旅・1995


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この年の旅は、初めてダブリンに行かなかった。
到着空港もコーク。
ダブリン空港もお世辞にも立派とはいえなかったが(注:後年改装された)、
コーク空港は本当に小さな地方空港といった趣だった。
経由地はいつものようにロンドン・ヒースロー空港。
そこからダブリン・コーク・ゴルウェイ等の各地への便が頻繁にある。
それは英国内へ飛ぶ国内便の感覚に等しい。

 

コークは2度目の街だった。
最初に訪れたのは初めての1人旅のとき、ウォーターフォードから
長距離バスに乗って、いまかいまかとドキドキと車窓ごしに
コークという街を探した思い出がある。
今回は空港からシティセンター行きのバスに乗る。
ダブリンに再度旅したときにも思ったことだが、
なんだか「帰ってきた」「懐かしい」という想いがこみ上げてくる。
日本からFAX予約した憧れのホテルに向かう。
高台にあって、ちょっぴり古めかしいB&Bだった。
1階のレストランが有名なところだ。
ただし、到着日は時間も遅かったので本当に「泊まるだけ」だった。

 

今回の旅行自体、コークが目的ではない。
コーク周辺の街…これはホテル主体で選んだところだ。
「憧れのホテル巡り」といったところだろうか。

 

 

 

次の朝早々に列車でマロウという街に向かう。
コークのホテルでマロウのホテルまでの行き方を聞いたら、
公共の交通機関はないとのことでタクシー会社の電話番号を教えてもらえた。
駅に着きすぐ電話して迎えに来てもらう。
私は自分で車を運転しないので、距離感がいまいち分からないのだけど、
ホテルは駅からずいぶんと離れているようだった。
街の中心地からも。

 

ロケーションの大切さは分かっているつもりだ。
今回の目的は「ホテル」であり「食事」なので、ウロウロ観光して回る予定はなかった。
「ホテル主体」と書いたが、これはガイドブック「アイルランドへ行きたい」で
紹介されていたところばかりだ。
ただ、一軒を除いてそのガイドブックには住所やFAX番号が
明記してあったところではない。
この本はガイドブックではあるものの、「地球の歩き方」や「自由自在」のように
懇切丁寧に説明してあるものではないので、
美しい写真や文章で紹介されたその同じ場所に辿り着こうと思ったら、
自分でいろいろ調べなければならない。
たまたま初めてアイルランド旅行をしたとき、観光局から譲ってもらった
ホテルリストを持っていて、その電話帳のような英文字と数字ばかりの本から
ガイドブックに紹介されていたところを突き止めた。
突き止めたからには「何が何でも行ってみたい!」一心でFAX文を書いていた。

 

 

 

ホテルから滞在地を決めたこともあり、それもどのホテルも街の中心地からは
遠く離れたところということが分かってからは「滞在そのもの」を楽しむことにした。
部屋もお料理も、決して「安くない」投資をしたおかげで本当に素晴らしいものだった。
「贅沢だな…」と、自分でも思った。
広々としたツインの部屋を一人占めして、その大きな窓から見える景色も
広大な緑のアイルランドそのもの。
食事もそうだ。
朝の光の中でまるで時間が止まったようなバリーマルーのギンガムチェックの食卓。
サンルームの白いテーブルで食べたランチ。
ほの暗いランプに照らされた魔法のようなディナー。
暖かな暖炉のそばで過ごした食後のお茶。
どれもがまさにひとつの「夢のような」瞬間瞬間だった。

 

これを最後に、こういった旅はやめようと思った。
私がアイルランドに求めたのは違うと。
だったら「なんだ?」と問うのだけど答があるはずもない。
現実の厳しい自然はすべてを吹き飛ばすかの如く荒れ狂う風の中にある。
そうとまではいかなくとも、こう、お腹の中心ぐらいにドンと沈んでいる重み。
ゆらゆらと昇りたち流れてゆく幽玄の原風景。
そんな、本来はモノトーンの世界を旅する感覚なのだから。

 

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