しかないが、万一の
  細菌による合併症を恐れて、抗生物質を治療に使用。
- 患者側の無知:抗生物質がウイルスを殺すと信じる人が大半。


C ディフィシル感染症

C ディフィシル感染症
C ディフィシル感染症(クロストリジウムディフィシル感染症 CDI: Clostridium Difficile
1999年 英国 500人の死者、2007年 4000人の死者
下痢による脱水症状、重篤な腹痛、体重減少、→腎不全
中毒性の巨大結腸症→生存率が下がる
C ディフィシルは厄介な細菌で、通常は腸内でトラブル無しに過ごしている。 一般的に病院内、健康な人の腸に潜んでいる。 他の細菌などに負けない特性があり、「芽胞」という厚い防護層を形成して、 胃酸、抗生物質、極端な温度でも死滅せずに状態が好転するのを待っている。 抗生物質がきっかけで、腸内細菌が大量破壊されマイクロバイオータの乱れると、C ディフィシル細菌が勢力を広げてしまって、この感染症が発症する。


抗菌剤「トリクロサン」の毒性

抗菌剤「トリクロサン」の毒性
抗菌石鹸、抗菌シャンプー、抗菌洗剤、抗菌食器、などに抗菌性化学物質「トリクロサン」が幅広く使われているが、
 (1) 安全性の懸念
 (2) 細菌に耐性をつける心配
という観点から目下詳細な検査の最中にある。
環境汚染:
- 抗菌製品を使い続けると、めぐりめぐってトリクロサンが水源
 に入り込み、水中の細菌を殺し、淡水の生態系バランスを乱す
対策:「米国ミネソタ州では 2017年以降から使用を禁止した」
人間へ健康被害:
- トリクロサンは人体にも入り込む
 人の脂肪組織や新生児の臍帯血、母乳からも見つかっている。
 75%の人の尿からかなりの量が検出されている。
- 尿中のトリクロサン濃度とアレルギーの重症度に相関あり。
- トリクロサンが感染症を誘発する証拠もある。
- 水道水の塩素と結合して発癌物質クロロホルムに変化しうる。
対策:「米国 FDA(食品医薬品局)は製造業者にトリクロサンの
安全性を証明するよう求めている。できなければ禁止する方針」
消費者の姿勢:
抗菌石鹸などを買う前に、商品の成分表示を確かめることが大切。 「ベビー用のお盆は食事前に抗菌クリーナで拭きましょう」というCM は デメリットを拡散している。要注意、気をつけましょう。


連鎖球菌属による感染症

連鎖球菌属による感染症
抗菌剤石鹸で手を洗って有益な細菌を洗い流すと、他の細菌がその空白を埋める。 そういう細菌の中に連鎖球菌属の細菌がある。
「し眠性脳炎」 1918年 欧米、世界でパンデミックが10年間。
原因は連鎖球菌属の細菌、自己免疫反応を誘発、大脳基底核を攻撃
精神神経疾病のような症状(パーキンソン病のような震え)
「トゥーレット症候群」悪性の連鎖球菌感染がきっかけで発症。
大脳基底核が意識的に流れてくる選択肢から、誤ったものを選択し
てしまう結果、発声と運動にチックが起こる。


脱臭剤による悪臭の悪循環

脱臭剤による悪臭
体は、シャワージェル、モイスチャーローション、脱臭スプレーなどを使わなくても大丈夫なようにできている。
- 未開地に住む部族はほとんど体を洗わず脱臭剤も洗剤も使った
  ことがないが、体臭に悩まない。
- 西洋文化にどっぷり浸かった現代人の間では、一日一回体を
  洗って、制汗剤をつけている人ほど悪臭がする。なぜか?
ヒトの汗は無臭
ヒトの汗のもとは、
 1)エクリン線(ほぼ全身の皮膚) 無臭
 2)アポクリン線(わきの下と陰部などの生殖関係の分泌器官)
アポクリン線はアンモニアを含み、特に思春期になると活性化してフェロモンを出して異性に健康状態と妊性を知らせる。実際には、皮膚の微生物が分泌液を分解して揮発性の匂いに変わる。その人の持つ微生物の構成比によって匂いは変わる。
人の皮膚には「アンモニア酸化細菌(AOB)」があって、アンモニアを(亜硝酸塩と一酸化窒素に変えて)分解し、皮膚の微生物を抑制して匂いを消している。
悪臭の悪循環
step 1:体を洗って脱臭スプレーすると、デリケートな AOB細菌は
  減ってゆき、再び繁殖するまでに時間がかかる。
step 2:皮膚のマイクロバイオータが変化する。
step 3:AOB細菌が不足してアンモニアが分解されず、皮膚にいる
  他の微生物(コネリネバクテリウムとぶどう球菌)が野放しに
  なり不快な匂いになる。
step 1 から繰り返す。不快な匂いを消すために、脱臭スプレー . . .


コラム:ピロリ菌はカナリア?

ピロリ菌を発見したプレイザーの警告
1990年代、プレイザーがピロリ菌を発見。胃潰瘍の原因、胃癌の
リスクを高めると発表。後になって逆流症(胃酸が喉まで遡る)、
食堂癌、嘆息のリスクを低めているという有益な面を確認した。
数万年も前から人間の胃の中にいる「旧友」である古代の微生物が
その悪評ゆえに絶滅危惧リストに入っている。ピロリ菌の減少は、
他の種でも同様。例えば抗菌剤で皮膚の微生物が減少している。
「敏感なピロリ菌は炭坑のカナリアなのだ。他の微生物が消えて
ゆくのも間近い
」とプレイザーは警告している。





第5章のガッテン・ポイント

(1)抗生物質の多用は耐性菌の出現を促す、(2)家畜も野菜も抗生物質で汚染されている、(3)抗生物質は大量破壊兵器で、腸内細菌が乱される、(4)抗菌剤は人工的な化学物質だが、安全性には疑問が残る、(5)抗菌剤のデメリットも少なくない。
(6)医師は抗生物質を必要以上に治療に使う、(7)C ディフィシル感染症にご注意、(8)毒性のある抗菌剤トリクロサンが幅広く使われている、要注意、(9)制汗剤を多用する人ほど悪臭がするということ。




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