気候緩和機能やヒートアイランドの調査では,ある程度広い範囲内の気温を精度良く測定することが求められる.しかし,自機記録可能な気温観測装置は単体でも比較的高価なうえ,複数台購入する必要があるために,実際に調査を行うとなるとある程度まとまった費用が必要となる.また,観測機器を設置するためには,周辺の環境を代表するような適切な箇所を選ぶための予備知識や経験が必要な上に,土地の所有者の了解,強い日差しや風雨に耐えられるような工夫など,クリアしなければならない課題が様々にある.そのため,実際に調査を行うのはハードルが高いのが実態である.
こういった課題に向き合うことなく,比較的簡単に広い範囲の気温測定を行えるのが,移動観測という方法である.
そのメリットは
などである.
ただし,きちんとした精度で,気温を観測するためには,若干のノウハウがあるので,その点には注意を払う必要がある.
この実習では移動観測を実際に行い,その方法や計算方法,ノウハウなどを体験を通して学習することを目的とする.
今回使用する温度計は,データロガー(自機記録装置)つきのサーミスタ温度計(T AND D製おんどとりTR72R)である.日射による温度センサへの影響を避けるため,直径90㎜,長さ250㎜の塩ビ管の中に,直径60㎜,長さ250㎜の黒塗りの塩ビ管を通して二重にし,外側をアルミホイルで覆った放射よけシェルターを作成し,内部壁に接触しないようセンサを挿入,固定している.このシェルターをポールにとりつける.この際シェルターの高さは1.5mになるようにし,液晶表示部および記録装置は,ポール中ごろの見やすい箇所に取り付けている.
注意点など
今回は,農地側と宅地側の二手に分かれて,同じ時間帯にそれぞれで測定を行う.移動観測区域図
地図上の1から順に移動していく.
・あらかじめ定められた開始時間の少し前に,それぞれの1地点に移動し,温度計を静置する.その際,温度計に日射があたっていないことを確認する.
・時間になったら,温度計の値が頻繁に変化しないことを確認して,その気温を最低3回記録する.また同時に観測時刻を記録する.
・次の点へ移動し,温度計を静置して温度が安定するまでまって,同様に気温を3回読み取り,観測時刻と共に記録する.
この手順で,定められた地点を順に観測し,最後にスタート地点に戻ってきて,同様にて観測を行う.
今回は,二手に分かれて観測を行うので,終了時刻を合わせるよう計画すると良い.
注意点など
移動観測は移動しながらある一定の範囲を観測していくため,同じ時刻に一斉に気温を測ることはできない.どうしても時間のズレを生じてしまう.時間が違えば気温も変化する.移動観測では最初と最後に同じ地点で観測を行うが,観測開始時と観測終了時では気温が変化している.
しかし,時間経過に伴う気温の変化をきちんと把握して,補正計算することで,あたかもある時刻に一斉に気温を測定したのと同じ値を求める事ができる.この補正計算を時刻補正という.
計算の手順は以下の通りである.
ここで補正計算の一例を示す.農地の移動観測を行うのに16時30分から17時30分までの1時間かかったとする.ここで得た観測データから17時(中間時刻)の予想気温分布を得ようとするためには,農地の全観測地点の気温に時刻補正を施し17時の値を推定する.また開始時刻における気温と終了時刻における気温がそれぞれ10℃と7℃だったとすると,1分あたりの気温変化は3/60℃(0.05℃)となる.
各地点における観測時刻と中間時刻の差すなわち時間差をそれぞれ計算し,それに気温変化量をかけて補正値を求め,観測値に加えると補正後の気温を求める事ができる.ここでは,17時の値は17時以前よりも低く,17時以降よりは高いので,17時以前の観測値には補正分の値を減じ,17時以降の観測値には逆に加えることになる.
先に求めた中間時刻が,その移動観測における観測時刻もしくは基準時刻となる.各地点の気温補正が求まったら,地図上に観測地点をプロットし,各地点に補正後の気温を書き込む.そして,適した間隔で等温線を記入して,気温分布図を作成する.その際,なるべく滑らかになるようにする.また等温線同士が交差したり,分岐したりしないように注意する.
移動観測中に気づいた観測地点周辺の様子などを考慮に入れながら,得られた気温分布図について考察し,まとめて成果品とする.
この文書は,平成21年10月に開催された宮崎県高等学校農業教育研究会で講師を務めたときの実習内容を記したものです.