宮崎大学にきて6年たちます。もともと、研究テーマは水資源に関することです。水は雨が降って流れ、蒸発しますから大気とのつながりが重要になってきます。宮崎市花ケ島で土地改良組合の水土里(みどり)ネットと協力し、洪水防止や街中の気温上昇要因につながるヒートアイランド現象を抑える水田機能など農業の持つ多面的な機能の研究をしています。その中で3年前から温暖化と降雨の変化が宮崎農業にどう影響を与えるのか―に取り組んでいるところです。
県内の気温はいまのままでいけば、100年後には平均気温が約2度上昇するとみられています。イネでその影響をみると、早期米のコシヒカリは品質低下の障害米(乳白米、背白米、未熟粒など)が多少、出ますが、それほどひどくはありません。問題は普通期米のヒノヒカリ。登熟期の温度が障害米発生に及ぼす変更点の危険温度は26・7度です。この危険ラインを超える期間は6月27日から8月27日となります。だから、いまのままの田植えでは障害米が急激に増えることになります。県総合農業試験場が高温に強い品種を改良しており、将来的にはこの品種改良の方法が一番いいですが、農家自体が手っ取り早く対応するには登熟期の気温がこの危険温度ラインを超えないように、田植え時期を前倒しか、後ろ倒しにすればいいというわけです。
いまよりも後ろ倒しで田植えを6月27日以降、7月初めごろにすれば、8月28日以降に出穂するので危険ラインにはかかりません。前倒しで6月24日以前に出穂させるには3月20日より前に田植えをすれがいいわけです。そうなれば、いまの早期水稲と同じになります。早期はいまとほぼ同じ環境ですが、生育期間は多少、短くなりますのでそこで調整していけばいいでしょうね。
早期水稲はそもそも、台風の襲来を避けるための防災営農でした。温暖化で台風はどうなるのか―。60年分のデータがあり、過去30年と最近30年に分けて調べたところ、過去の方は8月襲来が多く、最近は9月中旬以降が多いです。降雨量もいまの方が多くなっています。風速もいま分析中ですが、おそらく、雨が多いことから風速も強いという結果になるはずです。台風の予測は難しいですが、最新の予測では今後、台風の発生数は減るものの、1個、1個の台風勢力は大きくなるだろうといわれています。
温暖化では雨の降り方が変わるといわれており、年間の降雨日数を1979~2004年まで調査、分析してみました。分かったことは1回の降雨量が増えてきて、反対に雨の日数が減っていました。降らない日数が多くなっているのです。内陸部に比べて沿海地域では雨が降らない日が増えています。県内全域で春先に降らない日が増えています。干ばつリスクが増えているということですね。前倒しした普通期、早期とも水が足りないこともあり得るのではないでしょうか。
作物は大気の状態を感じ、反応しながら生長していきます。温暖化が進むと、温州ミカンなどの柑橘類の適地は内陸部にずれていくと予測されています。イネの場合には品種改良という対応がありますが、果樹は樹木ですからそれは難しい。愛媛県では温暖化に対応する形でオレンジへの切り換えが進んでいると聞いています。
宮崎農業は南九州でも一早く温暖化がやってきますが、これをプラスの方向に持っていければいいと思います。育てにくくなる作物も出てくる半面、新しい作物の可能性も広がってくるのではないでしょうか。温度は上がっても、日射量そのものはいままでとは変わりません。全国でも有数な日射量はこれまで以上に宮崎農業では重要になってくると思います。この特長を生かした農業がもっと出てきてもいいのではないでしょうか。
宮崎での口蹄疫発生は不幸なことでしたが、そこからの復興ということで再び、宮崎農業が注目されていることはチャンスではないでしょうか。私の周りの農家も意欲的にとらえている人が多いです。支援していきます。
この記事は,JA宮崎中央会発行「みやざきアグリッシュ」2010年10月号に掲載された取材記事の草案です.