In 1996,Reports - Around of Japan by bicycle -


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東北から関東へ


 「テントを開けますよ!」
突然の声にびっくりして、あわてて顔を出すと二人の警察官がたっていた。ここは福島県白河市白河南湖の公園。ここで泊まってはいけなかったのか。いままでにも公園の管理人などに注意されたことはある。とにかく、学生証と例の紹介状を見せて旅行していることを告げる。話によると、同じ頃、福島県内でテントの中で、一酸化炭素中毒によって死亡した人がいたらしく、心配になって声をかけてくれたようだった。そういえばろうそくに火を付けたまま、眠り込んでいた。
 旅仲間の中には、逃走中の”O真理教信者”と思われて連行された話など聞いていたので、一瞬不安がよぎったが、以外に親切な応対にほっとした。

 慈川沿いのサイクリングロードを利用して、東北と関東の境目まで来る。今日は9月30日。思えば8月31日に北海道から下北半島にわたったのだから、もうあれから1ヶ月になる。早いものだ。旅として楽しめるのは、もう終わってしまったかも知れない。これからは関東である。人混みと車のなかを走らねばならない。いい景色も少なくなるだろうし、つらいことも多くなるだろう。自転車での旅というよりも、大学や人を訪ねることの方に重点が移ってしまうだろう。寂しいような、しかし松山に近づいたことで少し、うれしいような複雑な気分だ。

 の日の晩、テントの中で「深夜特急」を読み終えた。この本は岩手大学に寄ったとき学生が”是非読んでほしい”と渡されたものだった。
 この本の著者は、バスでユーラシア大陸を横断した。終着地はロンドン。しかし、彼は旅の終わりをポルトガルで決めた。サグレスという岬にたつ「地ここに終わり、海はじまる」という碑をみて、これを見るために旅をしてきたのだなと悟ったのだ。
 さて、私はいったいどこで旅を終わらせるのか。私の場合、一周であるからどこで終わりを見つけるか、彼よりも困難なはずである。終点のある旅。形の上で終わりがはっきりと見えているから、よけいに心の終わりを見つけるのが難しい。あと残り2ヶ月ほどで見つけなければ。
思えば、宗谷岬を回った日に、同じ事を考えていたかも知れない。もしかしたら、あのときに心の旅が終わったのかも知れない。これから南下しなければならない現実を、ものすごく悲しんだ。深いため息のなか、重い足を動かした。あそこで終わっていたのかも知れない。


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