いま,私たちは毎日のように温暖化に関する情報に触れています.地球規模の気温の上昇や世界・日本各地で頻発している異常気象に関する報道はセンセーショナルです.これらの情報に触れていると地球温暖化は着実に進行しているような気がします.しかし,実際の所はどうなのでしょうか.私たちの住む宮崎県では温暖化によっていったいどういう影響があるのでしょうか.本講演では,温暖化の影響について,気象庁の予測実験の結果を宮崎県にあてはめて説明いたします.とくに,主産業ともいえる農業への影響について見ていきます.
図1 年平均気温予測値の地理的分布:気象庁/気象研究所がSRES/A2シナリオ(二酸化炭素の人為的な排出量が比較的大きいと仮定)を用いて予測した値を,農業環境技術研究所が1km毎に再解析したもの 気温は日射量とともに,植物の成長に影響する主要な気候要素(資源)です.そこで,まず予測された現在(1981~2000年),約50年後(2031~2050年),約100年後(2081~2100年)の宮崎県における年平均気温を図1に示しました.図に見られるように,温暖化が進行した約50年後には海岸に沿って18~20℃域が現れ,14℃以下の低温域は高冷地へと狭まっています.さらに約100年後には18℃以上の平均気温域が都城盆地域までに広がり,県内ほとんどの地域が14℃以上になることが予想されます.
図2 50年間の予測年降水量変化分布図:1981~2000年の年降水量に対してA2シナリオによる温暖化予測の2031~2050年の年降水量の増減を算出.水は植物にとっても人間にとっても必要不可欠な資源です.少ない雨は渇水を引き起こしますが,多すぎる雨もまた災害の危険性をはらんでおり問題となります.そこで,現在の年降水量と比較して約50年後はどれくらい雨が増えるのか,あるいは減るのかを図2に示しました.図によると宮崎平野では約50mm減少しますが,高冷地に行くに従って500mm以上降水量が増加することが予想されます.
過去30年間の県内の降水量を解析したところ,実際に多くの地点で増加していることが分かっています.加えて,宮崎平野では春の降水量が減少していることもわかっています.
図3 台風接近日の変化宮崎県の農業においては台風への影響を忘れるわけにはいきません.しかし,温暖化による台風への影響はいまだによくわかってはいません.そこで,過去50年間に宮崎に接近した台風について調査しました.台風の接近日について最近25年間(1976~2000年)と以前(1951~1975年)を比較すると(図3),最近の台風は以前よりも遅い時期,つまり8月下旬から10月にかけて接近するものが多くなっています.さらに,台風後との雨の量を調べると,9月・10月に接近する台風は多くの雨をもたらす傾向にあることがわかりました.
最近,日本各地でお米の品種が悪くなっていると報告されています.主な原因として考えられているのは,登熟期の平均気温が高すぎることです.稲の穂が出て,膨らんでいくこの時期の気温が高いと,栄養が十分に蓄えられなくなって,味が悪くなります.これを高温障害とよび,早急な対策が求められています.そこで,温暖化によって今後,宮崎県のお米にも高温障害の可能性があるのかを調査しました.
図4 宮崎地区における早期コシヒカリの発育予測結果宮崎平野を中心とする地域では,3月中旬~下旬に田植えを行い7月末頃に稲刈りをする早期栽培が盛んです.その中心的な品種であるコシヒカリについて約50年後,約100年後の生育状況を発育動態予測モデルというものを使って,調査しました.
現在は3月25日に田植えをすると,90日間の生育期間を経てだいたい6月23日頃に穂が出ます.穂が出てから20日間程度の気温が27℃以上になると高温障害になる目安とされていますので,これを求めると24.8℃でした.同じように約50年後,約100年後について求めると生育期間が短くなり,出穂後の平均気温が高くなることがわかりました.
図5 宮崎地区における普通期ヒノヒカリの発育予測結果:図4・図5共に,堀江らの発育動態予測モデルを使用し,宮崎県総合農業試験場作物部による奨励品種決定調査現地試験成績とアメダス観測値を用いてパラメータを同定した.これに地点毎の日長と温暖化予測気温を用いて出穂日,出穂後の平均気温を算出した.
都城盆地や延岡市域,また宮崎平野の一部の地域では,6月中旬に田植えを行い,10月末に稲刈りをする普通期栽培を行っています.その主な品種はヒノヒカリですので,これについて同様に調査しました.同じく宮崎地区における結果を示したのが図5です.
現在は66日間の生育期間を経て8月20日に出穂していて,早期コシヒカリに比べて生育期間が大変短くなっています.また出穂後の気温も約1℃も高いことが分かります.約50年後,約100年後の生育については,やはり生育期間がやや短くなっています.それから,出穂後の気温が高くなっていて,とくに約100年後は高温障害の目安となる27℃より高くなっているのが分かります.
これらの成果は,大学における私の研究成果であると同時に,宮崎県内の農業気象関係者でつくる宮崎気象利用研究会の活動成果でもあります.世界的規模で問題となっている現象が,私たちのすぐそばでも起こっていると言うことを,多くの皆さんに知っていただけるよう活動を続けていくと同時に,県や市町村,農業関係者の方々と連携しながら,より深く研究を続けていきます.
○メテオエム・宮崎気象利用研究会 (2009):宮崎の気候資源への気候温暖化の影響強化―温度資源・降水への影響―,平成20年度成果報告書
○メテオエム・宮崎気象利用研究会(2010):宮崎県農業に関する地球温暖化の影響評価,平成21年度成果報告書
○竹下伸一・秋吉康弘・稲垣仁根(2007):宮崎における降雨パターンの経年変化,Journal of Rainwater Catchment Systems, 13(1),23-27
○竹下伸一・細川吉晴・稲垣仁根(2010):宮崎県における降水特性の空間的・時間的変化,Journal of Rainwater Catchment Systems, 15(2),67-72
○竹下伸一(2010):気候変化による宮崎県の降水量とその分布への影響,宮崎大学農学部研究報告,56,73-78
この報告は,2010年10月15日に,宮崎地方気象台主催で開催された気候講演会「ストップ!地球温暖化、どうなる?これからの地球 これからのみやざき」にて,講演した内容を要約した要旨の草案です.