宮崎県北部の高千穂郷・椎葉山地域は、九州山地の急峻な山岳地帯なのに、1800haもの棚田が広がり美しい風景を作りだしています。農業と林業を上手に融合させたこの地域独特の生活様式は、世界的に評価され2015年に国連食糧農業機関(FAO)によって世界農業遺産に認定されました。この地域の風景や生活を陰で支える山腹用水路の存在に光を当て、その重要性を客観的に評価し、次世代へつないでいくための研究が求められています。
宮崎県北西部に位置する日之影町・高千穂町・五ヶ瀬町・椎葉村・諸塚村は,長期的経営である人工林における木材生産と,毎年の収入源である多様な農業を組み合わせた山間地農林業複合システムを構築し,農林家の生計手段が木材採取や開墾等過度な森林利用に陥ることなく,森林と農林業の調和を図った世界的に重要なモデルとして,2015年に世界農業遺産(GIAHS)に認定されました.
高千穂郷・椎葉山地域 世界農業遺産 公式Web
世界農業遺産は,世界的に重要かつ伝統的な農林水産業を営む地域(農林水産業システム)を,国際連合食糧農業機関(FAO)が認定する制度です.
世界農業遺産とは by 農林水産省のWeb
宮崎大学では世界農業遺産に関する研究会を立ち上げ,この地域の特性を調査・研究しています.竹下研究室もこの研究会に参加し,農業水利の専門家として,世界農業遺産地域における山腹用水路と呼ばれる農業用水路の立地特性,開削の歴史等を調査・研究しています.
この地域は山岳地帯なため,江戸時代まではほとんど水田はなく,林業,焼畑,茶などで生計を立てていた地域とされています.江戸中期頃から徐々に用水路が開削されるようになり,少しずつ棚田が作られるようになりました.それでも,江戸末期までの水田面積はごくわずかでした.明治になるころから,大規模な農業用水路が開発されるようになって,数多くの農業用水路が誕生し,それにともなって各地に棚田が広がるようになりました.
農業用水路のほとんどが,遠く離れた水源地から急峻な山腹斜面を横切りながら,長い長い距離を経て棚田まで水を運んでいます.多くの水路の幹線水路長は10kmを超えています.そのためこの地域の農業用水路のことを「山腹用水路」と呼ぶようになりました.
この山腹用水路がどういう特徴を持つのかを,他地域の農業用水路と比較しながら,少しずつ明らかにしています.
2017年3月に協議会主催でイベントを開催.イベント名は「ブラタケシタ」(笑) 高千穂町の山腹用水路についての講演の後,水路の面白さを実感できるところを実際に参加者と共に見て歩くイベントを開催しました.そのときの資料です.
ブラタケシタイベント資料.pdf
2017年12月に高千穂町主催で,ユネスコエコパークと世界農業遺産に関するシンポジウムを開催.高千穂町の棚田の美しさを,水路とからめて講演しました.そのときの資料です.
2017年シンポジウム資料.pdf
この調査研究は,宮崎県農政水産部農政企画課新農業戦略室,世界農業遺産高千穂郷・椎葉山地域活性化協議会の協力により行われています.