要約「10% HUMAN」


第8章 微生物生態系の修復 (p259 - 294)

第8章の主要ポイント

 - 歴史の流れ
 - プロバイオティクス
 - 糞便移植
 - プレバイオティクス
 - 21世紀病への適用



歴史の流れ

歴史の流れ
微生物が身体の健康に関連しているという考え方は、古代のヒポクラテス「死は腸からはじまる」からある。
 - 1920年代「メチニコフの長寿法」の流行がきっかけで、プロバイオティクス産業化して開花した時代があったが、長続きはしなかった。詳しくは付録を参照下さい。
 - 2003年、DNA解析技術により、プロバイオティクス効果が見直され、再びプロバイオティクス産業が急成長。
プロバイオティクス (Pro_biotics) 」は、身体に良い細菌を摂取することであり、「研究所で培養して口から入れる」という方法である。 これに対して「糞便移植」というのがあり、身体に良い細菌を「人からもらって下から入れる」という方法もある。 どちらも「生きた細菌」を摂取することには差がない。 生きた細菌でなく、「細菌のエサ」を摂取して腸内細菌を活性化するという方法を「プレバイオティクス (Pre_biotics) 」という。


プロバイオティクス

プロバイオティクス
プロバイオティクス産業では巧妙なマーケティングを展開している。 詳しくは付録を参照下さい。 WHOの定義では、「プロバイオティクスとは、適量ならば健康上の利益があり、生きた微生物」である。 では、どの細菌をどれだけ飲めば病気の予防や治療に役立つのか? これ設問に答えることはそう簡単なことではない。 付録の「腸内のヨーグルト旅行者」を参照下さい。
抗生物質起因性下痢への適用
抗生物質起因性下痢:
ある病原菌の治療目的で抗生物質を投与すると、他の細菌まで大量破壊されて下痢になるケースがある。不運な場合には Cデフィシル感染で重症化するが、そうでなければ、死んだ細菌が戻ってくれば下痢は改善する。
1万2千人が参加した63カ所の臨床試験の結果では、抗生物質の治療で 30%が下痢を発症するとして、プロバイオティクスを併用すれば 17%に抑えることができる。 800万人のアメリカ人が抗生物質を服用して、200万人が下痢を経験していると考えると、適性なプロバイオティクスを補充することで100万人近くが苦しまずにすむ。
炎症を鎮める効果
21世紀病はどれも炎症を起こす。プロバイオティクスに価値があるとすれば、この炎症を鎮めることだ。第4章で説明した制御性T細胞(Treg)を統治するマイクロバイオータである。 例えば、「1型糖尿病」の遺伝子をもつマウスの実験。 生後4週間目から、市販のプロバイオティクス製品を毎日与えると発症率が低くなった。 これは「VSL#3」という製品で、8種の菌株による4500億個の細菌で構成される。 膵臓のインスリン分泌細胞の破壊、これを抑える抗炎症物質を活性化するように免疫系が働くようだ。
プロバイオティクス製品の見分け
プロバイオティクス製品で気をつけるべき3点。
(1)どんな菌種のどんな菌株が含まれているか? 明記されていないことが多く、記載どうりでないこともよくある。
(2)細菌の量は? コロニー形成単位(CFU)の数値で示される、量が多いほど効果があると考えて良い。
(3)パッケージは? 粉末、錠剤、菓子、ヨーグルト、飲料、クリーム、塗布剤、など。生きた細菌にどんな影響を与えているかはまだ不明だ。


糞便移植

糞便移植
糞便移植は、身体に良い細菌を「人からもらって下から入れる」という方法で、 便微生物移植、細菌製剤療法、トランスプージョンなどとも呼ばれる。 トカゲからゾウまで「食糞」する動物は多い。 詳しくは付録を参照下さい。
糞便移植の方法は、健康ドナーの糞便+生理食塩水、家庭用ミキサーで混ぜて、患者の大腸内に注入する。内視鏡検査のファイバースコープと同じ。 なお、注入液を鼻腔チューブで鼻から喉、胃に流し込むという方法もある。 輸血は定着しているが、糞便移植はイメージ的に嫌われる傾向がある。 しかし輸血点滴袋と同じで、糞便も命を救う。
4世紀の中国、伝統医学の師「葛洪」は救急処置の手引き書の中で、食中毒や下痢の患者に、健康な人の糞便を飲料にして与えれば奇跡的に回復すると書いている。同じ治療法は1200年後の中医学手引書にも出てくる、当時は黄色い汁と表現されている。
糞便移植の効果事例1
中毒性巨大結腸症や Cディフィシル感染症では、世界で患者が 100万人/年、うち数から数十万が亡くなる。
抗生物質の治療だと治療率が 30%であるが、 糞便移植の1度目で治療率が 80%、2度目なら 95%になる。 外科手術も無しでこれだけ成功するのは費用体効果が大きい。
糞便移植の効果事例2
肥満者の臨床試験で、9人の肥満者に、痩せたドナーの糞便を与えると、6週間後にインスリンの感受性が2倍近くに上がった、ほぼ痩せた人並み。 インスリン感受性については、付録を参照下さい。
この糞便移植により肥満者の腸内細菌は、菌種が増えて多様性が増した(菌種178 - 234種)。 増えた細菌の中には、短鎖脂肪酸の「酪酸」をつくる細菌グループがいた。 酪酸は肥満予防に重要な役割を果たすと考えられている。(大腸の細胞は酪酸によって強化される。細胞どうしをつないでいるタンパク質の鎖が堅くなり、厚い粘液層で覆われることにより、腸壁に隙間ができるのを防ぐ。)
アメリカで騒動
2013年、アメリカで FDA(食品医薬品局)が糞便移植を禁止した。 公的な臨床試験を受けていないので安全性に懸念があるという理由。 胃腸科専門医たちから抗議があり、禁止令は取り下げた。 Cディフィシル感染症の治療に限って当面の間は認められた。
アメリカでは、非営利の糞便バンク「オープンバイオーム」が利用されている。 詳しくは付録を参照下さい。


プレバイオティクス

プレバイオティクス
プロバイオティクス (Pro_biotics) は一時的な慰めの「軟膏」でしかない。 腸管を通るがそこに長く留まるわけではなく、摂取を継続する必要がある。 持続的な効果を得るためには、外から補充しなくても細菌が自力で繁殖する環境を用意してやること。 それがプレバイオティクス (Pre_biotics) で、細菌にエサを与える方法である。
プレバイオティクスは化学物質であるが、人工的なものではなく、難消化性の植物繊維に含まれているもので、フラクトオリゴ糖、イヌリン、ガラクトオリゴ糖など。 以前から、食中毒からの回復促進や皮膚炎の治療に効果があると言われてきた。
それよりも代謝異常症候群の治療に使えると期待されている。 第6章で説明したが、フラクトオリゴ糖はビフィズス菌のエサとなり、そのビフィズス菌が粘膜好き微生物を増やし、腸内に隙間ができるのを防ぎ、食欲を抑え、インスリン感受性を高め、減量を助ける。


21世紀病への適用

21世紀病への適用
21世紀病は、その原因をもとからなくすのが重要であるが、21世紀病になってしまった患者は腸内バランスが乱れていて、時が経つにつれて病状は進行して悪化する。 プロバイオティクスや糞便移植などは、 腸内バランスの乱れを修復して改善するので、病状の進行を抑えて治療にも役立つ。 しかし病状が進み悪化してしまった後では、病気治療としてはすでに遅すぎのケースが多い。治療よりも予防の段階で効果を発揮すると言える。




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ここからは付録、後でゆっくりご覧下さい!


第8章の詳細項目

 - プロバイオティクス産業の開花
 - 加熱したマーケティング
 - 腸内のヨーグルト旅行者
 - 食糞する動物
 - オープンバイオームとドナー
 - インスリン感受性と抵抗性


プロバイオティクス産業の開花

プロバイオティクス産業の開花
1908年、イリセ・メチニコフ(ロシア生物学者)が「寿命を延ばす - 楽観的な研究」を発表し、ノーベル賞。 老化を引き起こす真の原因は、先頃に発見された腸内細菌ではないかと推測。 当時は仮説「自家中毒」が普及、哺乳類で大腸が発達したのは単に廃棄物の貯蔵庫の機能にすぎないと。 自家中毒への対処療法として、腸内洗浄、そして毎日良い細菌を一定量摂取するという「プロバイオティクス」の始まり。
メチニコフの長寿法では、ブルガリア農民は百歳以上が多く、酸っぱいミルク(ヨーグルト)を飲んでいることから、通称「ブルガリアン・パチルス」細菌、現在名では「ラクトパチルス・ブルガリクス属」細菌、がミルクに含まれる乳糖(ラクトース)を発酵させるときに乳酸を出す。こうした乳酸菌が腸内を消毒し、老化や死を引き起こす有害な細菌を殺しているからだと考えていた。
1920年代、医学雑誌や新聞で広告され、プロバイオティクス産業が開花したが、長続きはしなかった。科学的な証拠が少なすぎた。


加熱したマーケティング

加熱したマーケティング
2003年代からのプロバイオティクス産業では、その競争の一環として、特定の遺伝子と細菌を組み合わせた特許の申請をしている。
例えば、
(1)大腸菌O157が心配の人には、 ラクトパチルス・ラムノサス + プロピオニバクテリウム
(2)ニキビで困っている人には、 ラクトパチルス + ダイアルキリソルバイド
(3)バランスを崩した膣内ペーハーを整えるには、 9種のラクトパチルス + 2種のビフィドバクテリウム
(4)生まれてくる赤ちゃんのアレルギー予防に、 ラクトパチルス・パラカセイ
菌種について、「ラクトパチルス属」の細菌が多く使われている。 その理由は、培養が簡単なこと(他の細菌と違って酸素に触れても死なない、温かいミルクの中でも育つ)と、人の共生金の初期の研究で、過剰に取り上げられたことによる。 実際には、「ラクトパチルス属」の細菌はユーグルト作りには価値があるものの、 人の成人にはあまりいない。赤ん坊の場合は、経膣出産で生まれ母乳を飲むので、「ラクトパチルス属」の細菌は栄えているが、その時期が終わると急速に量を減らし、腸内の全細菌の1%未満となる。
ほとんどの国の薬事法では、細菌を含む製品には健康上の有効性を表示することを許していない。生きた細菌の健康効果については科学研究が進んだおかげで薬のような装いになっているだけである。 製薬会社がつくる医薬品の場合は、臨床試験で有効性と安全性を確認する義務があるが、食品メーカがつくる商品の場合は、大々的に宣伝はするが膨大な費用をかけてまで臨床試験をするつもりは無いようだ。


腸内のヨーグルト旅行者

腸内のヨーグルト旅行者
こんな状況を想像してみよう
腸内には、100兆個の微生物(地球人口の1500倍相当)、2000種の菌種(世界の国数の10倍相当)がいる。
仮に、全てがあなたに友好的であっても、細菌どうしは互いに有効関係とは限らない。集団でスペースを奪い合い、弱い相手を容赦なく追い出す。 確保したスペースを守るためには科学物質の武器をつくり侵入してこうようとする相手を殺す。個々の細菌は食料を奪い合い少しでも豊かな領地を求めて泳いでいく鞭毛を持つ。
そんな戦場に、小さなカップ入りのヨーグルトの中身が入っていくことを想像してみる。ヨーグルト容器の中でミルクや糖の間を泳いでいる「旅行者」の小集団は、個体数にすれば 100億個ほどで、見知らぬ土地に入ってこうとしている。
腸内の微生物100兆個に比べて、旅行者は100億個でゼロが4つ足りない。 すでに混雑している商売敵だらけの土地に、新しい店を開いて生計を立てるには数の上で非力だ。
その上に、「旅行者」は全員同じ遺伝子の細菌なので、同じ戦術しか使えないが、腸内には2000種の菌種があり、200万種以上の遺伝子があり、戦術上でも非力だ。


食糞する動物

食糞する動物
ウサギやげっ歯類(ねずみ)の動物にとって自分の糞を食べるのは、植物細胞の中に堅固に閉じられた栄養分を、まず腸内細菌に分解させて、糞にして、もう一度食べて栄養分を吸収する。二度食べることで得られるエネルギー量も増える。
象の群れではメスのリーダが軟便を出す。幼い子象たちに食べさせるためだ。
野生のチンパンジーは、下痢をすると食糞行動にでる。 森で目新しい果実を食べたとき、自分の腸内細菌がまだ順応していないと下痢をする、そんな時に健康な仲間の糞を食べて仲間の腸内細菌を得ようとしている。
野生では食糞しないで、動物園では食糞や反復行動する動物もいる。 人の重症な自閉症や統合失調層、強迫性障害の患者にも食糞や反復行動が見られる。 こんな場合、フロイト派なら、親との疎通、性的欲求不満で説明するだろうが、 生理学的な解釈ではもっと微生物寄りだ。 人であれ動物であれ、食糞や反復行動は異常行動ではなく、病んだ自分の腸内細菌のデイスバイオスを正すための適応行動と考えられている。
食糞するようになった動物園のチンパンジーに、繊維質の葉をエサとして与えると、食糞行動が減るという。 チンパンジーは葉を食べておらず、しゃぶったり舌の下にしまいこんだりしている。葉についている共生菌を唾液にからめて吸っているのではないか。その細菌の遺伝子をとりこみ食料消化の助けにしているのかもしれない。 (日本人が海藻の共生菌を含むマイクロバイオータを持っているのと同じしくみ)


オープンバイオームとドナー

オープンバイオーム
糞便移植でも、輸血のような仕組みが必要ということで、非営利の糞便バンク「オープンバイオーム」が立ち上げられた。 2011年、アメリカでは 33州 180病院で、オープンバイオームのサービスを利用できる。2000人以上の患者が治癒している。
ドナーになるための適性審査は、献血以上にハードルは高い
(1)しばらく、抗生物質を飲んでいない。 (2)しばらく、海外旅行に行っていない。 (3)アレルギー、自己免疫疾患など腸内細菌がらみの病気がない (4)代謝異常症候群、大うつ病性障害がない (5)HIV、などウイルスや微生物に感染していない
献血のボランティアは 50人中 45人が適格者だが、 糞便のボランティアは 50人中 1人が適格者となる。
理想なドナーを求めて
糞便ドナーの適性については、付録の「オープンバイオーム」を参照下さい。 「糞便ドナー」の行く末は、「精子ドナー」と同じように、一人ひとりのニーズに合わせたパーソナライゼーションであろう。 1990年代に「デザインベービー」論争があり将来また起こるとしても、 現時点での理想なドナーを求めて、以下の調査がある。
マイクロバイオータの調査
3カ国のマイクロバイオータを調査した報告がある。 産業革命前の伝統的な暮らしをする南米先住民(ベネゼラの 2つの村)とアフリカ東部住民(マラウィの 4つの村)の各200人、それとアメリカ在住民の300人。
非アメリカ人(ベネゼラとマラウィ)に比べて、アメリカ人は菌種が少なく多様性が低い。 アメリカ人には無いあるいは量が少ない 98個の菌種が浮かび上がり、そのうち 23菌種はプレボテラ属の細菌であった。 これは穀類、豆類、野菜に含まれる繊維質の食生活をしていると優勢になる細菌。
酵素の違いで、特に目立った酵素が 52種ある。その中でアメリカ人には医薬品や重金属の水銀、脂っこい食べ物からできる胆汁酸塩を分解する酵素が含まれている。
違いの要約
要約すると、アメリカ人は肉食動物で、タンパク質、糖、糖の代用品を分解するのが得意。非アメリカ人は草食動物で、植物のでんぷんを分解するのに向いている。
バレオダイエットに傾倒している人は、立ち止まってこの点をよく考えた方がよい。 (バレオダイエットとは、「肉を食べて痩せる」という海外セレブたちの流行スタイル。)


インスリン感受性と抵抗性

インスリン感受性と抵抗性
すぐにエネルギーとして使う必要のない血液中のグルコース(糖)を脂肪として蓄えるように命じるホルモンがインスリンである。
食物を食べると、グルコース(糖) が血液中に送られて、血糖値が上昇する。 するとインスリンが分泌される。
(1)健康の場合: 細胞がインスリンに素早く反応して脂肪として溜め込み、血糖値は急降下する。「インスリン感受性」があると表現する。
(2)不健康の場合: 血液中のインスリン濃度が常に高い状態では、細胞がインスリンの命令を無視するようになり、なかなか血糖値が下がらない。「インスリン抵抗性」という危険状態である。
2型糖尿病」は、インスリン分泌の能力はあるが、細胞が「インスリン抵抗性」の危険状態にある病気である。 なお「1型糖尿病」とは、インスリン分泌する細胞が破壊されている病気のこと。







第8章のガッテン・ポイント

(1)プロバイオティクス (Pro_biotics)は、生きた微生物を飲む方法で、制御性T細胞(Treg)を統治して炎症を抑えることに期待される、(2)糞便移植は、人からもらって下から入れる方法で、Cディフィシル感染症などで効果を発揮する、 (3)プレバイオティクス (Pre_biotics)は、細菌にエサを与える方法で、代謝異常症候群の治療に使えると期待される、
(4)プロバイオティクス産業の巧妙なマーケティングには注意、まずは「腸内のヨーグルト旅行者」になった気持ちで想像してみよう、 (5)食糞する動物は多く、それなりに理由がある、 (6)非営利の糞便バンクがあるが、ドナーの適性審査は献血以上にハードルが高く、マイクロバイオータの質が問われる、 (7)血糖値に関して、インスリン感受性インスリン抵抗性という識別がある。




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