In 1996,Reports - Around of Japan by bicycle -


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旅の目的


 4月29日。九州大学工学部に通う友人に泊めてもらう。中学校からの友達で、当時から優秀だった彼は、現役で九州大学に入学。2年生になるとき、1年間大学を休学。かねてからの夢であったユーラシア大陸横断の旅に出たのだった。彼と最後にあったのは、彼が旅に出る前。私はこの日本一周の際に是非、彼にあって当時のことをたずねてみたいと思っていた。しかし、彼は多くを語らなかった。こと旅に関してはしゃべろうとしないのだ。ただ”もう旅には出ない”という。何があったのであろうか。

 日。彼の留守中、テーブルの上にあった一冊のメモ帳が何となく気になり、悪いと思いつつページをめくった。ユーラシア大陸横断中のメモらしい。日記は付けてなかったと彼はいっていた。書いてあるのは何かの値段や、宿の名前、少ないけれども何人かの名前と住所が雑多に記してあるだけだ。ぺらぺらとめくり終えた最後の裏表紙に、珍しくびっしりと文字が詰まっていた。

「旅の目的」
とある。日付はないが、これを書いたと思われる場所が記入してある。旅の終わりに近づいた頃だとわかる。
 中学生の頃からこの旅をしようと考えていたこと、旅に出るときの両親の反応や、実際に飛び出してみて気づく両親への思い。自分にとってこの旅は長い人生の中のただ一つの休養、大学に合格した自分へのささやかなご褒美であって、これが彼自身の本当の目的ではないということ。今自分は何がしたいのか。今新たに沸き立つ夢と、もう二度と旅には出ないという決心が、旅行者独特の熱っぽい文章で記されていた。
 ものすごいショックを受けた。

「旅の目的」
確かに自分にもそれはある。がここで改めて、なぜこの旅を思い立ったのか、この旅を今自分がどう受け止めているのか問うてみて、得もいわれない不安がおそった。一体自分はなぜ旅に出たのだろうか。本当の目的とは何だろうか。このときから常に「旅の本当の目的とは」と心に問い続けることになった。

 賀大学で啓示を受けた私は、紹介してもらったアイヌの研究家と朝鮮人の差別問題に取り組む方に会いに行くことにした。これまでの活動の苦労などをじっくり聞いていたが、いつしか私自身もあつくなって環境への思い、この旅を通して私がみたいと思っているものなどを語っていた。そんな私に、彼らは同じようにがんばっている人々を紹介してくれたのだ。次々と人の輪が広がっていく。何か不思議なものに導かれていく。そんな感覚を覚えた。


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