要約「10% HUMAN」


第6章 微生物の食べ物 (p201 - 228)

第6章の主要ポイント

 - 昔の知識、その見直し
 - 近代の食物の傾向 / 食事と腸内細菌
 - 植物繊維の消化 / 短鎖脂肪酸の役割
 - 食に対する認識



昔の知識、その見直し

昔の知識、その見直し
昔の学校での教科書には、
 小腸:栄養を吸収
 大腸:水分を吸収、食べかすを固形化
 虫垂:あってもなくても
大腸の重要性を見過ごしていた。
私たちは20年ほど前に、
「大腸は、微生物の力をかりて、人に必須なビタミンを合成させ、それを吸収する場所」であることを知った。 大腸に微生物がいなければ、私たちの健康は維持できないことも分かった。


近代の食物の傾向 / 食事と腸内細菌

近代の食物の傾向
健康的な食生活とは、食物は本来は植物や動物であるべきである。 しかし、ほんの百年の間に加工食品であふれている。現代の食生活は私たちにはあまり適していないということだ。
過体重と肥満はパンデミックが世界中に増え続けている。 本来どうあるべきか?  それを知るには原始の時代に戻る必要はなく、曾祖父母までで充分、百年前の現在21世紀病はなかった時代。
食事と腸内細菌 (イタリアでの調査結果)
フィレンツエに住む都会の子供たちは、
 - 食事:脂肪と糖の摂取があまりに多い
 - 腸内細菌:「フェルミクテス門」細菌が多い
これは肥満に関連している細菌である。
今でも、私たちの百年前の時代と同じような食生活で暮らしている西アフリカの国ブルキナファソに住む田舎村の子供たちは、
 - 食事:植物繊維の摂取が多い
 - 腸内細菌:「バクテロイデス門」細菌が多い
その中でもプレボテラ属、プキシラニバクテル属の細菌が多い。 これらの細菌は、植物の細胞膜を形成し、キシラン、セルロースを分解する酵素を作る遺伝子を持ち、野菜、穀類、豆類からより多くの栄養を引き出す。
食事と腸内細菌 (アメリカでの調査結果)
動物性食品を食べるグループの人たちは、
 - 植物好きな細菌を失う
 - タンパク質を分解、ビタミン合成、炭化した肉の発ガン物質を解毒する、といったタイプの細菌が増えている
植物性食品を食べるグループの人たちは、
 - 植物の細胞膜を分解するタイプの細菌が急速に増えている
ベジタリアンの男性が、動物性食品を食べるグループに入ると、バクテロイデス門の「プレボテラ属」の細菌が急減した。 数日で動物性タンパク質を好む細菌が過半数になり、素早い順応性を見せた。
食事と腸内細菌 (日本、ほか)
寿司好きな日本人たちにとって、
 - 海苔は食生活の大きな部分を占めている
 - バクテロイデス門の「プレビウス」細菌が腸に住んでいる。 この細菌は、ボルフィラナーゼ酵素をつくる遺伝子を持つ。 これは元来、海藻の共生細菌であるゾベリア・ガラクタニボラシス遺伝子で、プレビウス細菌がこの遺伝子を盗み取ったもの。
人は、牛を飼うようになって、二重の利益を得たという。
(1) 食肉と牛乳、そして (2) 牛の腸に住んでいた繊維分解型の微生物をも獲得


植物繊維の消化 / 短鎖脂肪酸の役割

ビフィズス菌
第2章で、粘膜好き微生物「アッカーマンシア・ムシニフィラ」の説明をした。 この微生物は腸壁を覆う粘膜層を厚くして、細菌由来のリボ多糖が血液に入り込むのを阻止する。リボ多糖は血液に入ると脂肪組織に炎症を生じさせ不健康な体重増加を招く。
この微生物は絶えず補充しないと減ってしまうので、エサを与えて存在量を維持する必要がある。この微生物のエサは、ビフィズス菌(ビフィドバクテリウム属の細菌)であることが分かってきた。ビフィズス菌は植物繊維が大好き。バナナやタマネギ、アスパラガスなどに含まれる植物繊維のフクラトオリゴ糖(オリゴフルクトース)を。
短鎖脂肪酸の役割
微生物が植物繊維を分解すると、短鎖脂肪酸になる。
代表的な三つの短鎖脂肪酸(SCSA)は、
 - 酢酸
 - プロビオン酸
 - 酪酸
免疫細胞の表面には、「GPR43」というGタンパク質受容体がある
 -「GPR43」は SCSA を仲間として待っている
 -「GPR43」という鍵穴に、「SCSA」という鍵がぴったり合う
大腸に食物繊維を分解する微生物がいる場合は健康で、
 - 微生物が短鎖脂肪酸(SCSA)を作りだす
 - GPR43がSCSAを認識して仲間と判断する
 - 免疫細胞は微生物に炎症を起こさない 
 - 脂肪細胞は健全に分裂する
 - レプチンを放出して満腹中枢を刺激する
大腸に食物繊維を分解する微生物がいない場合は病的で、
 - GPR43がSCSAを認識できず敵と判断する
 - 免疫細胞は微生物に炎症を起こさせる
 - 脂肪細胞は分裂せずに、不健全に膨らむ
 - レプチンの放出がなく満腹を感じなくなる
大腸の微生物への配慮
実際には、短鎖脂肪酸(SCSA)を作りだす時間がとても重要になる
 - 小腸で、SCSAを作りだすと、すぐに小腸で吸収されてしまって、結果として大腸にSCSAが不足して、不健康になる。
戦略として、食物が小腸にとどまる時間は長くはないので、容易にSCSAを作りだせないような高繊維を選んで食べることが重要。
小腸では高繊維を荒く分解して低繊維に変えて、大腸に流す。 大腸にいる微生物に、低繊維からSCSAを作りだしてもらう。
小麦、大麦、米、トウモロコシ、どれも重要な繊維、栄養素を含む。 どれも精白すると低繊維となり、小腸で吸収しやすくなり、大腸まで行かない。 精白前の胚芽のままでは高繊維なので、小腸で吸収されにくて、大腸まで行きとどく。 精白されたパンや米の食生活は、少し見直した方がよい。


食に対する認識

植物繊維が重要
植物繊維好きの微生物のホームグラウンドである大腸と、微生物の待機所である虫垂を備えた人の消化器系の構造は、私たちが肉食動物でないこと、植物を主食として生きていることを教えてくれる。
私たちが見落としている栄養成分は植物繊維だ。 すなわち私たちが植物を食べることを忘れたことを意味する。 そして皮肉なことに、先進国では多くの人が栄養失調でなく飽食のせいで死んでいる。
諸問題 / 食の改善
諸問題:
(1) 砂糖と塩、脂肪、保存料まみれの食品を製造してる多国籍企業、 (2) 狭いところで薬漬けにして飼育している畜産業、 (3) 栄養摂取の最適バランスをよく知らない医者や科学者、にも問題があるが、最終的に自分自身と子供が何を食べるかを決めているのは私たち、そこには自由と同時に責任がついてまわる。
食の改善:本物の食べ物を食べよう。食べ過ぎずに野菜中心で。
(1) 合成保存料で無理やり「新鮮さ」を保ち、信じられないほど長い賞味期限を保証した加工食品は食べない方がよい。 (2) 膵臓、脂肪組織や食欲の許容量を超えて腹に詰め込まない。 (3) 野菜こそが私たちと微生物の双方に栄養を与え、健康と幸せを左右する微生物のバランスをよくしてくれることを忘れずに。 (4) 精白されたパンや米の食生活は少し見直した方がよい。
「あなたはあなたの食べものでできている。 あなたの微生物が食べたもので生きている」ともいえる。 食事のたびに、あなたの微生物のことをちょっと思いやってみてはどうだろうか。あなたの微生物は、今日、どんなものを欲しがっているだろうか?





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ここからは付録、後でゆっくりご覧下さい!


第6章の詳細項目

 - 腸内微生物に頼る動物
 - 生食ダイエット
 - グルテン・フリー・ダイエット


腸内微生物に頼る動物

腸内微生物に頼る動物
血液を吸う吸血動物(ヒル、チスイコウモリ、など)は、血液には鉄分、タンパク質はあるが、炭水化物、脂肪、ビタミン、ミネラルなどは血液にはなく、微生物に頼っている。
牛、羊など草食動物は、長い消化管を持ち植物を消化する。実際はセルロースを分解する遺伝子を持つ腸内微生物に頼っている。
ジャイアントパンダは、ライオンや狼と同じクマ科の肉食動物に分類される。 肉の成分であるタンパク質を分解する遺伝子を持つが、なぜか肉食をしないで竹を食べる。 しかも、腸内微生物に頼って、セルロースを分解して消化する。


生食ダイエット

生食ダイエット
食品を生で食べると体重が減る、間違ってはいない。 生では吸収できるカロリーが少ないためだ。 ただ減量効果がありすぎて健康を損なう。 生食主義を長くやると健康的な体重を維持できなくなる。 大量にカロリーを摂取しても体重は減り続ける。 このダイエット法を厳密に守った人は重症のエネルギー不足に陥り、生殖可能年齢にある女性なら排卵が止まってしまう。
食品を加熱すると、植物食品、動物食品を加熱することで、化学構造が変化する。 生のままでは吸収できない栄養成分を取り込める。 微生物からみても消化可能な餌となる。 植物の天然毒素が中和される(生だと毒素が腸内の有益な微生物を殺す可能性がある)
まとめ:進化の観点からも生食ダイエットは正しい戦略ではないことが明白。 人は生理的に加熱調理したものを食べることに適応している。 加熱したものを食べることは腸の微生物群にも何らかの好影響を与えているはず。


グルテン・フリー・ダイエット

グルテン・フリー・ダイエット
このダイエットは、小麦、ライ麦、大麦に含まれるグルテンが悪いという考えに立脚している昨今流行のダイエット。
このダイエットを勧める人は、「グルテンを排除すると、膨満感がなくなり腹の調子が良くなる。 肌がつやつやして気力と集中力がアップする」という。 特に、過敏性腸症候群患者はこのダイエットに夢中になる。
基礎知識
小麦や乳製品には、
(1) グルテン(小麦、ライ麦、大麦に含まれるタンパク質)、 (2) ラクトース(ミルクに含まれる糖)、 (3) カゼイン(ミルクに含まれるタンパク質)、が含まれている。
1万年前の新石器時代の人々は何の問題もなく摂ってきた。 消化できない人が急増したのはごく最近である。
グルテンに関して
グルテンは大きな分子で鎖をつくり、真珠のネックレスにも似ている。 小腸内で人の酵素が大まかに鎖を切り離す。 短い鎖となったグルテン分子は大腸にゆく。
セリアック病」の患者は、腸壁に隙間ができて問題を起こすという病気で、この患者はグルテンを含む食物を避けることが必須。 詳しくは第4章を参照下さい。
グルテンに過剰な人「グルテン・アレルギー」は、腸壁の隙間はできてはいないが、腸内細菌のバランスが崩れていて、免疫系がグルテンに過剰に反応するようになった。 近代人は、軽くてふわふわなパンを求めつづけ、小麦のグルテン含有量がかってないほど高まってしまい、それがすでに敏感になった免疫系を刺激しているようだ。
ラクトースに関して
人は、ラクトースを専用に分解する酵素「ラクターゼ」をつくる遺伝子を持っている。 歴史的に見ると、
 - 新石器時代の前には、幼少期を過ぎるとラクターゼ遺伝子のスイッチがオフになって、ミルクを飲めなくなった、
 - 新石器時代になって家畜を飼い始めると、ラクターゼ遺伝子のスイッチをオンのまま持続させる特質「ラクターゼ持続症」に進化していった。 母乳を飲まなくなっても死ぬまで遺伝子がオンで人はミルクを飲める。
ラクトースに過剰な人「ラクトース・アレルギー」はグルテン・アレルギーの人よりもっと多くいる。乳製品に過敏となる。
考察
現在、スーパーにはグルテンなどを一切含まない食品が多い。
 - グルテン・フリー商品
 - ラクトース・フリー商品
 - カゼイン・フリー商品
本来は、腸内細菌のバランスを取り戻すのが良いと思うが。
どんなダイエット法が流行しようと「何事も適度に」という古くからの格言以上に正しいものはない。







第6章のガッテン・ポイント

(1)都会人の腸内細菌には「フェルミクテス門」の細菌が多く、植物繊維が多い食生活をする人には「バクテロイデス門」の細菌が多い、(2)植物繊維をビフィズス菌が食べ、粘膜好き微生物がビフィズス菌を食べて、人は健康を維持する、(3)大腸にいる微生物が植物繊維を分解して短鎖脂肪酸(SCSA)を作ると、免疫細胞のGPR43がSCSAを認識して微生物を仲間と判断する、(4)低繊維の食物は小腸で吸収されやすいので高繊維を選んで食べることが重要、(5)何を食べるかは自由だが選ぶ責任は自分にある、食事のたびに「微生物はどんなものを欲しがっているのか」と思いやろう。
(6)牛、羊など草食動物は腸内微生物に頼っている、(7)生食ダイエットやグルテン・フリー・ダイエットなどがあるが「何事も適度に」が正しいということ。




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