このテキストには形容詞が一回も出てこないのですが、似たような 使い方で「名詞の連語形」というのが使われています。
形容詞は後ろから名詞を修飾する |
例)白いラクダ(white camel)
ヘブライ語の表現: | ガマル | ラバン | |
(camel) | + | (white) |
定冠詞は、名詞と形容詞の両方の先頭につく |
例)その白いラクダ(the white camel)
ヘブライ語の表現: | ハ・ガマル | ハ・ラバン | |
(the camel) | + | (the white) |
形容している側の名詞が、後ろから名詞を修飾する |
例)ラクダの言葉(camel's speech)
ヘブライ語の表現: | デブレイ | ガマル | |
(speech) | + | (camel) | |
(speech of) | + | (camel) |
定冠詞は、形容している側の名詞の先頭にだけつく |
例)そのラクダの言葉(the camel's speech)
ヘブライ語の表現: | デブレイ | ハ・ガマル | |
(speech of) | + | (the camel) | |
アラビア語の表現: | カラーマ | アル・ジャマル | |
(speech of) | + | (the camel) |
例文7行目で、この表現「カラーマ アル・ジャマル」が使われています。 「雄牛はラクダの言葉を聞き、彼の心の中で恐れた」
アラビア語 | ヘブライ語 | ||
名詞+定冠詞+名詞 | 言葉 + the + ラクダ | カラーマ アル・ジャマル | ディブレイ ハ・ガマル |
例)白いラクダの言葉(white camel's speech)はどうなるでしょう?
ヘブライ語の表現: | デブレイ | ガマル | ラバン | ||
(speech of) | + | (camel) | + | (white) |
例)定冠詞がつくと(the white camel's speech)どうなるでしょう?
ヘブライ語の表現: | デブレイ | ハ・ガマル | ハ・ラバン | ||
(speech of) | + | (the camel) | + | (the white) |
例)「本の家」と書いて、「学校」という熟語
ヘブライ語の表現: | ベイト | セフエル | |
(house of) | + | (book) |
例)「飛ぶことの野原」と書いて、「飛行場」という熟語
ヘブライ語の表現: | サデイ | テウファ | |
(field of) | + | (flying) |
主語(S)、動詞(V)、目的語(O) という構文が、テキストではどうなっていたかをチェックしてみます。
第1行: | 動詞(あった) | + | 主語 | ||||||
第2行: | 動詞(あった) | + | 主語 | ||||||
第3行: | 動詞(あった) | + | 主語 | + | 関係詞(who) | + | 動詞(助けた) | + | 目的語 |
第4行: | 動詞(疲れた) | + | 主語 | + | 接続詞(and) | + | 動詞(座った) | + | 目的語 |
第5行: | 動詞(恐れた) | + | 主語 | + | 関係詞(that) | + | 動詞(耕す) | + | 目的語 |
第6行: | 動詞(言った) | + | 主語 | + | 関係詞(that)+主語 | + | 動詞(殺す) | + | 目的語 |
第7行: | 動詞(聞いた) | + | 主語 | + | 接続詞(and) | + | 動詞(恐れた) | + | 目的語 |
第8行: | 動詞(起きた) | + | 接続詞(and) | + | 動詞(働いた) | + | 目的語 |
上記の動詞14回の使用を分類すると、 主語+動詞+目的語(S+V+O)のタイプは1回(第6行の後半) 動詞+主語(V+S)のタイプは7回 動詞+目的語(V+O)のタイプは5回 動詞(V)だけのタイプは1回 つまり、主語が先行するケースはたった1回だけで、他は全て動詞が先行。 このことから、セム系の文章は一般に動詞が先行することが分かる。 ★補足:物語ではなく会話の場合は、(S+V)のタイプがよく使われる。 ★(V+O)のタイプなどには主語がありませんが、セム系の言語に特有な 動詞の変化(語尾、語頭など)によって主語を察知することができます。
次に動詞の時制についてチェックすると、 過去形(つまり完了形) のタイプは13回 現在形(つまり分詞形) のタイプは 0回 未来形(つまり未完了形)のタイプは 3回 セム系の言語では、動詞の完了形が語根の基本形となっています。 このテキストでは完了形がほとんどで、分詞形は使われていませんが、 未完了形が使われています。その3回のケースを調べてみます。
例文3行目の後半の文 「そして(ラクダは)雄牛が鋤を引くのを助けた」
アラビア語 | ヘブライ語 | ||
未完了形の動詞 | used_to+help | ヤ・サーイドゥ | ヤ・サアド |
例文5行目の後半の文 「(ラクダは)一人で鋤を使い土地を耕すことを」
アラビア語 | ヘブライ語 | ||
未完了形の動詞 | used_to+耕す | ヤ・フルタ | ヤ・ハラシュ |
例文6行目の後半の文 「農夫が雄牛を殺すだろうと」
アラビア語 | ヘブライ語 | ||
未完了形の動詞+人称接尾 | will+屠殺する+him | サイ・サバハ・フウ | ヤ・サバフ・フウ |
セム語の動詞の変化は、一般に、英語に比べて複雑で多種ですが、 その中に面白い変化をする動詞があります。 例文の動詞#12「アシュタガラ=働いた」、これがその一つで、 語根は(sh+G+L)「シァガラ=作動させた」ですが、 再帰の意味を表す動詞変化では接頭語(i+t)がついて (i+t+sh+G+L)「イタ+シァガラ」となるべきところが、 (i+sh+t+G+L)「イ+シャ+タガラ」→「イシュタガラ=働いた」 となります。 ★ヘブライ語では、「ヒトパエル態」の動詞で同じ変化があります。 例えば、語根は(sh+G+L)「シァガル」では (h+t+sh+G+L)「ヒト+シァガル」となるべきところが、 (h+sh+t+G+L)「ヒ+シャ+タガル」→「ヒシュタガル」 となります。
セム系の人称代名詞には、「独立形」と「非分離形」があります。 「独立形」というのは、どの国の言語にも存在する普通の人称代名詞でが、 「非分離形」というのは、他の単語の語尾変化として使われる形です。
日本語 | 英語 | ヘブライ語 | アラビア語 | |
私は | I | アニー | アナア | |
あなたは | you | アター | アンタ | (男性) |
あなたは | you | アット | アンテ | (女性) |
彼は | he | フー | フーワ | |
彼女は | she | ヒー | ヒーヤ | |
私たちは | we | アナハヌー | ナハヌー | |
あなたたちは | you | アテム | アントム | (男性複数) |
あなたたちは | you | アテン | アニトンナ | (女性複数) |
彼らは | they | ヘム | フム | (男性複数) |
彼女らは | you | ヘン | フンナ | (女性複数) |
★よく混乱するのが、 「he」と「she」です、これはヘブライ語で「フー」と「ヒー」ですから。 さて「独立形」の人称代名詞は主語にしか使えませんが、 一方、「非分離形」の方は所有挌や目的語として使えます。
1) | 名詞 | +人称接尾 | :これは所有挌: | 例文7 |
2) | 前置詞 | +人称接尾 | :これは目的語: | 例文2、例文5 |
3) | 動詞 | +人称接尾 | :これは目的語: | 例文6 |
例文7行目の後半の文 「彼の心」、ここでの人称代名詞は所有格です。
アラビア語 | ヘブライ語 | ||
名詞+人称接尾 | 心+his | ナフシ・イー | ネフシュ・オウ (→ネフショ) |
例文2行目 「彼には」、ここでの人称代名詞は目的語。
アラビア語 | ヘブライ語 | ||
前置詞+人称接尾 | for+him | インダ・フ | レ・オウ (→ロウ) |
例文5行目 「彼一人だけで」、ここでの人称代名詞は目的語。
アラビア語 | ヘブライ語 | ||
前置詞+人称接尾 | 一人だけで+him | ワハダ・フ | アツム・オウ (→アツモ) |
例文6行目の後半の文 「彼を殺すだろうと」、ここでの人称代名詞は目的語。
アラビア語 | ヘブライ語 | ||
動詞+人称接尾 (未完了形) | will+屠殺する+him | サイ・サバフ・フ | ヤ・サバフ・フ |
文法的な意味では、
人称接尾の変化は、上記1)と2)の場合と3)の場合とは違っています。 名詞、前置詞の人称変化は1つですが、動詞の人称変化には2つあって、 それだけ複雑になります。
一つは、主語の人称(女性/男性、1人称/2人称/3人称、単数/複数)が 動詞の語尾変化/語頭変化をともなうもの。 もう一つは、上記3)目的語の代名詞を動詞の語尾変化に吸収したもの。
上記3)の用法は古典的で聖書ヘブライ語では基本ですが、現代ヘブライ語 ではあまり使用しません。もう一つの表現方法があります。
[動詞]+[前置詞+人称接尾]
日本語の単語「を」に相当する前置詞「エト」という単語、 これは英語にはない用法ですが、
ヘブライ語 | ||
動詞+人称接尾 | 屠殺した+him | サバフ・フ |
動詞+前置詞+人称接尾 | 屠殺した+を+him | サバフ エト・オウ →(ザバフ オトウ) |
現代ヘブライ語では後者を普通に使います。
[名詞]+[前置詞+人称接尾]
英語の「of」に相当する前置詞「シェル」を使うもので、
ヘブライ語 | ||
名詞+人称接尾 | 心+him | ネフシュ・オウ →(ネフショ) |
名詞+前置詞+人称接尾 | 心+of+him | ネフシュ シェル・オウ →(ネフシュ シェロウ) |
現代ヘブライ語では後者を普通に使います。
今回はこのテキスト例文を基にして、特徴的な文法 (名詞の連語形、動詞の位置、人称代名詞)を調べ、 アラビア語とヘブライ語には類似性が多いことが分かりました。
第1回から第3回までのまとめ要約:
アラビア語とヘブライ語の違いはきっと方言の差程度であろう、 東北弁と大阪弁あるいは沖縄弁の違いのように。 文字については明らかに違うが、これもほとんど日本語の「かな」と「カタカナ」 の差でしかない、のかもしれない。
これでテキスト「雄牛とラクダ」は終わりです。