この研修では,水循環について理解を深めていくことを目的に話を進めていきました.
このwebでは,近年の温暖化の傾向が宮崎県の水循環に与える影響についての部分のみを掲載します.
地球の平均気温は1906~2005年の100年間で0.74℃上昇しているとされている.
地球の平均気温が上昇すれば,気候の変動幅が拡大し異常気象が発生しやすくなり,また北極や氷河の氷の減少とそれに伴う海水面水位上昇と海岸線の侵食,生物生態系の変化とそれにともなう食物生産の変動など,さまざまな影響が発生することが予測されている.
そういった影響は,宮崎県の気象にももちろん影響する.
図1 年平均気温予測値の地理的分布:気象庁/気象研究所がSRES/A2シナリオ(二酸化炭素の人為的な排出量が比較的大きいと仮定)を用いて予測した値を,農業環境技術研究所が1km毎に再解析したもの 図は,気象庁/気象研究所が発表している数値予報によって予測された宮崎県の年平均気温予測である.現在(1981~2000年),近未来(2031~2050年),21世紀末(2081~2100年)について示されており,温暖化が進行し近未来には海岸に沿って18~20℃域が現れ,14℃以下の低温域は高冷地へと狭まっていくと予測されている.さらに21世紀末には18℃以上の平均気温域が都城盆地域までに広がり,県内ほとんどの地域が14℃以上になることが予想されている.
図2 50年間の予測年降水量変化分布図:1981~2000年の年降水量に対してA2シナリオによる温暖化予測の2031~2050年の年降水量の増減を算出.気温の変化は,水循環にも影響を与えるとされている.現在の年降水量と比較して近未来はどれくらい雨が増えるのか,あるいは減るのかを私たちの研究グループで解析し示したのが右図である.図によると宮崎平野では約50mm減少するが,高冷地に行くに従って500mm以上降水量が増加することが予想されている.
過去30年間の県内の降水量を解析してみたところ,実際に多くの地点で降水量が増加していることが分かっている.加えて,宮崎平野では春の降水量が減少していることもわかっている.
図3 宮崎県内の主要流域の降水量予測温暖化によって雨の降り方が変化することがはっきりしつつあるが,これが水資源にどのような影響を与えるのかはまだよくわかっていない.そこで,宮崎県を流れる河川流域毎に温暖化によって降水量がどう変化するかを調べてみると,一ツ瀬川流域,五ヶ瀬川流域でやや減少する傾向にあり,とくに近未来の降水量の減少が明瞭である.
図4 一ツ瀬川流域の水収支予測 そこで一ツ瀬川流域を対象に,現在,近未来,21世紀末気候の予測降水量と河川流量予測モデルを使って,流出量と蒸発散量の割合を求めてみた.すると,蒸発散量の割合が徐々に増え,流出率が減少していくと予測された.
流出量の割合の減少は,水資源量の減少に関連する.したがって,温暖化による雨の降り方の変化は,今後水資源の不足をもたらす可能性がある.
○メテオエム・宮崎気象利用研究会 (2009):宮崎の気候資源への気候温暖化の影響強化―温度資源・降水への影響―,平成20年度成果報告書
○メテオエム・宮崎気象利用研究会(2010):宮崎県農業に関する地球温暖化の影響評価,平成21年度成果報告書
○竹下伸一・秋吉康弘・稲垣仁根(2007):宮崎における降雨パターンの経年変化,Journal of Rainwater Catchment Systems, 13(1),23-27
○竹下伸一・細川吉晴・稲垣仁根(2010):宮崎県における降水特性の空間的・時間的変化,Journal of Rainwater Catchment Systems, 15(2),67-72
○竹下伸一(2010):気候変化による宮崎県の降水量とその分布への影響,宮崎大学農学部研究報告,56,73-78
この報告は,2011年10月19日に,宮崎大学にて開催された宮崎県農業教育研究会林業土木部会研修会にて,講演した内容の一部を要約した資料の草案です.