糞便移植 |
糞便移植は、身体に良い細菌を「人からもらって下から入れる」という方法で、
便微生物移植、細菌製剤療法、トランスプージョンなどとも呼ばれる。
トカゲからゾウまで「食糞」する動物は多い。
詳しくは付録を参照下さい。
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糞便移植の方法は、健康ドナーの糞便+生理食塩水、家庭用ミキサーで混ぜて、患者の大腸内に注入する。内視鏡検査のファイバースコープと同じ。
なお、注入液を鼻腔チューブで鼻から喉、胃に流し込むという方法もある。
輸血は定着しているが、糞便移植はイメージ的に嫌われる傾向がある。
しかし輸血点滴袋と同じで、糞便も命を救う。
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4世紀の中国、伝統医学の師「葛洪」は救急処置の手引き書の中で、食中毒や下痢の患者に、健康な人の糞便を飲料にして与えれば奇跡的に回復すると書いている。同じ治療法は1200年後の中医学手引書にも出てくる、当時は黄色い汁と表現されている。
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糞便移植の効果事例1 |
中毒性巨大結腸症や Cディフィシル感染症では、世界で患者が 100万人/年、うち数から数十万が亡くなる。
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抗生物質の治療だと治療率が 30%であるが、
糞便移植の1度目で治療率が 80%、2度目なら 95%になる。
外科手術も無しでこれだけ成功するのは費用体効果が大きい。
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糞便移植の効果事例2 |
肥満者の臨床試験で、9人の肥満者に、痩せたドナーの糞便を与えると、6週間後にインスリンの感受性が2倍近くに上がった、ほぼ痩せた人並み。
インスリン感受性については、付録を参照下さい。
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この糞便移植により肥満者の腸内細菌は、菌種が増えて多様性が増した(菌種178 - 234種)。
増えた細菌の中には、短鎖脂肪酸の「酪酸」をつくる細菌グループがいた。
酪酸は肥満予防に重要な役割を果たすと考えられている。(大腸の細胞は酪酸によって強化される。細胞どうしをつないでいるタンパク質の鎖が堅くなり、厚い粘液層で覆われることにより、腸壁に隙間ができるのを防ぐ。)
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アメリカで騒動 |
2013年、アメリカで FDA(食品医薬品局)が糞便移植を禁止した。
公的な臨床試験を受けていないので安全性に懸念があるという理由。
胃腸科専門医たちから抗議があり、禁止令は取り下げた。
Cディフィシル感染症の治療に限って当面の間は認められた。
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アメリカでは、非営利の糞便バンク「オープンバイオーム」が利用されている。
詳しくは付録を参照下さい。
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