図1 2005年台風14号の進路平成17年の台風14号によって発生した9月4日~6日の記録的豪雨によって、宮崎県では全県的に被災する状況となりました。とくに高岡・北方・諸塚の3町村は局地激甚災害の指定を受けるなど、その記録的な豪雨は河川の氾濫、土砂災害、鉄橋の流失など様々な被害を引き起こしました。
台風0514号は8月29日21時にマリアナ諸島付近の海上で発生し、大型で非常に強い勢力へと発達しながら日本の南海を北北西に進み、5日朝には九州地方の広い範囲が強風域に入り、夜遅くには宮崎県が暴風域に入りました。台風が九州地方の西岸に沿って北上した5日夜から6日昼にかけて河川の氾濫や土砂崩れが続出しました。
この台風は九州接近の前から停滞していた秋雨前線を刺激したほか、広い暴風域を維持したまま比較的ゆっくりとした速度で進んだため、長時間にわたって広い範囲で暴風、高波、大雨が続きました。
一般的に台風の東側には湿った空気が流れ込むため、この台風のようなコースを通った場合南から湿った空気がぶつかった山沿いで大雨になる傾向があります。九州・中国・四国地方の各地で4日0時から総雨量が9月の平均雨量の2倍を超え、宮崎県南郷村神門では月間平均雨量の2.9倍となる1,321mmに達しました。
図2 東郷町の被害状況
日向市を流れる耳川では、中流域右岸側の広い範囲で積算雨量が1000mmを越え、諸塚村では6日10時過ぎから中心商店街の約20店舗が軒下まで水没しました。河口から17.8kmの区間では、浸水家屋184件、全壊・半壊・流出家屋100件の被害が発生しました。さらに6日夜になって、野々尾地区にて幅約350mにわたって大規模地辷りが発生し、多量の土砂が耳川を閉塞して天然ダムが形成されました。さらに崩壊によって流出した多量の流木がダム地点に漂着したほか、上流域において3本の道路橋(尾佐渡橋、小布所橋、小原橋)に流木が絡まり流失する事態となりました。
川は降雨が集まって支流となり、支流が集まって、やがて大河となっていきます。降った雨がこの川に集まる範囲を流域といいます。流域内で最も延長の長い河川を本川、本川に流入する河川を支川といいます。耳川は宮崎・熊本の県境三方山を源として、椎葉村・諸塚村の山間部を流れ、十根川、七ツ山川などの支流を合わせながら東郷町を貫流し、日向市より日向灘に注いでいます。流域面積は884.1km2です。
図3 川の名称 川にはいろいろな呼び名があります。堤防に囲まれた河道の範囲は堤外地とよばれ、河道の外側は堤内地と呼ばれます。堤外地は普段水が流れている低水路と洪水時に水が流れる一段高い高水敷からなっていて、低水路の内最も深い河床を結んだ深掘れ部をみお筋といいます。このみお筋が低水路河岸近くにできた箇所の多くは水衝部で、河岸の浸食危険性が高くなります。上流に背中を向けて右手側を川の右岸、左手側を川の左岸といいます。堤防の上端は天端、堤防の斜面はのり面といい、のり面の途中にある水平な部分を小段といいます。川側が川表または表のりで、川の反対側が川裏または裏のりである。のり面の勾配は鉛直高に対する水平距離で表し、1割勾配、2割勾配などといってこの数字が大きいほど堤防のり面の傾斜が緩いことを意味します。そして、人間の体の名称のように、堤防の付け根部分はのり尻、堤防の天端の角はのり肩といいます。
河道を流れる水量は流量と呼ばれ、ある断面を1秒間に通過する水の体積で表します。水の密度は1m3で1㌧なので、流量も毎秒○○㌧ということが多い。
川の水位は、流量÷(流速×川幅)で計算することができます。だから、流量が一定なら、流れの遅い所や川幅の狭い所ほど水位が高くなります。また、流れの速さや川幅が一定ならば、流量が増えるほど水位は高くなります。
ある場所を流れる川の水量、とくに洪水の時の流量は、
流量 = 流域面積 × 雨の強さ ÷ 洪水到達時間
で計算することができます。つまり、流域面積が大きいほど流量は多くなりますが、ある河川を対象とする場合、一定とみなします。ですから雨の降り方が強いほど、洪水到達時間が短いほど、その河川の洪水流量が多くなります。それから、洪水到達時間というのは、流域の一番遠い所に降った雨がどれくらいの速さでその地点まで流れてくるかを表したもので、流域の状態、土地利用の状態によって変わります。日本の河川は外国の河川に比べると長さが短く、勾配が急なので、洪水到達時間が短い傾向にあります。それから、流域面積が小さい河川、すなわち中小河川ほど洪水到達時間も短くなります。さらに、道路や宅地が増えると、地下に浸み込む量がほとんどなく、雨が流れやすくなるため洪水到達時間が短くなります。これと同じで、山間部でも雨が長く続くと地下に水が浸み込まなくなってしまい、洪水到達時間が短くなってしまいます。
図4 50年間の予測年降水量変化分布図
これらを総合すると、中小河川で、雨が長く続いた後に、短い時間に激しい雨が降ると洪水流量が大きくなり、川幅の狭い所では河川水位が上昇しやすくなります。
洪水は様々な要因が関連して発生するわけですが、いずれにしても短い時間にたくさんの雨が降ることがもっとも大きな引き金になります。
宮崎県はもともと降雨量の多い県ですが、近年山間部ほど、降水量が増えるなど降水量が変化していることがわかってきました。また雨の降り方も変化していて、1回に降る雨の量が増えることが確認されています。さらに温暖化によって将来の降水量が変化することが予測されています。加えて、宮崎に接近する台風についても、以前よりも遅い時期に接近する傾向にあることなどもわかってきています。したがって、今後はさらに水害への防災意識を高めておく必要があります。
宮崎県の農業においては台風への影響を忘れるわけにはいきません.しかし,温暖化による台風への影響はいまだによくわかってはいません.そこで,過去50年間に宮崎に接近した台風について調査しました.台風の接近日について最近25年間(1976~2000年)と以前(1951~1975年)を比較すると(図3),最近の台風は以前よりも遅い時期,つまり8月下旬から10月にかけて接近するものが多くなっています.さらに,台風後との雨の量を調べると,9月・10月に接近する台風は多くの雨をもたらす傾向にあることがわかりました.
水災害への取り組みは、自治体による治水事業と水防団による水防活動の二つが重要な柱となっています。しかし、住民も積極的に情報を収集し、普段から自治体や水防団等との連携を深めておくことによって、地域全体の備えを実行することができます。
すぐにできる対策としては以下のようなものがあります。
損害保険料率算定機構:台風0514号による宮崎県の災害調査報告
河川整備基金助成事業:「平成17年台風14号の記録的豪雨による災害の調査と減災対策に関する研究」の報告書
国土交通省国土技術政策総合研究所 監修:実務者のための水防ハンドブック、技報堂出版
末次忠司:現場で役立つ実践的減災読本 河川の減災マニュアル、技報堂出版
竹下伸一ら(2007):宮崎における降雨パターンの経年変化、Journal of Rainwater Catchment Systems
この報告は,2011年11月23日に,日向市にて開催された防災研修会にて,講演した内容の要旨草案です.